第4話
5年生に上がるとクラス替えがある。どのようにクラスに分配されるかは知らない。ある人は完全にランダムと言うが、またある人は成績順だとも言う。そんなことははっきり言って柳地には関係なかった。
「今年も一緒なら…」
他のクラスにも知り合いはいる。3年生のクラス替えでクラスが離れてしまった人たちだ。また新しく同じクラスになる人でもすぐに仲良くなる自信がある。
「あっボクの名前」
自分の名前を掲示されているクラス表から見つけた。今年は4組だ。そして今度は一通りクラスのメンバーを確認する。
「ええぇ…」
最悪だ。何が悪いって言うと、達也と同じクラスじゃない。あいつは1組だ。柳地は何か引き裂かれたかのような感覚を覚えた。クラス替えをもう1度やり直して欲しいとも思うくらいだ。学校側はボクたちの仲の良さを知らないのか? 一緒にするべきだろう!
「あ、でも…」
栞とは同じクラスだ。それを確認すると何故か安心できた。
早速5年4組の教室に向かう。教室には最初人はあまりいなかったが時間が経つと集まり出した。見たことのある人、知らない顔など様々だ。残り2年の小学校生活をこのメンバーで過ごす。できるなら一生ものの思い出を作りたい。
最初の席順は誕生日順である。5月生まれの栞と10月生まれの柳地が隣同士になることはまずないが、また席替えで隣になるんじゃないのかと思っていた。
先生がやって来た。知らない顔である。新任だろうか? 1時間目の着任式で寝ていたのでわからない。何か自己紹介しながら2時間目が進んでいく。
「転校生を紹介します」
今年もいるんだな、と思った。今まで多くの友達が転校してきたし、同様に転校していなくなった。親の事情のため仕方ないことなんだろうけど学校ぐらい自分で選びたいと思う。そして達也がいなくならなければ何も問題ない。あと、できれば栞にもいなくなって欲しくないな。
「まずは
先生はまず1人目を紹介した。続いて2人目も紹介する。
「次に
2人目は女の子か。自分より身長は高めだ。
紹介が終わると2人とも席に着いた。
「みんな、この1年間仲良くしましょう」
先生はそう言う。言われなくてもそうするつもりだ。転校生だからって差別はしない。
5年生の新しい教科書をもらい終わると2時間目は終わった。そして今日の学校は2時間目までなのでもう帰ることになった。帰る準備をしている時、柳地はさっそく転校生に話しかけた。
「君が、慎吾君だっけ?」
「ああ、そうだけど。君は?」
「ボクは三ツ村柳地。よろしく」
「よろしく!」
顔合わせは大丈夫だ。これから関わることがあればもっと仲良くなれるだろう。
「ちょうどいいや、柳地君」
「何?」
「学校内を案内してくれない?」
せっかく早く家に帰れるのに、と思ったが頼みごとは断れない。
「いいよ。まず1階から順に説明するよ。ついてきて」
2人で教室を出ようとした時、
「あ、柳地。どこ行くの?」
栞が話しかけてきた。
「これから転校生に学校案内するんだよ」
「ならさあ」
「何か用?」
「こっちの凜子ちゃんもお願いできる?」
自分でやればいいのにな。早く帰りたいんだろうがボクだってそうだ。
「…わかったよ。凜子ちゃんだっけ? ボクは柳地。よろしく」
「ウチは葛西凜子。よろしくお願いします」
栞と違って礼儀正しい子だなと思った。
「じゃあまず1階から行こうか」
柳地が歩み出すと、
「待って。どうせならこの3階からにした方がいいじゃん。そして2階、1階と降りていけばいいのよ」
栞がそう言いだした。
「栞も来るの?」
「当然。柳地1人じゃ頼りないからね」
なら栞に丸投げしてもう帰りたいが…。
「じゃあ行くよ」
4人で歩き出した。最初に向かったのは図書室だ。
「ここが図書室ね。この学校には1階にも図書室があるけど、そっちは低学年用だからこっちを使ってね」
「ボク的には、1階の図書室もおすすめだよ。あっちにしかない図鑑もあるんだ」
柳地がそう言うと栞が怒りだした。
「ちょっと! 説明してるんだから黙って聞いてなさい!」
ボクは聞く必要ないんだけど…。学校案内の主導権は栞が握った。柳地はただのお荷物と化した。
3階の案内が終わって2階、1階へと降りていく。もう5年目となる山尾花小の校舎なので、どこの教室がどこにあるかは知り尽くしている。
「じゃあ曲がれば保健室なんだね?」
「そうよ」
「俺は外で遊んでてしょっちゅう怪我するから、どこにあるかわかるとすごく助かるよ」
「そんな心配はいらないよ…」
柳地は言った。もちろん慎吾はどうしてと返した。
「だってね…。今年のゴールデンウィーク明けから、校舎改築のために校庭は使えなくなるんだ。その分室内で遊ぶのに雨の日でなくてもトランプとかは許されるんだけど…。あそこに立ってる体育館も、1か月後にはなくなるんだ」
「そう…なの?」
凜子がそう言った。柳地も栞も無言で頷く。去年から言われていたことだ。この市も人口が増えて子供も増えるので、今の校舎では足りないし耐震強度も問題があるかららしい。もっとも新校舎が使われるのは自分が卒業した後なので関係ない。
「それは知らなかったなあ。もし知ってれば付属の小学校に行ってたかも…」
「それは多分無理だよ」
「何で?」
「付属の小学校はガラポンで入学生を決めてるからね。転校生もそうなんじゃない? 確率はかなり低いんだって」
柳地の幼稚園の時の知り合いに付属の小学校に行った人がいたが、かなり少なかったのを覚えている。ガラポンで決めているかららしい。親から聞いた話だと兄はそれで入学できなかったんだとか。
「そうなのか…。なら、使えなくなる前に遊んでおかなくちゃな!」
慎吾はこの1か月間思う存分外で遊ぶのだろう。
「なんだか、悲しいね…。この校舎、なくなっちゃうんでしょう?」
凜子が言う。確かに校舎がなくなるのは虚しい。できればなくならないで欲しいが…。
「仕方ないよ。決めるのはボクたちじゃないんだから。それにこの校舎、不便なところもあるんだよ。なんたって、非常口の案内がないんだ」
そう言うと栞が、
「そんなどうでもいいこと、良く知ってるね」
「どうでも良くないよ。栞はちゃんと観察しないの? 見てなきゃダメじゃん」
「は? 別に火事でも起きるわけじゃないんだし。避難訓練なら毎回、柳地よりも真面目に取り組んでるし!」
「何を! ボクだって真面目だ!」
「嘘つき! この前、押したり走ったりしゃべったりしてたの誰よ?」
「あれは…。みんな守れてないだろ! ボクだけじゃない!」
言い合いがヒートアップしてきた。
「おいおい柳地君に栞ちゃん…だっけ? やめなよ」
「喧嘩するほど仲いいのね…」
転校生2人が止めに入ってくれた。もしそうでなかったらどちらかがやめるまでずうっと喧嘩しているだろう。
学校案内も終り、やっと家に帰れる。柳地は校庭の花壇で足を止めた。達也と同じクラスになれなかったことが悔しい。そしてこの花壇もなくなってしまうことも。できることなら全て、自分の元からなくなって欲しくない。
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