第4話

 チャイムが鳴った。五時間目の総合の開始である。日直が挨拶を済ませると早速、

「じゃあ、言った通り席替えを始めます」

 杉浦先生が言った。そして黒板に、児童の名前を書いていく。

「うわー真ん前かよー」

「やった後ろの席だ!」

 クラスの人の声が聞こえる。柳地は、自分の名前が書かれるのを無言で待っていた。

 ついに先生が三ツ村柳地と書いた。窓から左に2番目の列、前からの2番目の席だった。達也は右側の列の1番後ろ。やはり離された。

「では、この通り動いて下さい」

 椅子を机の上にひっくり返しておいて、みんなで移動を始める。誰かが引きずったまま動いているのか、ガガガガガっという音がする。

 こういう時、困るのが順番である。みんな我先に移動するため、道を譲ってくれないのだ。柳地が目的地に着く頃には、周りは移動を完了していた。

「よいしょっと」

 机を下し、椅子も下す。そして周りを見る。前は晃志郎、後ろは高橋義孝である。晃志郎とは少し話す程度で、義孝とはあまり話したことがないが、逆に仲良くなる良い機会である。と言うかそうなるように先生は席順を決めたのだろう。

 隣を見る。すると、

「初めまして、私は城島じょうじましおり

「ああ、ボクは三ツ村柳地。よろしく」

 自己紹介すると、栞は微笑んだ。笑うと何だか可愛くて、笑顔が似合う子だなと柳地は感じた。

「ではまず、自己紹介して下さい」

 先生がそう言うので、もっと詳しく紹介することにした。

「あそこに虫かごあるでしょ? あれ、ボクのオオカマキリなんだ」

「へえそうなんだ」

「さっきも昆虫採集してきて、餌には心配ないかな」

「柳地って、いつも虫の話してるよね」

「え、そう? ボク、君と話したことあったっけ?」

「ないよ。今が初めて。でも、モンシロチョウの世話、いつもしてるじゃん? その人でしょ?」

「そうだね。それボクだね。でも達也もよくしてるよ」

「茶髪が柳地ね。今わかった」

「これは地毛だからね。よく染めてるとか言われるけど、第一校則で染めるの駄目に決まってるじゃん」

 初めて話すのに、会話が弾む。気まずさが全く感じられない。

「栞は、虫とか興味ないの?」

「虫ね…。弟が去年カブトムシ飼ってたなあ」

「カブトムシ、かあ」

 柳地はどちらかと言うとクワガタ派だ。去年はノコギリクワガタとコクワガタを飼っていた。

「カブトムシって、新潟じゃあ普通に見かけるけど、北海道にはもともといなかったって知ってた?」

「え、そうなの! 全国的にいるんじゃないの?」

 自分の分野の話に持ち込めば、仲良くなるのは簡単だ。相手の知らなさそうなことを言えば、誰だって興味を持ってくれる。

「人が持ち込んだのが逃げ出したんだよ」

「そうなんだ!」

「あとね、雄のハチには毒針がないんだよ」

「ええ、ウソ!」

「産卵管が毒針になったからね。雌にしかないんだよ。ついでに女王バチにもないんだ。卵を産むからね」

「そうなんだ! 何か柳地って物知りなんだね!」

「物知りっていうか、まあ。虫好きではあるけどね」

「でもそれで、そこまで知ってるなんてすごいよ!」

「そうかな…。ボクとしては常識なんだけどね」

 栞の眼は輝いており、興味津々だ。もっと話をしてやりたいと思ったが、自分ばかり話していると相手のことを知れない。

「栞はさ、何か好きなこととかあるの?」

「う~ん、そうだね…」

 栞が言おうとして、杉浦先生が遮った。

「はいそこまで。ではプリントを配ります。今日は残りの時間これをやります」

 栞の自己紹介は聞けなかった。でも隣同士だから、いつでも聞ける。そう思って柳地は配られたプリントに取り組んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る