第8章 世界と能力
『まず、世界のことについてお話ししましょう』
落ち着きつつも、真剣さが残る声で彼女は話す。
俺は言葉を発せず、黙って聞いていた。
『その世界は、純騎が住んでいた世界とよく似ている場所。大気、時間、食物などはすべて日本、いや、地球とうり二つな世界です』
「じゃ、じゃあ、俺がこの世界で食べた食べ物は……」
『はい、地球の食物となんら変わりはありません』
ニーパのその声を聴き、ほっと胸をなでおろす。
いきなりわけのわからない世界に来て、食事で体調を崩すのは一番嫌だし。
『しかし、地球とは違う点があります、それは……』
「魔法か?」
俺の回答にニーパは『よくわかりましたね』と返した後にさらに言葉をつづけた。
『そうです、魔法の概念です。その世界の住人は、大半の人間は魔法を使うことができます』
「魔法……」
その言葉で、今日の戦闘を思い出す。
放たれる火の玉、突然出来上がる弓矢。
そして、
『純騎がその世界に転生する以上、何かしら力がないといけません。それが、私が副賞として託した【無限錬成】なのです』
「……さっきクエスタが驚いていたよ。【この世界にはもともとない力だ】って。」
『それはそのはずです。その力は創造神にも等しい力。本来は純騎のような一般高校生が使うことはできないはずですから』
彼女のその言葉がグサッと刺さる。
しかし、納得はできた。
要は、【俺は神にも等しい力を得た】ということだ。
そんな大きすぎる力、普通の高校生に使うことはできない。
ニーパは『話を続けます』と前置きを入れて話し始めた。
『今、純騎がいるその国は【ウィザ王国】といい、魔法が発達しています。
もともとは【地上の楽園】と言われ、BB団が出てくるまではそれはそれは治安のいい国だったらしいです』
「BB団……」
昼間に戦ったあいつらか。
ごろつきの集まり……って言ってたな。どの世界にもごろつきはいるんだな。
『もうひとつ国はありますが……まあ、今は話さなくていいでしょう』
「お、おい、なんでだ?」
釈然としなくて問いかけたが、彼女は『いずれわかります』としかいわなかった。
『そして、ここからが本題。純騎の能力について、少しだけお話をさせてください』
彼女の言葉に、俺は「おう」と答えると、また、彼女は語りだした。
『純騎の力、【無限錬成】には、ある法則があります』
「……法則?」
『それは……』
そこで彼女は一度言葉を切り、少し間を置いた後にこう言った。
『生み出されるものは、すべて脳内基準で作られる ということです』
「脳内、基準……?」
『えぇ。純騎が生み出したものは、すべて貴方の記憶や知識を媒体にして生まれます。それによって、威力や強度が左右するということです』
「……」
思い当る節がある。
ミーサ相手にロケットランチャーを撃った時だ。
普通だったら死ぬであろう威力なのに、彼女は煙幕かと勘違いしていた。
――あれはミーサが頑丈すぎるんじゃなくて、俺の知識が無さすぎただけか……。
『なので、わからないものは作れません。
例えば、傷薬を作ろうとしたら、どういう形状で、どういう効能なのかが正確にわからなければ作れない、もしくはおかしなものが出来上がります』
「なるほど……」
もしあそこで、俺が傷薬を作っていたら、クエスタが……。
最悪の事態が頭をよぎり、それを振り払うようにぶんぶんと首を横に振る。
『……なので、その世界で生き残るならふたつにひとつ。
【誰かに頼る】か、【自分の知識を増やすか】です』
「……」
彼女の言葉で黙り込む俺。
確かに、勉強はそこまでできたわけじゃない。
だが、誰かに頼るのはまっぴらごめんだ。
俺は無力じゃない。
できれば、この力で……。
「誰かを、守りたい……」
『何か言いましたか? 純騎』
知らず知らずのうちにつぶやいていたようで、ニーパから問われる。
俺は「な、なんでもない」と慌ててごまかした。
その後、彼女は『とにかく』と言った後、さらにこう続けた。
『純騎の居場所は今あるのでしょう? だとすれば、異世界生活を満喫するのもありだとは思います』
確かにごもっともな意見だ。満喫しなきゃ、第二の人生の意味がない。
「あぁ、そうするよ」
俺がそう返してお礼を言おうとした瞬間、『じゃあ、切る前にひとつだけ』と、彼女からこう言われた。
『守りたいなら、使いこなして力をつけなさい』
そして、ブツリときられる電話。
「……え?」
ツーツーとなるスマホを見つめながら、俺はこうつぶやいていた。
「ニーパの野郎、お見通しじゃねぇか……」
そして、夜は更けていく……。
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