第4話

 気が付くと柳地は見知らぬところにいた。ここはどこだろう? 辺りを見回すと墓標が多くある。墓地か? でもなんで自分が墓地にいる? ここ10年間身内で死者はいないはずだ。

 空を見上げる。天気が悪い。雨が降り出しそうな空模様。そして薄暗い。

「栞が、栞が…」

 泣き声が聞こえる。この墓標の裏から。でも聞き覚えのある声だ。

 すぐに裏に回る。いたのは彰。

「あ、彰じゃないか! 久しぶりだな! でもどうしてこんなところにいてそして泣いてるんだ?」

 彰は墓標の方を指さす。

「これが何か、あるのか?」

 墓標を調べてみる。城島家之墓と掘られている。それ以外に妙な点はなさそうだが…。

「あっこれは…」


 平成26年5月13日 栞 二十歳


 そう掘られている部分があった。

「栞が、栞が…」

 彰はまだ泣いている。

「おいこれ…嘘だろ?」

 彰の肩を掴んで問いただす。

「栞が、栞が…」

 彰はそれしか言わない。

「おい彰! 何か言えよ! 何がどうなってるんだよ!」

 今度は彰を思いっきり揺さぶってみた。

「栞がどうかしたのか! 何が起こったんだ? 答えろ!」

 彰は泣くのをやめない。そしてただ延々と、

「栞が、栞が…」

 とだけ繰り返す。

「それだけじゃ何もわからないだろ。他に何か、言えないのか?」

 彰は泣くのをやめない。そしてただ繰り返す。このままではらちが明かない。

 落ち着いて状況を整理しよう。俺は今墓地にいる。そして墓標には栞の名が掘られている。死んだ日は今年の5月13日らしい。

「もしかして、栞は死んだのか?」

 そう言うと彰は泣くのを止めた。そして柳地に飛びつき、

「お前のせいだああ!」

 叫んできた。

「うわっいきなり何だよ? どうしたんだよ?」

「お前があの言葉を教えたから栞が死んだんだあああ!」

 あの言葉…ムラサキカガミのことだろうか?

「お前が教えなければ! お前が言わなければ! お前がいなければ!」

 彰は柳地のことを突き飛ばした。柳地は尻餅着いた。

「お前が悪い! 呪われるべきなのはお前なんだ! 死ぬべきなのはお前なんだ!」

 落ち着けよ、と言いだそうとしたが地面に当てている右手に違和感を感じた。右手を見る。

「し、栞?」

 栞の上半身だけが地面から出ており柳地の腕を掴んでいる。

「あっちで待ってるよ…柳地…」

 栞が柳地のことを地面の下に引きずり込もうとして腕を引っ張る。

「あと3か月…。楽しみにしてるよ」

「うわああああああ!」

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