第6話
土曜日。家の近くの本屋に行く。栞との約束を果たすのだ。
「これでもない、これでもない…」
本はビニールで包装されているので表紙だけで判断するしかない。全部柳地の勘で選別していく。
「これは…持ってるな」
次の本を手に取る。
「これも買った記憶があるぞ」
次の本も、その次の本も見た記憶がある。記憶があるということはその本はもう持っている。
「駄目だ駄目だ~。全部持ってる本ばかりじゃないか!」
自分で自分の頭を殴る。こんな結果になるんなら約束なんてするんじゃなかった! 今頃後悔しても遅い。
気分転換に雑誌のコーナーに行くことにした。
「そう言えば今日は最新刊の発売日か…」
毎月楽しみにしている月刊誌がある。柳地より幼い層がターゲットなのだろうが内容が面白いので買っている。怪談話を題材にした漫画が連載されておりそれが面白い。
財布の中身を確認する。そして月刊誌の値段も見る。
「500円か…」
財布の中身も月刊誌の値段も一緒。これを買ったらもう小遣いがない。
迷う。非常に迷う。最新話を読みたいが、これを買ってしまえば栞との約束が果たせなくなる…。
「待てよ…?」
そうだ。その漫画、栞に見せてやればいいんだ。漫画は貸したことはないが怪談好きの栞ならいやがることはないだろう。あの漫画の単行本なら5巻まで出ている。それで満足するかどうかはわからないが今はそうしよう。学校に漫画を持って行くわけにはいかないので、来週のスイミングスクールの時にでも持って行けばいい。
「とりあえず今はこれを買おう」
そう言って柳地は月刊誌を取り、レジに持って行った。
家に帰って来た柳地は早速月刊誌を読み始めた。お目当ての漫画は結構人気があるためか雑誌の頭の方に掲載されている。今月はセンターカラーだ。
「どれどれ最初は…」
この漫画はひと月につき3話ずつ掲載されている。最初の話は廃校での話。直接お化けが出てくる話ではないので何か物足りない。次の話は事故に遭った子供の忘れもの。首だけが見つからず、忘れ物を記録しておくノートに血で、僕の首と書かれていたという話。面白くないわけではないがこの漫画、話の都合上とは言え人が死に過ぎている気がする…。
最後の話にも目を通す。一生懸命バレーボールの練習をしている少女が無理のし過ぎで死んでしまい(また死んでるよ…)、その後の怪奇現象の話だった。
今月号はもう読み終わった。だが漫画が全てじゃない。この月刊誌の漫画の後には、漫画でこそ取り上げられなかったが全国から寄せられる怖い話を掲載したページがある。1人かくれんぼを知ったのはそこでだ。それも見ておく。
「これ、は…?」
今月はムラサキカガミの特集だった。
昔、ある少女がいた。その少女は大事な鏡を紫色の絵具で塗ってしまう。その絵具が取れず、少女は後悔したまま二十歳を迎えようとしたが、ムラサキカガミ、ムラサキカガミと言いながら死んだ。
この記事によれば、ムラサキカガミという言葉を二十歳まで覚えていると呪われ、その誕生日に死ぬらしい。もし本当なら恐ろしい言葉である。相手に覚えさせるだけで、その人を殺せるのだから。
「こういう嘘っぽい話って、どうなんだろう…?」
何しろ相手は1人かくれんぼを実行したあの栞である。笑って馬鹿にされる気しかしない。栞はこの話、信じるだろうか…?
「でも二十歳になるまでボクならあと9年と5か月。その日が来るまで確かめようがないなあ」
自分はきっと覚えているのだろう。一度見たものは絶対忘れないから。でも栞の方はどうだろうか? そもそも忘れるって、どうやるのだろう?
月曜日。学校で栞と会った。
「で。本は?」
「見つからなかったわけじゃないんだけどさ、漫画なんだよ。学校に持ってくるわけにはいかないでしょう? だから金曜日にスイミングスクールの時に持って行くよ。それまで待ってて」
「じゃあ、今はないの?」
柳地は頭を下げ、
「ごめん…」
とだけ返した。栞が怒るのではないかと思っていたが漫画に期待しているからだろうか、怒らなかった。
「でも、さ。他に怪談話は仕入れてきたんだよ」
そう言うと急に反応した。
「何? どんなの?」
とても期待しているという眼差しを向けてくる。それに答えられるかどうかはわからないが柳地は話し出した。
「あのね、ムラサキカガミって言うんだけど…」
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