第18章 宝玉の解放

~~~


 暗闇にとらわれた私。

 周りには何もなく、もはや体の感覚すらも感じない。


 声は出せず、目は見えず。

 感覚もなければ音も聞こえない。


 ……純騎には別れを告げた。

 だから寂しくない……そのはずだったのに。


 なぜだろう。どんどん胸が苦しくなっていく。

 

 ―……会いたい―

 

 出ない声を震わせて叫ぶ。


 ―また会いたい―


 聞こえもしない音を頼りに叫ぶ。


 ―純騎に、また会いたい! ―

 

 

 瞬間、光が差し込んで――。


~~~


「レゥゥッ!」

 レゥめがけて落下しながら右手を前に構える。

 手には宝石が握りしめられたままだ。


 暴風が体の支配を奪う。

 しかし、こんなところで負けてられない。


 俺は、レゥを救う!


 竜の額まであと少し、手を伸ばせば届く距離。

 ……いける!


「ぐぅぅっ!」

 額に向かって右手を思いっきり伸ばす。


 レゥの形をしたものに、宝石が当たる。


「!!」

 直後、宝石からまばゆい光が発せられたかと思うと、そのまま俺と竜を包み込んだ。


~~~


 様々なレゥの表情が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

 嬉しそうな顔、怒った顔、悲しそうな顔……そして、


『ありがとう……純騎』


 彼女の……レゥの笑顔。


~~~

「純騎、起きるなの!」

「!!」

 ヒュノの声で俺は覚醒した。

 どうやら、草原に寝ていたらしい。


 体を起こすと、俺の両隣には不安そうな顔をしたヒュノとクエスタが。


「……起きたんですね、よかった」

 俺の顔を見るなり安堵の表情を浮かべるクエスタ。

 顔には涙のあともあった。


「俺は、あの時……」

「純騎が竜に飛び込んだと思ったら、いきなりピカーっと竜が光ったなの!」

 俺が思い出そうとすると、ヒュノから補足説明が入る。

 確かに、そこまでは記憶があるが……。


 ふと後ろを振り向くと、俺が作ったであろう崖がそびえたっていた。

 高さは並大抵ではなく、普通に飛び降りたらその時点で即死だろう。


「……俺、あの崖から飛び降りたんだよな?」

 俺の疑問にうなづく二人。


「確か、竜が光った後に、ゆっくりと純騎さんが気絶した状態で落ちてきたんですよ」

 クエスタの言葉に目が点になり、冷や汗が出る。


 ……俺は奇跡を起こすと粋がってたけど、本当だったらミンチだったぞ。


 我ながら無茶なことをした。そう思った直後、俺は大切なことをおもいだした。


「ヒュノ! クエスタ! レゥは!?」

 

 そうだ、俺はレゥを助けるために命を張ったんだ。

 巨竜の姿はなく、手の中には宝石もない。

 でも、レゥの姿が……。


 最悪の事態が頭をよぎり、心拍数が跳ね上がる。


 すると、クエスタが笑みを浮かべて、自分の背中を指さす。

 よく見たら、彼女は何かを背負っているようだ。


 彼女の後ろに回り込むと、そこにはすうすうと寝息を立てているレゥの姿があった。


 風が一気に暖かくなったように感じる。

 心の重荷がおり、その場にへたり込む俺。


「よかったあぁ……」

 安堵の息を漏らしながらレゥの頭をやさしくなでる。

 先ほどまで竜になっていたとは思えない、優しい少女の頭だ。


「ま、これで一件落着なの!」

 エヘンと無い胸を張るヒュノ。

 今回ばかりは俺も同意しようと立ち上がった瞬間だ。


 遠くから馬が走ってくる音が聞こえる。

 しかも、一頭や二頭じゃない。目視で確認できる限りで十頭はいる。


 その馬たちは中央にある馬車を囲って守るように動き、こちらに向かってくる。


「なんだ……?」

 俺が首をかしげると、馬の軍団がこちらに近づいてきて、全貌がわかってきた。


 まず、馬は十頭以上いる。そして、各馬に一人ずつ、武装した兵が乗っている。

 全員真剣な顔つきで前のみを見据えている。


 中央にある馬車を引くのは、さっきグリムが乗っていたようなペガサスが二頭。

 豪華絢爛な金の装飾が施されている黒い馬車だ。


 俺たちの前で立ち止まったかと思うと、馬車に一番近い場所にいた馬に乗っている兵が降り、ゆっくりと扉を開ける。


 そして、中から降りてきたのは……純白のドレスを身にまとい、頭にはクラウンをかぶっている少女だった。


「なんだ……?」

 俺が疑問符を浮かべる。

 周りを見ると、ヒュノとクエスタがあわあわと震えていた。


「ど、どうした?」

 俺が二人に尋ねるより先に、馬に乗っていた兵がラッパらしきものを吹き、先ほど扉を開けた兵がこう叫んだ。


「王女の到着である! 各人、頭を下げよ!」

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