第16話『国家魔法師認定試験・二次試験』

 一次試験を無事突破し、二次試験までの一週間は、ひたすらに、実戦形式の訓練を行った。二次試験では毎年、各自が自身の特技を発表し、その後に、自分と相性の良さそうなパートナーを探し、チームを組んでのタッグ戦を行うようだ。


 そして現在は、僕の自己アピールの番が回ってきた所だ。


「精神魔法師のフィロスです。意識の誘導や、思考の読み取りが得意です。よろしくお願いします」


 ここで手の内を明かすのは、あまり得策ではないが、かといって、隠し過ぎるとパートナーが見つからなくなってしまう……。さじ加減が難しい。


 その後、三人程の自己アピールが終わり、リザの番が回ってきた。


「身体魔法師のリザ・ヴェルメリオだ! 特技は、この背中の大剣で敵を切ることだ! よろしく!!」


 リザの豪快過ぎる自己紹介が終わると、一部の集団がざわつきはじめた。この反応からして、やはり、リザは王女なのだろう。


 そうこうしている内に、全員の自己紹介が終わった。


「では、各自、話し合いによってパートナーを決めてくれ。それでは、開始!」


 試験官の合図をきっかけに、皆が蜘蛛の子を散らすように動きはじめた。


 その中でも一際目立っているのが、リザだ。リザの噂を耳にしている人も、そうでない人も、彼女の明らかに強者であろうオーラを嗅ぎつけて、集まっているのだろう。


 そんな彼女だが、蝶のような気まぐれさで、よってくる人波をヒラヒラとかわし、僕の方へと向かってくる。


「よぅ、フィロス! 俺と組もうぜ!」


 こんなに男前に誘われたのは、生まれてこのかた初めてだ。


「えっと、僕でいいの?」


 チビでいかにも弱そうな僕とは違い、リザなら、相方は選び放題だと思うのだが。


「当たり前だろ! この前、一緒に頑張ろうぜって言ったろ?」


 あの言葉は、こう言うことだったのか。


「わかったよ。ありがとう、よろしくね」


 僕がそう返事をすると、満足そうに笑うリザ。


「よし! じゃあ、決まりだ!」


 勢いよく、リザが言った。


「時間まで結構あるし、作戦会議でもしようか」


 お互いの力をある程度知る必要がある。


「俺は見ての通り、この大剣で戦うぜ!」


「それは、さっきの自己紹介でも聞いたよ、具体的にはどういう風に戦うの?」


 もう少し、連携へのイメージを膨らませたい。


「えーっとなぁ、この銀色の鞘は、竜の牙を加工した物で出来ていて、勢いよく抜くと、刀身に炎がひっつくぞ?」


 もの凄く軽いノリで、もの凄いことを言われた気がする。炎の剣なんて、とてもファンタジーっぽくて、正直、男の子としての探究心がくすぐられる。


「摩擦熱で刀身に炎を纏わせているってこと?」


 僕が興味津々で質問すると、リザが首を傾げた。


「理屈はよくわかんねーけど、あらかたの物は熱で切れるから大丈夫だ!」


 発言そのものは不安を感じさせる内容だが、一緒に戦うことを考えると、この大雑把さも、ある意味頼もしい。


「僕が出来ることは、相手の精神状況によっては、動きを止めたり、考えを少し読み取ることが出来る位かな」


 僕がそういうと、リザが不思議そうな顔をして、質問をしてきた。


「自己暗示の詠唱とかは、いらないのか? 発動までには、どれ位かかる?」


 リザが珍しく、真剣な表情で問いかけてきた。


「えーっと、自分の中で、イメージを作り出す時間が必要だから、十秒近くはかかるかな?」


「十秒! 早すぎだろ! 俺の目に狂いはなかったってことだ!」


 目を輝かせながら、楽しそうに笑うリザ。


 自分以外の精神魔法師をバールさんしか知らなかった為、発動時間の基準がイマイチわかっていなかった。


「さぁ、全員ペアは決まったか? 決まっていない者はここで脱落してもらう」


 試験官の一言で、大慌ての様子で即席チームを組むペアがちらほらと見える。


 このペア決めは、即座の判断力と自主性も試しているのだろう。


 それから、最後の打ち合わせを軽く済ませ、リザと会場に向かった。


 * * *


 二次試験の会場は、コロシアムのような施設で行われるようだ。とても広い作りになっている。


「精神魔法師フィロス、身体魔法師リザ・ヴェルメリオ、準備はよろしいか?」


 試験官のいかつい男が、僕らに話しかけてきた。


「いつでもいいぜ!」


 威勢のいい返事をするリザ。


「では、白線の引かれている位置に立ってくれ、そこが最初の定位置だ」


 試験官の指示通り、所定の位置につく僕ら。三十メートル程離れた位置に、二人組の男達が立っている。おそらく、彼らが僕達の相手だろう。時間ギリギリでチームを組んでいたのを見た。


