第2話
「へえそんな奴が? 柳地的にはどう思う?」
「ほっとく。勝手に言ってろって感じだな」
行きつけの中古カードショップで達也とゲームをしながらそんな会話をする。
「でもそういう奴に限って、自分から悪い点数取って負けてくれるんだよな」
今までそうだったので今回もそうだろう。森谷は口先だけだ。
「そんなに余裕かよ? このゴールデンウィーク最終日にここで遊んでて大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。もう試験範囲は一通り押さえた。あとはテストを受けるだけだ。おまえこそどうなんだ? 高専ってのは?」
「まあ数学とかは難いな」
「そんなごつい電卓使ってるくらいだからそうなんだろうな。卒業したらどうするんだ?」
「就職だな。でもあと3年先の話だ。逆にお前の大学受験の方が心配だぜ」
「おまえに心配されるようなことはない。順調だよ」
「なら、それにこしたことはねえな」
達也は少し安心したようだ。
「それよりさっさとターンを進めていい? グレズ召喚。効果」
「天罰で」
「ちっ。こりゃあまたおまえの勝ちっぽいな」
達也とは中学時代からカードゲームで遊ぶが、いかんせん柳地は弱い。あまり勝ったことがない。でも達也と遊ぶのは楽しいことだ。試験明けの楽しみである。
できる限りのことはやった。そして実力テストの結果が帰ってくる。今回は勉強期間が前のより短めだったのでカバーしきれない教科があったが、それでも担任によると30位以内には入っているという。
発表された順位表に自分は25位にランクインしていた。
「俺がこの順位って、今年の選抜準選抜はそうとうできないのか?」
だとしたら間抜け過ぎる。本当に受験に失敗した人しか通っていないのかもしれない。
「おっ三ツ村! どうだ!」
いきなり横から大声を出される。その方を向くと森谷がいた。
「なんだ朝から騒がしい」
「宣言通りだっただろ! 今回は俺の勝ちだ!」
ああそう言えばそんなこと言っていたな。順位表を確認すると21位に森谷の名前があった。
「別に俺はおまえと競ってない。俺を標的にして頑張るのは勝手だが…」
「なに言ってんだよ? 負け犬の遠吠えか?」
その言葉に少しイラつきを覚えた。
「何だと!」
「実際そうじゃないか。俺は今回、お前に勝ったんだぜ? 現時点で俺が一般クラスで一番頭が良いってことだろう?」
こいつ…。
「喧嘩売ってるのか?」
「あれ? 宣戦布告なら前にしたぜ? 聞いてなかったのかよ?」
いや確かに聞いたが。一々相手にしてると面倒だと思っていた。
「たかが1回、順位が上だったからって…」
柳地はそう呟いた。それを森谷は聞き逃さなかった。
「でもその1回が重要なんだよ。ここから俺の時代が始まるんだ。前から三ツ村、お前が頭良いのは聞いていたが。選抜クラス行きを逃した奴も大した相手じゃないな」
その言葉に柳地はカチンときた。
「おまえ! 調子に乗ってるんじゃないぞ! それに2組に上がらなかったのはな、上がれなかったんじゃない。俺から断ったんだ。勘違いするな!」
今度は柳地の方が大声を出した。
「ほほうそうかい。でも、俺に負けたじゃないか。それは事実だぞ。俺はこの調子でもっと上を目指していけるぜ」
「いいや違う。次に勝つのは俺の方だ!」
森谷をわざわざ指差してそう言った。
「ちょうどいい。競う相手がいなくてつまらないと思ってたところだ。俺の闘志を燃やさせたことを後悔させてやる!」
勉強は一人でやるものだと思っていたが、あれだけ言われては黙っていられない。こうなれば全力で勝ちに行くだけだ。
「その言葉、忘れるなよ? じゃあ次の試験、楽しみにしてるぜ」
森谷はそう言うと五組に戻って行った。
柳地も自分の教室に戻った。そして
「三浦。おまえ確か去年森谷と同じクラスだったよな?」
「ああそうだけど、森谷がどうかした?」
「さっき順位表を見てきたんだがあいつは結構勉強できる方なのか?」
「森谷は頭が良いよ。かなりね」
「じゃあ何で上のクラスに上がってないんだ?」
「断ったらしいよ。本人がそう言ってた」
ということは自分と立場が同じ。目の敵にされるのも無理はない。
「何で断ったかは、わかる?」
「さあ。そう言えば三ツ村も頭良いのに上のクラスに上がってないよね。どうして?」
「俺も断ったんだ。なんつーか、選抜クラスじゃないと国公立大に行けないようなムードじゃん? それを壊したくてさ。それに勉強なら自分でできるし、ハイレベルな授業は求めてない」
三浦はそれを聞いて、
「なら森谷も同じ理由なんじゃない? 1組2組の人に対して敵対心が強かったからねあいつは」
なるほど。そうなら一般クラスで上に立ちたいわけだ。それで、自分が邪魔だから蹴落とそうとするわけだ。
「なら、負けるわけにはいかないな。俺だって一般クラスにいる理由があるんだから」
森谷悠生。本当にうるさい奴だ。今度のテストで徹底的に叩きのめして黙らせよう。
「おいおい負けちゃったのかよ。あんなに余裕ぶっこいてたのに」
達也と携帯でメールをする。
「次があるさ。そこで思いっきり絶望させてやるよ。俺を舐めたことを後悔させてやるさ」
「まあ頑張ってくれ。競いながら勉強するのも成績アップにつながるんじゃない? 良いことだよ」
確かに誰か競争相手がいると、負けたくない一心で勉強に励むことができるだろう。
「きっとセンター試験で決着がつくよ」
志望する大学は変更する気はないので、受験する大学まで比べるようなことはしないだろう。
「センター?」
「おい知らないのか? 毎年1月中旬にやってる、国公立大を受験するなら必ず受けなきゃいけないテストだろ?」
「だって俺は高専なんだぜ? 大学受験しないし」
「…」
工学系の高専に進んだ達也は卒業すればエンジニアか何かになるのだろう。本当に虫の研究はしないんだな、と思った。小学生の頃あれだけ昆虫採集をしたのに…。
というか達也がいなければ、自分は虫に興味を持たなかった。そんな達也が自分と違う道を歩み始めたのが何だか悲しい。
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