番外編 二人の盗賊(前編)


フール「行っちゃいましたね」


ワンダ「ああ」


不思議な冒険者と別れ、そこに残っていたのは50000ゼルという結構な大金を持った二人の盗賊だった。


ワンダ「不思議な奴らだったな」


フール「はい、いままでこんなお金を貰うとしたら大金持ちの命乞いか力ずくで奪い取るしかなかったのにあの人達は普通に恵んでくれましたね」


ワンダ「ああ、しかも怖がるどころか優しい目を向けてきやがった、盗賊相手だっていうのに・・・しかも武器を向けられてもまったく変わらなかった」


フール「はい、しかも50000ゼルという大金を普通にくれましたし、何者なんでしょう?」


ワンダ「わかんねぇ。ただ、あいつらにはなにかある。女のほうは結構冒険に慣れてそうだったからな、こんなアクシデントにも対応できるんだろう、だが男のほうは違う、あいつは違う。警戒をまったくしてない、防具なしで戦えるほど戦い慣れていないのに防具をつけていない、冒険初心者にはあることだ。だが、あの男は俺達盗賊が出てきてもビクともしなかった。天然なだけなのか、それともこんな状況に慣れてんのかだ」


フール「そんな」


ワンダ「ああ、こんな状況に慣れるなんて冒険者以外じゃなかなかないこ「親分がまともなことを言ってるなんて!」そっちか!つーかどうゆう意味だ!」


フール「そのままの意味ですが」


ワンダ「ともかく!あいつはただの一般人じゃないってことだ!」


フール「まあ、でも、僕らもあんな人に会えてたらこんな人生にならなかったんでしょうかね」


ワンダ「・・・」


ーーー


数年前 ゾークの村


ドサァ


ワンダ「返せよ!それは俺の金だ!」


ごろつき「うるせぇ!お前みたいなガキはこんな金なんか持たなくてもいいんだよ!お前のご飯は雑草で十分だろ!」


当時10歳のワンダは親も住む場所もなく路地裏で暮らす毎日だった。村の治安が悪く、ゴミも大量に捨てられていた村なのでゴミを拾うだけでもお金が貰える。大したお金ではないが当時のワンダはゴミ拾いでお金を稼いで生きていた。ちっぽけなお金でもコツコツやれば弁当が買えるくらいのお金にはなる、しかしワンダはこの村のごろつきに目をつけられ度々お金を取られる。そのためやむを得ず万引きすることも少なくない。


ワンダ「なんだと!大人のくせにこどもから金とるクズ野郎のほうが飯食うなっつーの!そんなゴミみたいなことするくらいなら働いてこの村の治安を少しくらい良くしてみろってんだこのハゲイド!」


