第12章 凶器か幸せか

 ある日、暇つぶしに表通りをぶらぶらと散歩していると、一風変わった店を見つけた。

 きらきらと装飾が華やかな建物で、周りの煉瓦組みの家とは違い、白い煉瓦で組まれてある。


「なんだろう、この店」

 ショーケースから中をのぞいてみると、俺が見たことのないような石が埋め込まれてあるネックレスや、イヤリング、指輪などが展示してあった。

 どうやら、宝石店かアクセサリーショップらしい。


「ほうほう、こんな店があったのか……」

 日本でも異世界でも宝石というものに縁がなかった俺。

 こういうのを見るのは初めてだ。


 そういえば、女性ってきらきらしたアクセサリーとか好きだよな。

 ヒュノとクエスタに何か買って行ってやろうかな。

 

 そう思い、俺はショーケースの中の値札を見る。


「げっ……」

 直後、言葉を失った。


 ネックレスが三十万ウィザ、イヤリングは片方で五十万ウィザ、指輪に至っては、魔力製と書いてあって二百万ウィザという値段がした。

 俺が持っているのが千ウィザ……。


「圧倒的に足りない……」

 その場にがっくりとひざを折る俺。


 こういうのは貧乏人お断りというのは感覚的にわかっていた。

 しかし、ここまで貧富の差を痛感するとは……。


 ここで、あることに気付いた。


 手のひらを見て考える俺。

 確かに、日本では俺は無力だ。

 しかし、今の俺には『無限錬成』という素晴らしい力があるじゃないか。


 これを使えば、この殿様商売のアクセサリー店に金を落とさずとも、ヒュノとクエスタにプレゼントできる……。

 そして俺の好感度はうなぎのぼりだ!


「ふ……ふふ……フフフフ……」

 不気味な笑みをこぼしながら帰路につく俺。

 周りの人間たちは気持ち悪いものを見る目で俺を見ていたが関係ない。



 さて、家についた。

 ヒュノとクエスタには、俺の部屋に入るなと念を押し、閉じこもる。

 

 先ほど見たアクセサリーを頭に思い浮かべる。

 作るのは、一番高い指輪だ。


 ――銀みたいな指輪で、紋章が彫ってあって、魔力製で……確か、中央にトパーズみたいな宝石があったな。

 

 そして目を開く。

 今回は会心の出来だ……。

 そう思っていた。


「え……?」

 ただ、現実は甘くなかった。


 出来たのは、確かに指輪だ。

 しかし、アクセサリーショップで見たのとは似ても似つかないもので、どこか不格好だ。


 中指にはまる程度の直径を持つ指輪は、確かに銀っぽい性質をしているが丸はいびつで、宝石もきらきらしていない。

 紋章もどこかへにょへにょしており、知らない人が見たら『子供の工作』と見てしまうほどだろう。


「……失敗かぁ」

 肩を落として次の物を作ろうとする。

 

 その瞬間。


「純騎ー! 遊んでなのー!」

 俺の話を聞いてないヒュノが思いっきり扉を開けて入ってきた。


「ちょ、ヒュノ!?」

「純騎ー! こんな埃っぽいところに閉じこもっていたら病気になるなのー!」

 そういってぐいぐいと俺の腕を引っ張るヒュノ。

 いや、いくら俺が掃除下手だからと言って、俺の部屋を『埃っぽいところ』って表現するのはどうなの?

 俺、泣くよ?


 外に出たくないと必死に抵抗していると、ヒュノの目線が俺の作った指輪にうつった。


「あれ、純騎、これ……」

「あー! これは違う!」

「?」

 指輪を拾い上げる彼女。

 歪な指輪を熱心に眺めた後、ヒュノは俺に向かってこう言った。


「これ、街のアクセサリーショップのものと似ているけど……純騎、どうしたなの?」

「……」

 これは、バラすしかない。

 俺は隠し事は苦手なんだ。


「あー、それ、俺が作ったんだ。アクセサリーショップでお礼用に買おうとしたんだが、高くてな……」

「純騎……」

 ヒュノはぽつりとつぶやくと、指輪を持ったまま部屋を飛び出した。

 そして、


「クエスター! ちょっと来るなのー!」

 と、ずるずるとクエスタを連れてきた。


 目を丸くしているクエスタに、ヒュノは指輪を笑顔で手渡してこう言った。

「はい、これ、純騎からのプレゼントなの!」

 

 一瞬、心拍数が急上昇する。


 確かに、俺はプレゼントする予定だった。

 でも、それはもう少しまともなものを作ってから……、そのつもりだったんだ。

 

「いや、それは……その……」

 頭をかき、どもっている俺。

 そんな俺にクエスタは、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべてこう言った。


「これ、純騎さんが作ってくれたんですか!? ありがとうございます!」

 あれ? これは意外な反応だぞ?

 てっきり、軽蔑されるものかと思ったんだが……。


「でも、それ、本物じゃないよ? 形も歪だよ?」

「純騎さんが作ってくれたものですから嬉しいです!」

 俺の疑問にも率直に返してくれるクエスタ。

 一瞬、胸が締め付けられるような感覚に陥った。


 クエスタは指輪を右手の中指につけて、宝石の方を俺に見せて明るい声でこう聞く。

「どうですか? 純騎さん、似合いますか?」

「あ、あぁ……」

 俺の返した気の利かない返事でも、クエスタは顔をにやけさせていた。


 ――……よかった、俺のつくったもので、喜んでもらえた。


「純騎ー! 私さんの分も作るなのー!」

 余韻に浸る俺に、空気を読まずそう叫ぶヒュノ。

「おう、待ってろ!」

 ただ、俺もノリノリだったようで、すぐにもうひとつの指輪を錬成した。



 ヒュノとクエスタは、その指輪を右手の中指につけて、喜んでいた。


「……」

 はしゃいでいる彼女たちを見て思う。

 無限錬成は、こういう使い道があるのか、と。

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