その場でいくら考えても仕方無いのでひとまず俺と岩井は家に戻った。二つの金メダルを前に二人で悶々と考えを巡らす。

「とりあえずあの時はどっちが一位だったんだっけ?」

「確か俺だ、ハヤブサ飛びを10回跳んで一位だった。」

「それは俺だよ、ケンは8回だった。」

「それは練習してた時の記録だろ、大会本番では10回跳んでたはずだ。」

「それじゃどっちもハヤブサ飛びを10回?でも絶対一位は一人だけだったからおかしいよ。」

蜂栄小縄跳び大会は絶対に引き分けは無いようルールで決めてあった。自分たちが入学した年から始まって5回とも参加したからこのルールは間違えていないはず。

「そもそもおかしいな、そんなに力を入れていたのに何でこんなにも覚えていないんだ?」

金メダルを見るまで気づかなかったが、縄跳び大会に関する記憶だけがもやがかかって思い出せないことに気づいた。岩井も同じようだ。

「…母さんに聞いてみるか」

「おばさんまだ起きてるかな?もう12時だよ」

「明日休みって言ってたからな、多分起きてる。」

二人で考えても埒が明かないことが分かったため小さい頃のの自分たちを一番よくみていた母に聞いてみることにした。電話をかけるとすぐにつながった。

『どうしたん?こんな時間に』

「ちょっと聞きたことがあって。」

「おばさんご無沙汰してます。」

『あら!岩井君?久しぶりぃ、ずいぶん声も逞しくなって。身長伸びた?』

「1センチ伸びました」

「それは今どうでもいいから…。母さん縄跳び大会のこと覚えてる?」

『蜂栄小の?覚えてるよぉ、二人ともよく頑張ったもんね。』

「それなんだよ、どっちが一位だったか覚えてる?」

『もちろん!岩井君が1位をとってあんたが二位だったわ、ずいぶん悔しそうに銀メダル受け取ってたわねぇ。』

「やっぱり!」

あっさり謎の一つが解けてしまった。しかしそれでも二つの金メダルについてはまだ謎だ。俺は銀メダルを受け取っているはずなのになぜか手元には金メダルだ。

「母さん、今俺と岩井の手元に金メダルが二つあるんだよ、銀メダルはどこに行ったか知ってる?」

『…ああそれ。少し不思議な話なんだけどね、あたしもよくわかんないんだよ』

「「わかんない?」」

『縄跳び大会の後あんた達喧嘩になっちゃってね、決闘だって言って思永神社に行ったんだよ。放っておけないから後を付けていったんだけど神社に着いた頃には二人とも境内で放心。ほんとビックリしたよぉ。」

母が言うにはその時俺の銀メダルが金メダルになっていたらしい。どうやら金メダルの秘密は神社にあるようだ。


深夜1時、俺は岩井とともに思永神社にやってきた。二つの金メダルとそれに関する記憶の謎、一体神社で何があったのか?

「何にもないな」

「まあ田舎の神社だしね」

「見た目に惑わされるな阿保ども、もっと本質を見ればこの神社がいかに無駄がないかが分かるというのに」

「「!?」」

不意に聞きなれない女性の声が頭上から聞こえる。咄嗟に見上げると本殿の屋根の上にtシャツとスウェットの、女性が座っている。あまりにも非現実的なシチュエーションに俺たちは唖然とするしかなかった。

「久しぶりだなお前たち、と言っても覚えていないか」

「…あんたが俺たちに何かしたのか?子供のころ」

振り絞って声を出す。深夜の神社の屋根の上にるこの女性が俺たちと無関係だとは到底思えなかった。

「ああ、お前達が境内で騒いでおったからな。何事かと私が話を聞いてやった。するとどちらも金メダルを持つべきは自分だと言い張っていたのが騒ぎの原因だとわかった。だから私がお前の銀メダルを金メダルに変えてやったのさ。」

「それは…ありがとうと言うべきなのか?」

「じゃあなんで俺たちはそのことを覚えていないの?」

「私の術は本来あまり人に見せていいものではない。だがお前たちはまだ子供だったしな、少し記憶を飛ばさせてもらった。子供のころの記憶はすぐに曖昧になる、だから多少飛ばしても問題ないと判断したんだ。」

なんだか話がどんどん現実離れしていってる気がする。しかし一応謎は解けたことになる。人には絶対言えないが。

「これでようやく心のもやが晴れたよ。俺達そのことが気になってたんだ。」

「もっと気になることも出てきたけどね、君とか」

女性を指して岩井が言う。確かにそうだこの女性は結局何者なんだ?

「まあ、私のことは気にするな。もう夜も深いお前たちももう帰りな。」

「そうはいっても…」

急に意識が混濁する。

「まあ大した仲でもないが久しぶりに会えてよかったよ。次もまた覚えていられるならそのうち顔を出してくれ。それじゃ、お休み…」


次に目が覚めたのは自室だった。岩井も隣で寝ている。

「夢だったのか?」

ふと手元をみるとそこには金ではなく銀のメダルが握りしめられていた。

「…やっぱり夢じゃないな」

夢というのは寝起きにはその内容をしっかりと覚えていられる。しかし時間がたつとそれはどんどんと水がこぼれる様に無くなっていく。あの出来事が夢でも夢でなくてもこのメダルを見るたびに俺は思い出すだろう。次の同窓会にも参加する理由が出来てしまった。また次もメダルを持って会いに行こう。





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二つの金メダル @kururiexam

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