第3話


「今日もセセリチョウが飛んでるな」

 2人を結びつけたセセリチョウを、2人は今、オオカマキリの餌のために捕まえようとしている。それは2人も自覚しているが、仲が険悪になるわけではないので気にしない。

 まずは達也が動いた。洗練された無駄のない動きで、とまっているセセリチョウを捕える。

「よし、開けろよ」

 虫かごの蓋の近くにオオカマキリがいないことを確認すると、柳地は蓋を開けた。

「はい」

 達也はセセリチョウを虫かごの中に放り込んだ。入れられたセセリチョウはすぐにオオカマキリに捕まり、食われた。

「もう1、2匹ほど欲しいな」

 今度は柳地の番だ。虫かごを達也に任せ、花にとまっているセセリチョウに狙いを定める。2人とも子供がよくやる、両手で覆うような捕まえ方はしない。その方法では、虫かごに入れる前に逃げられてしまうからだ。

「えい!」

 柳地の指はセセリチョウを捕えた。だが、セセリチョウがバタつく。よく見ると右の翅しか掴んでいない。

「何失敗してんだよ」

「おかしいな、狙いは正確だったのに」

 捕まえたことに変わりはないが、2人の間では、両方の翅を掴んで初めて捕獲成功である。柳地の今回のパターンは失敗となる。

「でもまあ、いいでしょ」

 達也が慣れた手つきで虫かごの蓋を開け、柳地が中にセセリチョウを入れた。

「花とか入れておく必要あるか?」

「餌の餌はいらないよ」

 虫かごには花を入れるスペースはもうない。それにセセリチョウはすぐに食べられてしまうだろう。

「もう1匹くらい、捕まえるか」

「そうだね」

 柳地が花壇の奥に行こうとすると、

「待て柳地! 行くな!」

 柳地は何も言わず、何も疑問に持たず、達也の方へ戻った。達也が無意味にそんなことを言うはずがない。

「今年も出たか」

「ああ出たな。クマンバチだぜ」

「クマバチ、だよ。ンはいらない。図鑑に書いてあった」

「細かいことは気にすんな」

「でも毒針には気をつけなよ」

 ハチが出現すると昆虫採集は止めだ。それも2人のルール。特に山尾花小の花壇にはクマバチが出現しやすい。2人はクマバチの注意を引かないよう静かに昇降口に向かった。


 教室に戻って来た。5時間目まではまだ時間がある。

「相変わらず昆虫採集かい? 本当に好きだねえ」

 神崎かんざき晃志郎こうしろうが2人に言った。

「お前も今度、やってみるか? 晃志郎」

「僕はよすよ。虫とかあんまし好きじゃないし。それにさ」

 晃志郎はモンシロチョウの虫かごを指さして、

「こんだけいればもう、十分でしょ?」

 確かにクラスの人からすれば十分かもしれない。だが、

「俺たちはこれからも捕まえてくぜ? なあ柳地?」

「あたりまえだ」

 晃志郎は呆れて自分の席に戻った。

「ところで、五時間目の総合、何やるか知ってる?」

「何すんだ?」

「席替えだってよ」

「マジで?」

「君、朝の会いなかったからね。やっぱり知らないよね」

 3年生になって初めての席替えだ。柳地はやはり、達也と近くになりたい。

「くじで決めんの? 何か言ってた?」

「いや、杉浦先生が勝手に決めたってよ」

「何だそりゃあ?」

「2年の時はくじだったのに、ねえ。杉浦先生はほら、今年教師になったばかりって言うじゃない? だから決め方を知らないんだよ」

「俺とお前、席近くになっかねえ?」

「それはないと思うよ。うるさくなりそうな人は遠ざけるよ」

「だよなー」

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