ごろつき「この村でまともに働ける人間が少ないことはテメェも知ってんだろ!あと誰がハゲイドだ!俺の名前はハレイドだ!」


ワンダ「お前みたいに努力もしない奴が働けないのは当たり前だろうが!そんな奴が多いからこの村もゴミだらけなんだよ!お前みたいな奴なんかみんな死ね!」


ハレイド「んだとこのガキ!」


ワンダの言葉を聞きキレたハレイドの強烈な蹴りがワンダの腹に入り小さな体を軽々と吹っ飛ばした。


ワンダ「がっ………かはっ…ごほっ」


ハレイド「次そんなこと言ってみろ!マジで殺すからな!」


そう言ってハレイドは闇の中に消えていった。


ワンダ「げほっ…げほっ……はぁ…はぁ…あの野郎…絶対…ころ・・・す。」


ワンダの意識はそこで途切れた。










次の日の午後2時、ワンダは目を覚ました。


ワンダ「やっぱ、どうにもなんねぇのかな」


そう呟いた。その時


?「殺せばいいじゃん」


ワンダ「誰だ?」


?「僕の名前はユユ。通りすがりの幽霊だよ」


ワンダ「そうか、で、その幽霊が俺になんのようだ?」


ユユ「さっきの見てたけどさ、あのハなんとかって人殺したいんでしょ?だからその手助けをしてあげようかと思って」


ワンダ「んで、幽霊がどうやって手助けすんだよ」


ユユ「やだなぁ、幽霊でもできることはあるんだよ、例えばこんなこととか」


そう言うとユユの周りの空き缶や石といったものが浮き出した。


ワンダ「ポルターガイストってやつか」


ユユ「うん、これを使えば色々な練習ができるよ」


ワンダ「んで、なにか代償でもとられんのか?」


ユユ「勘がいいね。実はちょっと見届けたいものがあってね、それまでは成仏するわけにはいかないんだ。だから君の魂を分けて欲しいんだ」


ワンダ「魂を分けたらどうなるんだ?」


ユユ「僕がここに留まれる時間が増えるんだ。もちろん魂を分けても君に害はないよ。強いて言えば天国に行けなくなるんだけど」


ワンダ「・・・いいだろう、どうせこんな生き方してる時点で天国なんか行けないだろうからな」


ユユ「契約成立だね!」


そこから3ヶ月にわたる修行が始まった。ワンダが選んだ武器は投げナイフ、ポルターガイストで浮かせた空き缶などに向かって投げて命中率を上げる練習に基礎トレーニング。やることはそれだけ。投げナイフならナイフを命中させるだけでいい、剣術とか難しいことをやる必要がなくゴミ拾いの時間を減らす必要はない。ユユが用事があるからって決まった時間にいなくなるがその時間を使って短剣での接近戦の練習もした。幽霊の用事が何か気になるが今はハレイドを殺すことだけを考えた。






そして3ヶ月が経った







ユユ「さあ、ついに運命の日だよ。ここであいつを殺せば君は解放される、力のある君ならこれからもお金を取られることもない。」


ワンダ「・・・ああ」


ワンダはジャケットを身に付け内側に複数のナイフが隠されている。


ユユ「来たよ」


ハレイド「やぁワンダ君、今日も俺のために働いてもらって悪いねぇ。じゃあ今日もちょっと分けてもらえるよなぁ?」


ワンダ「お前にやる金なんて1ゼルも…ねぇ!」


ワンダは隠していたナイフをハレイド目掛けて投げた。


ハレイド「なっ!?てめっ」


それに気付いたハレイドは間一髪のところでナイフを避け、ナイフは頬を掠めていった。ワンダはすかさずナイフをもう一度投げた。体勢を崩しているハレイドは飛んでくるもう一本のナイフを避けることができずナイフはハレイドの脳天に刺さった。そのままハレイドは倒れ動かなくなった。




ワンダ「これで・・・よかったのかな」


ユユ「うん、あいつみたいなやつは誰だって死んだほうがいいって思ってるよ。君がやらなくたって誰かが殺してたさ」


ワンダ「そ…うか。それで、なんでお前は笑っているんだ?」


ユユ「笑ってる?僕が?そうか、やっぱり君は僕の思ってた以上に馬鹿じゃなかったんだね。観察力があって鍛えればもっと強くなれる。精神的にも強い。」


ワンダ「何が言いたい」


ユユ「いや、僕から見た君の評価だよ。ここまでの素材はなかなかない。じゃあそろそろ代償を貰おうか、君の魂の全てをね」


そう言うとユユは近くの尖った石をワンダの顔目掛けて飛ばしてきた


ワンダ「なっ!?」


ワンダはそれをギリギリのところで避けた。


ユユ「なぜ避けるんだい?これは契約じゃないか」


更にガラスの破片を飛ばしてくる。それを跳んで避ける


ワンダ「話が違うぞ!魂を少し分けるだけのはずだ!」


ユユ「誰も少しだけなんて言ってないよ。害がないとは言ったけどね。だから害のないようにしてるんじゃん。」


ワンダ「ふざけんな!ずっと騙してたくせに!それに殺そうとしてきてんじゃねぇか!」


ユユ「誰にでもひとつやふたつ隠し事はあるもんだよ。それに君の魂がなくなれば永遠に害を受けることはない。契約は破ってないでしょ?」


ワンダ「殺しにきてる時点で害なんだよ!」


ユユ「代償を受け取ったときの害はないよ。契約だからね。だけどね、代償を受け取るまでの経緯での害は契約とは関係ないんだよ。君がハレイドに殺されるのは契約内の害とは関係ないでしょ?それと同じさ」


ワンダ「んなわけあるか!そんな屁理屈で殺されてたまるかよ!」


ワンダは全力で走り出した


ユユ「逃がすわけないじゃん」


ユユがガラスの破片を飛ばす。ガラスの破片はワンダの足を切る。急な足の痛みによりバランスを崩し転んでしまう。


ユユ「さあ、魂を貰おうか」


ワンダ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ワンダはユユに向かってナイフを投げた。一直線に飛んでいったナイフはユユの体をすり抜けていった。


ユユ「無駄だよ。君の武器を投げナイフにしたのは僕への害なくすためだからね。剣術とかだと幽霊にも当たる攻撃とか習得されると困るのは僕だからね。陰陽師とかはともかく君みたいなただの人間に投擲物で僕に攻撃を当てる手段は一切ないからね。冥土の土産はこれで十分かい?なら魂を貰おう」


