第25章 激突
俺らが急降下している間、ヴォルフは身動き一つ取らなかった。
手と足を大の字に広げ、スカイダイビングの要領で降下する彼。かなりの風圧を受けていると思うが、体の軸は全然ぶれていなかった。
ヴォルフは地面と接触する瞬間に体勢を変えたと思うと、何やら彼の足元が赤色に鈍く光った。
「な、なんだあれ!?」
「あれはたぶん魔法です!ヴォルフさん、魔法も使えたんです!」
それの影響なのか、かなりの高さから生身で飛び降りても彼には傷一つついていない。
それどころか、着地した瞬間に腰の剣を抜き、武装兵たちが気付く前に近くにいた二人ほどを切り捨ててみせた。
俺たちは、武装兵とヴォルフの戦いを見守ることしかできなかった。
数は武装兵が十四人ほど。それにひきかえ、ヴォルフは単独行動。圧倒的にこちら側が不利だ。
「な、何者だ!?」
「死ぬ奴に答える義理はねぇ!」
彼は武装兵が銃を構えるより先に剣を片手に戦場を激しく移動し、そして切り捨てていく。
死角からの攻撃ですらも、懐にしまい込んでいた銃を正確に撃ち込み、そして殺していく。
その姿はまさに、鬼だった。
「なんだよあいつ……」
俺が呆気にとられていると、クエスタが「純騎さん!そろそろ到着します!」と俺に声をかける。
俺がうなづくより先に、ペガサスが地面にふわりと着地した。
ヒュノとレゥも、無事についたようだ。
「おぅ、遅かったな」
俺らがついた時には、すでに武装兵は全員殺されていて、血まみれのヴォルフが一人立っているだけだった。
「……これ、みんなヴォルフがやったなの?」
「あぁ、見ての通りだ」
ヒュノの問いかけににやりと笑うヴォルフ。レゥは死体から目を背け、クエスタの胸の中に顔をうずめている。
「……」
何もここまでしなくてもいいのに……。
俺の口からその言葉が出かかったが、なにを言ってもあいつは聞かないだろう、その言葉を飲み込んだ。
「まあいい。役者はそろった。行くぞ」
彼は煙草を一服吸った後、足で踏みつぶすと日本刀のような刀を片手にそのまま俺らに背中を向ける。
そして、前にある血まみれの小屋へと歩みを進めた。
「純騎さん……」
クエスタが心配そうな表情で俺を見つめる。
……正直、今すぐにでも引き返したい。でも……。
(ここで、引き下がるわけにはいかない!)
決意を固めた俺は、右手をぐっと握りしめ、ヴォルフの背中をにらみつけながら俺は力強く歩きだした。
その後ろから、クエスタたちもついてきてくれた。
「武器を捨てろ!」
小屋の腐りかけた木製のドアを蹴破り、ヴォルフは叫ぶ。
しかし、中には人が誰もおらず、小さな石造りの暖炉と水瓶、そして中央に木のテーブルと四つの小さな丸椅子があるだけだった。
「……誰もいねぇじゃん」
「そんなわけがねぇんだがなぁ」
俺の言葉にヴォルフが首をひねる。
部屋の中は埃っぽいし、人が使っていた形跡も残っていない。
「ヴォルフー!これ、どういうことなのー!?」
「……さっきの武装兵はここから出てきた。たぶん、隠し通路がどこかにあると思うんだが」
「隠し通路なのよさ?」
首をかしげるヒュノ。
「……例えば、この丸椅子の下とかな」
ヴォルフが四つの小さな丸椅子のうち一つを乱暴に蹴り飛ばす。
しかし、そこにはただ、足跡と埃が残っているだけだった。
「むぅ……」
「……もしかして、当てずっぽうなの?」
にやにやと笑うヒュノと、顔をそむけるヴォルフ。
……ここが戦場じゃなければ俺もちゃちゃを入れたんだが。
彼は仕切り直しとばかりに煙草を懐から取り出し、ヒュノに向かってこう言う。
「……嬢ちゃん。魔力探知はできねぇのか?」
「ヒュノって呼ぶがいいなのー!そういうのは私さんよりもクエスタのほうが得意なのー!」
「クエスタっつーと……」
ヴォルフが鋭い眼光をクエスタの方に向ける。
俺の後ろにいた彼女は、こくんと一度うなづき、祈るように手を組み合わせる。
すると、中央にいつか見た魔法陣が展開され、周囲の光が徐々に彼女の元へと集まっていく。
「……ヒュノ、これって」
「魔力探知なのよさ!この周囲に魔力がないかチェックしているなのよさー!」
俺の耳打ちにも元気に胸を張り答えるヒュノ。
やがて、魔法陣は消え、手をとくクエスタ。
「どうだ、クエスタ」
短くなった煙草を水瓶の中に放り投げてヴォルフはたずねる。しかし、クエスタは力なく首を横に振るだけだ。
「駄目か……」
短い舌打ちとともに側に転がっていた丸椅子を蹴り飛ばすヴォルフ。
……よくわかんねぇけど、これって無駄足だったってことか?
「……ヴォルフ、これって」
俺が恐る恐るたずねようとした直後だ。
くいくいとレゥが俺の服の裾を引っ張る。
「どうした?」
「純騎……ここ」
彼女が指さした先は小さな暖炉だ。炭が何個かおいてあり、埃もかぶっていない。
「暖炉がどうした?」
俺が近づくと、レゥは暖炉の横に立ち、横から暖炉をぐっと押す。
直後、大きな地響きとともに暖炉が移動し、下から石造りの階段が姿を現した。
「これって……!」
「嬢ちゃん!よくやった!」
俺が反応するより先に、待ちわびたといわんばかりのテンションでヴォルフが駆け寄り、レゥの頭を撫でる。しかし、彼女は不機嫌そうに手を払いのけた。
「私を……撫でていいのは、純騎……だけ」
その言葉と共に俺の後ろに隠れるレゥ。俺の横から顔を出して小さな舌を懸命に出していた。
「えっ、ちょっ!」
「……まあいい」
戸惑う俺を無視して落ち着きを取り戻すヴォルフ。彼はマッチを一本取り出して火をつけ、そのまま階段を下っていく。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
俺らも彼の後に続くことにした。
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