第2話
俺は玄関の中に入ると、静かにそっとドアを閉めた。
そして、俺は考えた。ドアにカギを掛けておいた方が、いいのだろうか?
それとも、すぐに逃げられるように、カギは掛けないでおいた方がいいのだろうか?
うーん……。はたして、どっちが正解だろうか?
そこまでは、予習してこなかったな……。
そうだな……。とりあえず、掛けておくか。
俺は迷ったが、カギを掛けておくことにした。もしも住人が帰ってきた時に、カギが掛かっていなければ、不審に思うだろう。
そして、改めて俺は玄関を見回してみた。思っていたよりも、意外と狭いんだな。
外から見ると、もう少し広いかと思っていたが、そうでもないようだ。
もう少し広い家の方が、よかったかな?
まあ、仕方がないか。
靴は、一足も見当たらないな。やっぱり、留守のようだ。
俺は、ホッと一息ついた。
玄関には、下駄箱と傘立てがあった。
まあ、そんなのは当たり前か。玄関以外にあったら、それはそれでおかしいだろう。
傘立てには、黒い傘と赤い傘がそれぞれ一本、合計二本の傘があった。
夫婦二人暮らしだろうか?
下駄箱の上には、白い電話機と卓上カレンダーが置いてあった。
俺は、下駄箱を開けてみた。下駄箱の中には、靴が入っていた。
それも、当たり前か。
男物の革靴やスニーカー、そして女物のハイヒールなど、数足が入っていた。
やっぱり、夫婦二人暮らしか。子供の靴は、見当たらないな。
俺は、念のために靴の中を見てみたが、金目の物は見当たらなかった。
さすがに、こんなところには隠さないか。俺だったら、自分の靴の中は臭くなりそうで、隠したくないな。
俺は、下駄箱を静かに閉めた。
傘立ては――
いくらなんでも、閉じた傘の中には隠さないだろう。
雨の日に傘を使うたびに、別の場所に移動させなければならない。それだったら、最初から移動先に隠しておいた方が、手間が掛からないだろう。
さて、いつ住人が帰ってくるか分からない。あまり、ゆっくりはしていられない。
俺は玄関から上がろうとして、また考えた。
靴は、脱ぐべきだろうか?
このまま土足で上がれば、靴の跡ですぐにばれるかもしれない。しかし、靴を脱いで上がれば、もしもの時に裸足で逃げなければいけない(靴下は、履いているが)。
うーん……。
もしもの時の事ばかり考えていても、仕方がない。やっぱり、あちこちに靴跡が残るのはまずいな。
警察が、靴跡から俺にたどり着けるけは分からないが。
俺は、靴を脱いで上がる事にした。
そして、脱いだ靴だが。このまま玄関に置いておいたら、もしも住人が帰ってきたら、見覚えのない靴があれば、さすがにおかしいと思うだろう。
俺は、しばらく考えた末に、自分のカバンの中に靴を押し込んだ。大きいカバンを持ってきて、正解だったな。
さて、こうしてはいられない。早く、取りかかろう。
さて、一階と二階、どちらから探してみようか。
よし。迷っていても、仕方がない。ここは、パッと決めるぞ。
まずは――
二階だ!
俺は、ゆっくりと階段を上がり始めた。階段を一段一段上がるたびに、俺は再び心臓がドキドキしてきた。
これから、いよいよ犯罪を犯すのだ(家に入った時点で、不法侵入とかいうやつだが)。
ドキドキしても、当然か。
一歩歩くごとに、足音が響くんじゃないかと気になったが、どうせ留守なんだから、もう少し堂々としていよう。
さて、二階に上がってきたが、どうやら二階には二部屋あるようだ。
俺は、とりあえず左の部屋を覗いてみた。
ベッドが一つか。どうやら、こちらは旦那の寝室のようだな。明らかに、男の臭いがする。
俺は、一度ドアを閉じると、今度は右の部屋を覗いてみた。
やっぱり、こっちは奥さんの寝室だな。明らかに、こっちの部屋の方が、いい匂いがする。
俺は、一度ドアを閉めた。
さて、どちらの寝室から調べようか――
こっちだな。
俺は、奥さんの寝室に入った。
何故、奥さんの方にしたかって?
