有終

「そんなにせっつかれるのでしたら、お望み通り一回死んでみます?」

ハンチング帽を被った背丈の高い男は、一通り青年をなぶった後に、掴んだ胸ぐらを引き寄せて、そう囁いた。青年の紺色の髪が僅かにさらりと風に靡く。青年の頬や額は青く腫れ、唇からは鮮血が細く線を引き、顎を伝って滴り落ちている。重力にかなってだらりと力無く垂れ下がる腕にも、無数の赤い斑点や擦り傷がありありと刻まれ、青紫に鬱血していた。至る所に、それはもう見るも無惨な有り様だ、といえる程に襤褸布状態だった。

「この様でもどうせ、まだ生きているんでしょう?ほら、へばってないでちゃんと起きて下さいよ。生命維持の意思がそれほどにまであるならば」

男は、青年の左耳のピアスを摘まんで、グッと横に引っ張った。青年は顔を歪ませる。

「…ッ…ぁあ、あ…」

鼓膜に、ぶちぶちという血管が切れる音が伝わる。接合部が黄色く変色し、軈て赤く染まっていく。次に皮膚が裂ける、という過程が待ち構えているのは予想には易い。青年は、ゆるゆると手を上げ、男の腕を弱く掴む。男は、青年の様を見据えて、口角を上げた。

「…おやおや、そうですか。これではまだ足りませんか?これでは制止を促す、というより、もっとやってくれ、とすがっているようにしか窺えませんねぇ」

虚ろな金色の瞳が、半目のまま片方だけ開いて、自らに手を下さんとする男を写す。男はピアスから指を離すと、その指は、今度は青年の首へと触れ、なぞりながら…掌でそのまま緩く締め出した。呼吸器官を塞がれつつあるせいで、息苦しさに青年は眉間にきつく皺を寄せる。

「……ッか、は、…はァ、ぐ……ぁ、あ」

力は強まっていく。酸素が一切遮断され、脳に完全に循環しなくなった。最中、青年は口をはくはくとさせ、何かを訴えようとする。が、喉仏も共に押し潰され、声を出すこともままならない。苦しさに涙が浮かんでくる。次第に、男の腕に添えられた指先ががくがくと痙攣し、瞬間にいっそう固く握られるとーーー体から一気に力が抜けた。腕に重みが掛かる感覚を受けながら、男はしばらく、傾いた青年の顔を眺めた。背負った夕陽に浮き立つ瞼や睫毛、鼻筋。半開きになった口許。

「…」

男はひとり、呟いた。

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小噺 餅米 @wjpwwjpw

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