第7話 リダウト5
「今回の任務はカウラの住民からの依頼だったが、討伐する魔物の増減が激しい。その件に関して聞き込みをしてほしい」
「…分かりました」
カウラといえば、フォレスタを抜けた先にある小さな村で、別名、森の村と呼ばれている。柵付きの古い木造建ての民家が並ぶ、昔ながらの風景をそのままに引き継がれており、都会の空気が運ばれてくる事のない、俗にいう田舎だ。ジオン達も何度か訪れていた。
「では明日、朝すぐにカウラに向かいます。連絡は…」
「いい。すぐに発ってくれ。本日もお疲れさん、ゆっくり休んでくれ。散」
「では、失礼します」
リヒトが一歩後ろに下がり、頭を下げる。
「…失礼します」
次いで、ジオンも同じく頭を下げた。どうやら、今度こそ本当に終わりのようだ。リヒトは振り返り、出入り口に歩いていく。ジオンも斜め後ろを付いていく。ルーザーはその背中に手をひらひらとさせて、部屋から出ていく二人を見送った。
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二人一組ということもあり、寝室も二人で使う。息を合わせるためのは、こういったことも必要だというルーザーからの謂れだ。最も、口実は建前だけであって、実のところ、単純にこの城の部屋数が少ないからである。壁にあるスイッチを押すと、天井にあるランプが作動して、燃料を燃やして火が灯った。リヒトは壁際にある椅子に座り、机に向かって筆を走らせる。早速、報告書を始末しているらしい。ジオンは自分のベッドに腰を下ろした。
「ふあぁ…疲れた…」
大きな欠伸をして前屈みになるジオン。瞼には力がない。疲労感を乗せた声色から、大分気を張っていたようだ。これはまだマシなほうで、以前は、それこそ死んだようにすぐに眠りに落ちていた。
「…今日の魔物の討伐についてだが、」
ややあって、リヒトが、口を開いた。ジオンが彼を見る。
「改正すべきところを発見してだな」
「…自室に戻っても説教かよ。聞きたくない、ヤダネ」
「反省の場を設けられる場所でもあるからな。その日に伝えておかなければ、お前は翌日になればきれいさっぱり忘れてしまう」
「おま、言い過ぎだっての。人ってのは聞きたくないことは流す習性があるんだって」
「ほう、オレの教授は受けたくないというのか」
リヒトが手を止める。
「お前の鳥頭に隅から隅まで金槌で叩き込んでやろうか」
「…ごめんなさいさすがに死ぬから止めて」
声が低くなった彼がこちらに顔を向けていなくても、どんな表情をしているか感じ取れたジオンは、危機を察知して謝罪をする。再び筆を滑らせ始めるリヒト。書類を書き終え、筆を置いてジオンの方に体を向けた。
そこから、長い長い話し合いは始まった。
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「ふ、ああ~ぁ~…」
手早く身支度をし、確認を済ませ、部屋を出た。猫背で歩きながら、ジオンは大あくびをする
「だらしがないぞ」
対照に、リヒトは変わらず背筋を伸ばし、足取りはしっかりとしていた。
「しゃんとしろ」
「…大体、寝不足なのはお前のせい……」
「煩い。オレも同じだ」
反論を、用紙を丸めて投げるくらいあっさりと切り捨てるリヒトに、眠気で頭が回らないものの紙を拾い文句で対抗しようとするジオン。既にいつものお決まりパターンとなっていた。返ってくる言葉といえば、
「何なら、一発いるか?」
拳を眼前に差し出し、許可はなくとも今にでも動きそうな彼に、ジオンはやはり、不服ながらも気を引き締める。目覚まし、という意味であると信じたいところだが、完全に目が本気を訴えていた。
「分かったよ、しゃんとするよ…」
渋々了承して、背筋を伸ばす。それでも眠いものは眠いのだと、ジオンはひっそりと愚痴を溢した。
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リダウトからフォレストを東へ歩くこと約二十分。二人はカウラに到着した。古びた木造の民家が立ち並び、木の壁には苔が生えており、所々黒ずんでいる。木の囲いは各民家に設置されており、扉の斜め前には、同様に古びたポストがあった。草木の間から木漏れ日が燦々と降り注ぐ。穏便で平和な、喧騒とは無縁の、木々に囲まれた自然豊かな村。中央に、カウラ案内の立て札が立てられている。
「さて、ルーザーさんからの頼みもあるが、オレは調べものがある。お前は、聞き込みをしていてくれ」
そう言うと、足早にとある建物に向かった。
ここには、リヒトの書斎がある。見た目は他の民家と変わらない。鍵には特殊な魔導式を掛けており、本人にしか解けない仕様となっていて、どんな破壊力を持った道具や武器でも壊れることはないという。構造がどうなっているのかは、リヒトしか知らない。一度、ジオンも踏み入れたことはあるが、そういえば案外散らかっていたと感じた記憶があった。
(よし、)
聞き込み、といっても、具体的な内容を知らされていない。ルーザーは確か魔物の増減と言っていた。だとしたらそのことを尋ねればいいのか、かといってどう説明をすればいいか分からない。そもそも自分はリダウト歴は浅い故、リダウトに長く勤めている二人より環境には詳しくないのだ。そこまで難しくは考えられない…、いや、考えていない彼は、とりあえず投げ槍でもいいので村人に当たってみようと、近くの女性に声を掛ける。
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