「では、試験をはじめる前に注意事項を説明する。医療班と女神の聖水の準備はされているので、大抵の負傷は治せるが、即死する可能性がある攻撃は禁止とする。それ以外は何をしても構わない。以上だ!」


 試験官の説明に不安を煽られる僕であった。


「なんて顔してんだよ! 俺がいるんだから、大丈夫だ! それに、女神の聖水まで用意されているんだぞ?」


「えっと、その女神の聖水ってのは何?」


「魔大陸で採取出来る液体で、大抵の傷はすぐに治す万能薬だ、ものすげー希少だけどな!」


 ざっくりとした説明をしてくれるリザ。


「よし、時間だ、両者準備はいいな? では、はじめるぞ、開始!」


 試験官の合図で、戦いの火蓋は切って落とされた。


 合図と同時に、僕はズボンのポケットに入れておいた、銀色のホイッスルをとりだし、力のかぎりに吹いた。ピーーっという甲高い音と共に、相手の視線と意識が一瞬、僕だけに集まる。そして、その動揺している相手の意識に同調し、相手の動きを三秒程止めることに成功した。


 三秒という時間は、リザにとっては十分過ぎる時間だったようだ。


 身体魔法により爆発的な膂力を手にしたリザが僕の隣りから一瞬で消え去り、次の瞬間には相手の男二人のみぞおちに、彼女の拳がめり込んでおり、彼らの意識はすでになかった……。


 背の大剣を使うまでもなく、拳のみで瞬殺とは、彼女の実力の底が全くもって見えなかった。


「そこまで! この勝負、フィロス、リザチームの勝利!」


 試験官の勝利宣告により、僕たちの試験は、開始三秒で終わるという、異例の事態となった。


 一瞬の出来事で、勝利の実感はないが、何はともあれ、二次試験も無事に突破出来て良かった。


「やるじゃねぇか、フィロス!」


「いやいや、リザのおかげさ」


 二次試験も終わり、ひとまずの祝勝会ということで、リザと一緒に前回と同じ食堂に来ている。


「おばちゃん、ダッグコーチェンを一つ!」


 勢いよく、リザが注文した。

 このパターンは身に覚えがあるぞ。

 僕は、同じ轍は踏まない。


「リザ、ダッグコーチェンってのは、どんな料理なの?」


 注文をする前に確認すれば安心だ。


「魚の煮付けだ、柔らかくてホクホクだぞ」


 なるほど、魚の煮付けは僕も大好物だ。


「じゃあ、僕もそれで」


 注文から数分後、料理が出来上がり、カウンターまで料理を取りにいった。


「……」


「どうしたフィロス? 急に黙って」


「リザ? これ魚?」


 僕の目の前には、紫色の液体で煮付けられた、触手が数本生えている魚? らしき物が置いてある。


「おう! 魔大陸近郊の海でとれる、魚型の魔物だ!」


 また魔物か。しかも今回は、見た目がもろにまんまなのだ……。


 恐る恐る口に運ぶ。

 あれ? この紫色のなぞの煮汁が妙にコクがあって、旨味が溢れでてくる。悔しいけど、旨い。


「味は美味しいね」


 僕が遠回しに、この料理の見た目に対して追求したのだが、リザはそんなこと気にならないようだ。


「だろ? 触手の食感がコリコリしてて、美味いんだぜ!」


 ならば触手は全てリザにあげることにしよう……。


「リザ、触手は全部あげるよ」


 僕がそう言って皿を差し出すと、リザは嬉々として、触手を頬張った。

 美少女が触手を嬉しそうに食べるという光景は、とても恐ろしくもあり、なんだかとても、前衛的に感じた。

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