第24章 急襲

 徐々に闇が晴れていく。

 朝日が昇り始めてきているようだ。

 

 で、俺らはというと……。


(死ぬ……!死ぬって……!)

 地上が小さく見えるほど上空にいます……!


 俺らは魔力で全身にシールドを貼ったペガサスに二人一組でまたがり、空を飛んでいた。

「純騎さん、大丈夫ですか?顔色が優れませんが……」

 クエスタが時折こちらを振り返っては俺の顔色をうかがってくれる。

 その心遣いが今は痛い。というか、今すぐにでも地上に降りたい。

「あ、あぁ、大丈夫だ……」

 誰にでも見て取れるやせ我慢をしながら俺はそう返すと、彼女は心配そうにまた前を向いた。

 

 もしも俺らだけ飛んでいるのだったら今すぐにでも逃げ出しているが、今回は俺らやヒュノ達だけでなく、ヴォルフとかいう男と一斉に移動している。むろん、強制だ。


 なぜこのようなことになったかというと、話はヴォルフと戦った後まで巻き戻る。


 ~~~

「『竜のエネルギー』?」

 俺が首をかしげると、ヴォルフはフンと鼻で笑い、腕を組みながら偉そうにこう続ける。

「てめぇらは知らなくていい。とっとと俺らについてこい。弾除けくらいになら使ってやる」

「……!!」

 頭に血が上りかけるが、横にいたクエスタに腕をつかまれて下がらせられる。

「わかりました。私たちも同行します」

 クエスタの言葉にヴォルフはにやりと笑うと、

「そっちの嬢は物分かりがいいな。てめぇら全員ついてこい」と俺らに背を向けて歩き出した。

 レゥもヒュノも従うように歩みを進めている。しかし、二人ともどこか腑に落ちていない表情をしていて、ヒュノに至ってはふくれっ面だ。

 その後ろを無言で歩くクエスタ。俺もそのあとに続いた。


「なぁ、クエスタ」小声で彼女に問いかける。

「なんでしょう?」

「あんなむかつく奴になんで従ったんだ……?」

「……」

 俺の問いかけに彼女は一瞬黙ると、俺に背を向けたままこう返す。

「……無駄な争いで、純騎さんを傷つけたくないので」

「……」

 目からうろこが落ちる俺。

 確かに、今の俺じゃあヴォルフの足元にも及ばない。それはさっき分かったはずだ。

 でも、頭に血が上ってて冷静な判断ができなかったんだ。


 ……悔いが残り、何も言えなくなる俺。

 クエスタもそれをくみ取ってくれたのか、なにも言わなかった。


 全員で王宮の裏にある倉庫にたどり着く。

 辺りの風は暗く、この倉庫を丸ごと夜の闇に隠しているようだ。


 ヴォルフは頭をかきながらめんどくさそうにこちらを振り向く。そして、「いち、にぃ……」とゆっくり数え終えた後、前を向き直ってこういった。

「よぉし、お前ら、準備はいいな」

「用意……?」

 ヒュノが小首をかしげると、ヴォルフはゆっくりと倉庫に近づき、手に持っていた鍵で扉のロックを外す。

 扉を開けると、彼は「何を突っ立ってる。こっちに来い」と荒々しく手招き。俺らは小走りで彼の後についていくことになった。


 中にいたのは、鎖でつながれた三頭のペガサス。暗闇にいるながらも、どこか凛々しい表情を浮かべていた。

 ヴォルフは手際よく三頭の鎖を外すと、俺らに向かって「乗れ」とだけ指示。

 従うのは癪だったが、乗らないと永遠に出してくれそうになかったので、しぶしぶ乗ることにした。


 俺とクエスタ、ヒュノとレゥ、そしてヴォルフは一人だけで乗る。


「よぉし、乗ったな」

 ヴォルフがにやりと笑う。

「で、どうやってそこまでいくのよさ?」

 ヒュノが問いかけるが、彼は「今にわかる」と言葉をはぐらかす。


 倉庫の天井は木の長い板を何枚かくっつけたレベルの粗末なつくりだ。

 正直、かなり嫌な予感しかしなかった。

 正面の入り口は三頭通り抜けられるほど広くない。じゃあ、残りは……。


「よし、行くぞ!」

 突如、ヴォルフが叫ぶ。

 直後に俺らの乗っていたペガサスが勢いよく飛び上がった!

 

 舌を噛みそうな速さで天井に急接近。そして、そのまま破片をまき散らせながら天井を突き破ったのだ。


「!!」

 衝突の瞬間にあまりの勢いでクエスタにしがみつきながら目をつぶる俺。

 普通なら破片が俺の体に激突するはずだろう。

 しかし、破片どころか飛び上がった時の風圧すら感じなかった。


 恐る恐る目を開けると、俺らがいた倉庫はもう小さく見えており、隣のペガサスにはぐったりしたヒュノとレゥがいた。

「さ、流石にに、ガサツすぎなのよさ……」

「……びっくりした」


「おい、てめぇら、なにやってるんだ。今からのびてちゃ話にならねぇぞ」

 そんなことをいうヴォルフは涼しい顔をして俺らの少し先にいる。

「こらー!私さんをもっと大事に扱うのよさ!」

 頬を膨らませて抗議するヒュノの言葉に耳を向けず、「ついてこい」とだけ言い残して移動するヴォルフ。

「……」

「純騎さん、私たちも行きましょう」

 クエスタにそういわれ、「あ、あぁ」とだけ返すと、俺らのペガサスも彼の後に続いて移動しだした。


 ~~~


 ……というわけで飛ぶに飛んで一時間ほど。いや、体感時間はもっと長い気がする。

 宙ぶらりんで命綱なし。そりゃ、気分も悪くなるよ。


「クエスター!純騎ー!生きてるなのー!?」

 先行したヒュノ達がこちらを振り向いて声をかける。

 俺は手を振り返したが、どう見ても手が震えていた。


 すると、少し先に行っていたヴォルフのペガサスが急に動きを止めた。


「どうしたのよさ?」

「……」

 ヴォルフの横に来たヒュノが顔をのぞき込むが、彼は厳かな表情で下を眺めているだけだ。

 下には小さな石造りの小屋がぽつんと一軒あり、周りを武装した兵たちが十人程度警備していた。

「……もしかして」

 レゥの言葉に、探し物を見つけた子供のように口角を上げるヴォルフ。そして、歓喜の心を抑えるようにこうつぶやいた。

「ドンピシャだ。間違いねぇ。ここに、『竜のエネルギー』がある」


「お、おい、待ってくれよ!そもそも『竜のエネルギー』って……」

「お前ら、行くぞ!朝日が昇った直後が交代の合図だ!仕掛けるぞ!」

 俺の言葉など耳にも入っていないのだろう。ヴォルフはそう叫ぶとそのままペガサスから飛び降りた。

 って、おい!俺らがいる場所、百メートルくらい高度があるぞ!?


「おいおい!あいつ死ぬぞ!」

「純騎さん!助けに行きましょう!あの人、無鉄砲にもほどがあります!」

 青ざめる俺と、ペガサスの手綱を握るクエスタ。

 俺らもヴォルフの後を追い、ペガサスに乗ったまま急降下した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る