第7章 その名はミーサ
ボスの言葉に唖然とする俺ら。
「勝負……?」
「あぁそうだよ。さっきの戦いっぷりを見ていたらあたいもうずうずしてきてねぇ。あんたたちと戦いたくてたまらないんだよ」
俺の言葉にカラカラと笑いながらそう返すボス。
彼女は右手のライフルを背負いなおすと、懐からスキットルを取り出してぐぴぐぴぐぴと浴びるように飲み干した。
そして、ウィスキーくさい息を吐きながら俺らにこういった。
「あんたたちが、あたいに勝てればBB団は今日で解散する。一番強い奴に勝ったってことだからねぇ。
でも、酒が切れるまでにあたいが勝てば……、あんたたちがBB団に入る ってのはどうだい?」
その言葉を聞いて顔を見合わせる俺ら。
……正直、不安しかない。
確かに、ヒュノとクエスタが強いのは分かった。でも、相手はボスだ。
そんじゃそこらの雑兵と一緒なわけない気がする。
……分が悪い。
「クエスタさん、どう思います?」
「人数が多いとはいえ、こちら側に不利な条件ですね。逃げましょう」
俺とクエスタがひそひそと話していると、ヒュノが一歩前に飛び出して、こういった。
「戦うなのよさ! 挑まれた勝負は受けなきゃならないなのよさー!」
……え?
固まる俺とクエスタ。
ヒュノのその言葉を聞いたボスは、笑顔を浮かべた。
「良いじゃないか! 話が分かるねぇ、あんた!」
「えっへんなのよさ!」
……あかん。
倒れかけながらもクエスタの方を見ると、彼女は額に手を置き溜息を吐いていた。
ボスは、スキットルを後ろに投げ捨ててライフルを取り出すと、ぎろりとこちらを睨みつけてこう叫んだ。
「じゃ、今から闘うよ! 準備はいいかい! あんたたち!」
「いつでもこいなのよさー!」
元気よく反応するヒュノ。
やれやれとクエスタも戦闘準備を開始する。
「そこのぼさぼさ頭! あんたの力、楽しみにしてるよ!」
にやりと笑って下がっていったボス。
その言葉を聞いて、俺の頭にはこんな疑問が浮かんだ。
……これ、俺も戦うの?
『やっちまえー!』『あんなやつら、ボスにかかれば瞬殺だ!』
ヤジを飛ばすBB団の団員たち。
俺の右上と左上にいるヒュノとクエスタは、真剣な顔つきでボスの方を睨んでいる。
「そうだ、戦いの前にはまず挨拶からだねぇ。あたいの名前はミーサ。あんたたちは?」
ライフルを肩に当て、笑いながら問いかけるミーサ。
俺らはしばし黙り込んでいたが、ヒュノが矢を構えながらこう返した。
「私はヒュノなのよさ! 冥土の土産に覚えておくがいいのよさ―!」
「おぉ、ヒュノっていうのかい!よろしくな!」
ミーサはさらに、こちらに視線を向け、「で、あんたたちは?」と問いかけた。
「……クエスタです」
「純騎……」
「ほうほう、クエスタに、男の方は純騎っていうのかい。良い名前だねぇ、気に入ったよ」
屈託なく笑うミーサ。
彼女は本心からそう思っているようで、表情は明るかった。
「ミーサさん、こんな無意味な戦い、やめにしませんか? 姉さんの犯した愚行なら謝りますから……」
深々と頭を下げるクエスタに、プンスカと怒るヒュノ。
「クエスタ!? どう言う事なのー!? なんかひどい言葉が聞こえたような気がしたなの!」
残念でもないし、当然だ、ヒュノ。
クエスタの言葉に「いいねぇ、優しい愛だねぇ」と嬉しそうにつぶやいたミーサだったが、目を閉じて
「……でも、戦いは戦いだ。あんたたち、守りたいものがあるなら、力で語りな」
ギロリと俺らを睨みつけた。
「!!」
背筋にぞくっと寒気が走る。
これが、威圧感なのか!?
