第7話

 センター試験の出来はよろしくなかった。でも自分が悪いと言うことは他のみんなも悪い。だから気にすることはやめた。

 大手の塾のサイトにセンター試験の点数を入力する。すると合格率を教えてくれる。

「8割で合格か」

 実は長野県立大学は偏差値はそれほど高くはないのだ。自分に見合った大学ではない。本来ならもっと上を目指せるのだ。でもしない。森谷もそうしなかったから。

 センター試験が終わると今度は私立の受験。新幹線で移動しまくる。難関大学は一つも受けてないので受けた大学は全部合格した。東連大学にもだ。

 そして両親に自分が東連大学に行きたいことを話した。最初は反対されたが、何とか説得した。

 2月の下旬。この日、全国で一斉に国公立大の入試が行われる。長野県立大学の入試は地元の大手の塾で受験できたのでわざわざ長野県まで行かなかった。

 試験開始前、まだ会場が開かれないので塾の外で待っている。

「お! 三ツ村!」

「森谷か!」

 森谷もこの塾で受験することにしたようだ。

「今日のコンディションはどうよ? 雪、降ってるけど」

「フン。天気が何だ? 俺には関係ないぜ。全然な」

 会場が開かれた。塾の建物の中に入っていく。

「俺はシステム科学技術学部だからこっちの教室だ」

「俺は生物資源科学部だからあっちの教室だ」

「じゃあ後で。試験終わったら駅まで一緒に帰ろうぜ!」

「おういいぜ!」


 試験は順調に進んだ。受験科目は英語と生物だけなのではっきり言って自分が落ちる要素がない。

 最初は生物。簡単な問題は取りこぼさず、難しい問題にも食らいつく。今まで蓄えてきた知識をフル動員する。

 次は英語。赤本で過去問を解いた時、いつも時間内に解き終わらなかったのでそれが心配だ。だが今日は長文読解は良く読めるし自由英作文も素早く書ける。解き終わると時間が余った。


 入試の全行程は終了した。待ち合わせ通り森谷と帰るために彼を待つ。

「お前は帰るのも早いな」

「おまえが遅すぎんだよ。テスト、どうだった?」

「バッチリだな。もう俺の勝ちだ!」

 森谷は勝利宣言する。対して柳地も、

「俺の勝ち、だ!」

 と言って対抗する。駅まで歩いている間、物理と数学ではどんな問題が出たかを聞き、生物と英語がどうだったかを話す。

「じゃあよ、おまえも受かるかもしれねえのか!」

「お前だけ受からせたりはしないぜ」

「となると、決着は長野県立大学でか?」

 そう聞くと森谷はテンション低めに、

「かもな…」

 とだけ言った。


 卒業式の日がやって来た。今日でこの浅浜高校ともおさらばである。思い返せば勉強ばかりしてきた。兄からすればつまらない学校生活だろうが、森谷がいたから試験で競争して十分楽しめた。

 卒業式はすぐに終わった。これから各クラスに分かれて卒業証書の授与がある。

「三ツ村柳地」

 担任に呼ばれ、前に出る。そして卒業証書を受け取る。

「いつもクラスをリードしてきたね。大学に行ってもみんなを引っ張っていける人になって下さい」

 そんなコメントをもらう。

「わかってます。そのつもりで頑張ります」

 このクラスの誰もが自分は長野県立大学に行くと思っているだろう。でも違う。1年の時の担任に悪いがそこには受かっても行かない。両親と話し合ってもう東連大学に行くと決めた。でもその肝心なことを、森谷に言っていない。きっと森谷は長野県立大学の入学者の中に自分がいないから勝ったと思うだろう。悔しい気もするが大学は自分の将来に強く関わるところなのだ。自分のやりたいこと、つまり虫の研究のために自分は東連大学に行く。

 卒業式も終わって1週間すると国公立の合格発表があった。一応合否を確認したくてネットにつないだ。

「合格番号一覧か。あまり見たくないな」

 高校受験の時の記憶が蘇る。自分の番号がなかったあの絶望感。2度と味わいたくない。

「あった」

 受験票と照らし合わせても間違いない。合格だ。でも嬉しくない。行かないから。


 次の日には浅浜高校に行って。合格の報告をした。

「これで三ツ村君も長野県立大学生だね」

「…実はそうじゃないんです…」

 非常に申し訳なさそうに柳地は事情を話した。

「そうなの…。まあ、それはしょうがないわ。でも合格したのには間違いないから、胸を張って。そしてその東連大学で頑張ってね」

 先生たちとそんな会話をして、職員室を出た。

「お、三ツ村」

 森谷にばったり会った。彼も今日報告に来たのだろう。

「森谷、どうだった?」

「俺か? 合格だったぞ…。三ツ村は?」

「俺も、合格さ」

 何かテンションが低い。何故だろう?

「じゃあ決着は大学で、か…」

 とにかくこれまでのことを話さねば。

「実は、俺、長野県立大学には行かないんだ…」

「え?」

「東連大学の方が研究内容が自分に合ってるからさ、そっちに行くんだ。今まで黙っててごめんな。決着も着けられなくて済まない…」

 もう何を言われてもいい。話すべきことは話した。

「お前もなのか…」

 お前もって?

「実は俺も、地元で就職したいから、北中部学院に行くことに前から決めてたんだ。でもそれを言い出せなくて…」

「何だよそれ?」

 柳地は笑い出した。

「何か俺ら、似た者同士じゃね?」

 2人で笑った。笑い声は廊下に響いていた。

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