第5話

 ゴールデンウィークも終り、校庭は封鎖された。

「柳地。本貸してくれよ」

 晃志郎がそう言う。読書タイムで読む本を持ってこなかったんだろう。

「今ロッカーにあるのは赤い本と緑の本だね。どっちがいい?」

「緑のやつはこの前読んだからな。赤にする」

「わかった。赤だね? 取ってきていいよ」

 今度は凜子が寄ってくる。

「ウチも、いい?」

「緑の本しか残ってないけど…。それともこの昆虫図鑑にする?」

 柳地の机には常にポケットサイズの昆虫図鑑が入っている。それを取り出したが、

「遠慮する。ウチは虫嫌いだから…」

「そっか。それは残念」

 ロッカーに行った晃志郎が帰って来た。手には青い本が握られている。

「赤の本にするんじゃなかったの?」

「もう誰かに借りられてたよ。これはまだ読んだことないな。新刊だろ? これにするよ」

「いいよ。それは昨日持ってきたばかり。多分栞しかまだ読んでない」

「怖いか?」

 柳地はう~むと首を傾げ、

「君によるかな? ボク的にはコンビニのトイレの花子さんの話は割と面白かったよ」

「そうか。なら期待できるな」

「り、柳地…」

 凜子がロッカーの方で呼んでいる。

「どうかした?」

 そっちの方へ行く。

「もう本、ないんだけど…」

 言われてロッカーを確認すると確かにもう本はなかった。

「あー。また誰か無断で取ってったんだ。一言ボクに言ってくれればいいのに」

「ウチの分の本は?」

「ごめん。昆虫図鑑しかもうない…」

 柳地のロッカーには何冊か怖い話の本が入っている。それをクラスのみんなに貸す。晃志郎のように一言かけて借りる人もいるが、何も言わずに借りていく人も多い。ちゃんと管理していない柳地にも非があるが。

「えー…。昆虫図鑑…」

「嫌なら国語の教科書で誤魔化すしかないね」

 そんな話をしていると、義孝が紫の本を返しに来た。もちろんこれを捕まえる。

「義孝。君、借りるって言ってないでしょ? 困るよちゃんと言ってくれなくちゃ」

「いいじゃんかよ。みんな勝手に借りてるんだし。何も俺だけじゃない」

「そういう考えは駄目だよ!」

「…とりあえずこの紫の本、借りるね」

 そんな会話が朝交わされる。


 放課後、柳地は栞のところに行った。

「あの青い本、どうだった?」

「ああ、あれね…」

 本の感想を聞きたかったが栞の表情が曇ってきたのであまり期待できない。よろしくなさそうである。

「何か、マンネリって言うか…。新鮮さが足りないね。心霊写真も嘘っぽいしさあ、話もどこかで聞いたことあるようなやつばかりだし…」

「新鮮さ…?」

 怖い話の新鮮さって何だ?

「何かないの? もっと面白くて怖い話は?」

 栞は柳地の言う怖い話に満足していないようである。

「1人かくれんぼとかは?」

 これを言うのは最初ではない。

「それは去年聞いた」

 栞の方も覚えていた。それはそうだ。栞の方が自分より賢いのだから。自分が覚えているなら栞も当然覚えている。

「確かやってみたんだっけ?」

 あれほどやめておけと言ったのに、栞は1人かくれんぼを実際にやってみたようだ。

「やった。でも、特に何も起こらなかった」

 柳地は無言だった。何も教えることができない自分に無力感を感じていた。

「何かないの? もっと探してよ! 私は柳地から怖い話を聞くのが楽しみなんだから!」

 そんなこと言われても…。とにかく今は何もない。

「なら、さ」

 柳地は少し焦りながら、

「今週末に探すから、来週の月曜日まで待っててよ」

「本当に?」

「任せてよ。ボクにかかればすぐ見つかるさ!」

 全く根拠のない自信で約束をしてしまった。

「じゃあ、期待してるからね」

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