べ、別に、深い意味はない。奥さんの方が、色々と――
そ、そうだ。宝石とか、あるかもしれないからだ!
寝室には、ベッドとクローゼットと小さなタンス、そして小さな机に椅子があった。
さて、どこから調べようか――
俺は、とりあえずベッドに近付き、掛け布団をめくってみた。
――な、なんか、ドキドキするな。
俺は、またまた心臓がドキドキしてきた。
ここで、奥さんが寝ているのか。
ふむ、特に何も隠していないみたいだな。
ちょっと、いい匂いが――
って、俺は何をしているんだ。俺は、空き巣に入ったのである。
これでは、ただの変態である。こんな事を、している暇はない。俺は、変態ではないのだ。
ベッドは、もう無視だ。
俺は、次はタンスを開けてみることにした。
数分後――
結論から言おう。
タンスの中には、残念ながら金目の物は何もなかった。
ただ、奥さんの○○にドキドキしただけだった――って、だから俺は、変態じゃないと言っているだろう!
俺は、立派な空き巣だ!
ま、まあ、立派とはいっても、今日が初めてだけど――
俺は、気を取り直して、今度はクローゼットを開けてみた。
クローゼットの中には――
あんまり、入っていないな。
冬物のコートがあるな。ポケットの中に、何か入っていないかな?
俺は、コートのポケットに、手を入れてみた。
――おっ、何か入っているぞ。
俺は、それを取り出した。
うん? なんだ、この茶色い小さな物体は?
それは、小さな丸い物体だった。どう見ても、金目の物ではないな。
これは、お菓子か?
俺は、匂いを嗅いでみた。
これは――
ビスケットかな?
なんで、ポケットの中にビスケットが?
まさか、このポケットを――
まあ、深く考えるのはやめよう。
他に、何かないのか? ここの奥さんは、宝石の一つも持っていないのか?
がっかりだな。っていうか、俺の奥さん――いや、元奥さんも、宝石なんて持っていなかったな。
いつの頃からか、結婚指輪も見なくなったな。あの指輪、どうしたんだろうか?
いやいや、こんなところで思い出に耽っている場合ではない。どこかに、ヘソクリでもないのか?
俺は、クローゼットの中を隅々まで調べてみた。しかし、金目の物は何もなかった。
くそっ!
あとは、この机か。
机の上には、少し大きめの鏡が置いてあった。
この鏡は、なんだ?
俺は、鏡を覗き込んだ。別に、普通の鏡だな。
こ、これは――
どこのイケメンが映っているのかと思ったら、俺だった。
――って、そんな事をしている場合ではない。
俺は、引き出しを開けてみた。
これは、化粧品か? 引き出しの中は、化粧品だらけだった。
どうやら、この部屋の匂いの正体は、この化粧品のようだな。奥さんは、この机で化粧をしているのだろう。
しかし、この化粧品の数は凄いな。
俺の元奥さんは、こんなにたくさんは持っていなかったぞ。
いや、俺が知らないだけで、持っていたのだろうか?
この化粧品の中に、高級な物はあるのだろうか?
しかし、こんな物を盗んだところで、どうしようもないな。こんな、他人の使った化粧品なんて、買い取ってくれるところがあるとは、とうてい思えない。
かといって、俺が使うわけにもいかないしな。
俺には、女装の趣味はない。
その時、俺は思った。奥さんは、何歳くらいなんだ?
俺は、勝手に若い奥さんだと思って○○に興奮していたが、若い奥さんが、こんなにたくさん化粧品を使うのだろうか?
うーん……。正直、俺には全然分からない。
結局、この部屋には、金目の物は何もなかったな。
預金通帳や現金は、一階の部屋だろうか?
俺は、奥さんの寝室を出た。
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