ワンダ「うっ」


ワンダの口から何かが吸いとられていく


ユユ「ずっと君みたいな魂を探していたんだ!同じようなやりかたで色んな人から魂を貰ったけどみんなダメだったんだ。心が弱いからね。同じやりかたで人を殺したその人達は殺した後、興奮するか後悔するかのどっちかなんだ。でも君は違う、ハレイドを殺しても警戒を解かず僕の少しの変化に気付いた。それだけの精神の強さを持ってる魂を手に入れればきっと僕は肉体を手に入れることができる。これで僕の欲望に近付く!これで僕の願いが叶う!僕を殺した人間どもをみんな殺してこの世界を修復するという望みが!ついに叶えられるんだ!君にだって僕の気持ちがわかるはずでしょ?人間はクズだ!人間は結局自分のために動く生き物だ!たとえ誰かのためだって言っていても!心の中では自分のためにやっていることだ!人間は自分勝手だ!自分のために悪を働き自分のために人を殺す!僕の父親もそんな人間だった!金のために盗みを働く人間だ!母親もそうだ!お父さんが盗みを働いているのに気付いていても見て見ぬふりだ!それが原因で僕がいじめられてもなにもしてくれない!助けを求めたら見捨てやがった!挙げ句の果てには一家心中だ!僕も巻き込んで!死ぬならあの二人だけでよかったんだ!なのに僕も殺したんだ!生きるのに疲れたからって!ふざけるな!盗みなんかしてるからそうなるんだよ!普通に働けばよかっただろ!就職先が見つからないからって盗みなんかやりやがって!僕はただ!普通にご飯を食べて!普通に友達と遊んで!普通に勉強する!そんな普通に生きていければそれでよかったんだ!それなのに僕の親は普通に生きることさえ許してくれなかった!村

の人達もそうだ!犯罪者のこどもだからって嫌な目で見てきた!誰も手を差し伸べてくれなかったんだ!この世界はそんな人間ばかりだ!だったらそんな人間みんな殺して!いちから理想の世界を創るしかないじゃないか!」


ユユは後半、涙ながらに叫んだ

しかし、意識が薄れてきたために途中からは聞き取ることができなかった。











「お前は大きな人間になる」


ワンダ(えっ?)


「お前はなんでもできる子だ」


見たことのある光景だ


「なんたってナイフの達人とまで呼ばれた人間の」


ワンダはこの光景がなにかすぐにわかった


ワンダ(これは過去の記憶か)


「このお父さんの子だからな!」


ワンダ(そうだ、親父は戦死した、けど)


「俺の子なら、どんな境地に立っても」


ワンダ(そうだ、俺は)


「「絶対に死なない!」」


ワンダは隠し持っていた短剣を引き抜きユユに向けた。


ユユ「だから無駄だって言ってるのに馬鹿なやつだなぁ」


ワンダ「うおぉぉぉぉぉ!!!!」


短剣を振りおろす瞬間、刀身がひかり出しそのままユユの目に刺さった。


ユユ「な、んで?」


ワンダ「俺はなんだってできる。鋼属性ってな、武器の生成以外にも武器の強化もできるんだぜ。強化ってな、強くするって意味だ。だから武器を硬くするだけじゃなくて魔法を付与させることもできる。つまりな、考え方を変えればただの武器を幽霊に当てるようにすることもできるってことだって親父が言ってた」


ユユ「そん、な」


ワンダ「悪いのはお前の親だよ。お前が生きていたときにお前が受けたものは全て親のせいだ。この世界はそんな人ばかりじゃない。少なくとも俺の親は俺のことを愛してくれてたしお前の俺に対する同情は本当に思ってるように見えた。多分お前がまともな親のもとに産まれてたら俺達はきっといい友達になれたかもしれない。」


ユユ「こんな僕でも…友達になれると思うの?」


ワンダ「今のお前は親の悪いところをいっぱい見ちゃったからそうなっただけだろ。悪いところのないお前と友達になれるならこっちから願いたいよ。お前と楽しく過ごしたこの三ヶ月は嘘じゃないと思うから」


ユユ「そっ、か」


ユユの体が薄れてきた


ユユ「ありがとう!君のおかげで目が覚めたよ。生前に君と出会えていたら僕ももっといい人生を歩めていたし君もこんな人生にならなくて済んだかもしれない」


ワンダ「ユユ…いなくなっちゃうのか?」


ユユ「うん、君のおかげで未練が未練じゃなくなったからね。どっちにしろ刺されちゃってるわけだし」


ワンダ「そうだったな」


ユユ「最期に君に会えてよかったよ、ありがとう!僕の最初で最後の友達。来世は普通に生きたいな。最後に僕の本当の名前を教えてあげるよ。僕の名前はユート・ユリフォースだよ!さようなら、ワンダ!」


ユユは光ととも満面の笑顔のまま消えていった。


ワンダ「じゃあな、ユート」








「だから生きろ、俺の最高の息子ワンダ・トルアース」

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