クエスタとヒュノも、蛇ににらまれたカエルのごとく一歩も動けないようだ。
腐っても集団のボスという事か……。
「行くぞ!」
ミーサは声と共にライフルを構えた。
……俺はよく分からないが、あの大きさ、重さは相当なものだろう。
だが、それを両手に構えてるとなると……。
「やばいぞ、これ……」
冷や汗だらだらの俺の前にクエスタが立ち
「純騎さん! 私が守ります! 下がっていてください!」
と杖を構える。
「そぉらよっ!」
ミーサの声と同時に爆発音が六回鳴り響く。
ライフルから銃弾が放たれたのだ。
薬莢が宙を舞う。
ほぼ同時のタイミングでクエスタが先程の『
ガキン と金属と金属がぶつかる音が響いた。
どうやら標的は俺だったようで、クエスタがいなかったらどうなってたことか……。
「クエスタ! ありがとう!」
俺の方を振り向いて安堵の息を漏らすクエスタ。
その刹那。
「よそ見してるんじゃないよ!」
目の前から聞こえるミーサの声。
クエスタが前を向くと、いつの間にか目の前にはミーサが立っていた。
そして、超人的な速さでライフルと手斧を持ち変えると、「そぉらっ!」の声と共に思いっきり
「!!」
すぐさまクエスタはぎゅっと杖を握りしめて衝撃に備える。
しかし、クエスタの努力むなしく、バキン という快音と共に盾が真っ二つに割れ、消滅する。
俺の心拍数が一時的に急上昇する。
「くっ……」
がっくり膝をつくクエスタ。
息は荒く、顔色が悪そうだ。
「クエスタからはなれるなのー!」
突如、横から聞こえてきたヒュノの声。
彼女は先ほどとは比べ物にならないほどの光の矢を構え、ミーサに向かって放った。
ぐんぐんとミーサと矢の距離が近づいていく。
しかし、目の前で、手斧を残していきなり彼女の姿が消えた。
上空から聞こえる彼女の声。
「我武者羅な攻撃があたいにあたるとは思わない事だね!」
そう、ライフルを構えながら飛んだのだ。
「なっ……」
「まだまだだね。たんまりくらいな!」
俺の驚きの声と同時に放たれた計六発のライフル弾。
銃口は俺の方を向いていた。
――錬成する間もなくやられる……!
俺が目をぎゅっとつぶり、覚悟を決めた時だった。
「純騎さん! 危ないです!」
俺を後ろに跳ね飛ばしたクエスタ。
そして、俺が見たのは……。
「きゃぁぁぁっ!」
叫び声と共に銃弾の雨を浴びるクエスタの姿だった。
「クエスタ!」
「なんだいなんだい、純騎は動かないのかい、つまらないねぇ」
あおるようにそういうミーサと、肩から血を流すクエスタ。
直後、ヒュノが三発の矢を放つ。
「こんのぉ!」
ミーサの頭・上半身・足を狙った矢はすべてステップでかわされた。
「あたいの勘違いかい? もっと楽しませておくれよ」
元の位置まで戻り、悠々と話すミーサ。
その顔には、酒のにおいはあれど、焦りがみじんも感じられなかった。
「くそっ!」
奥歯をぎりりと噛みしめ、拳を痛いほど握りしめる俺。
と、それと同時に、俺は無意識のうちにあるものを錬成した。
俺が思う『
俺は軍事の事に関しては詳しくなかったが、映画を見たので打ち方は分かってるつもりだ。
――せめて、一矢報いてやる!
とてつもない重さを耐えながら照準を合わせ、余裕そうにたたずんでいるミーサに向かって引き金を引いた。
バシュゥン! と聞いたことない音が聞こえた後に小さいミサイルのようなものが発射された。
それは彼女の元まで飛んでいき、
「!!」
ボフン と大きな音を立てて煙が上がった。
――やったか!
ロケットランチャーを投げ捨て、心の中でガッツポーズをした俺。
しかし、その期待は淡く打ち砕かれた。
「なんだいこれは、なんかの手品かい?」
多少イラついたミーサの声が聞こえてきた。
彼女は、煙から出てきてスキットルを懐にしまうと、眉を顰めながらライフルを構えた。
「あたいはねぇ、酒を飲んでる時を邪魔されるのが大っ嫌いなんだよ! その罪、しかと清算しな!」
ウソだろ? だって、ロケットランチャーだぞ!? なんでぴんぴんしてやがるんだ、あいつ!?
俺が動揺している間に、クエスタが息も絶え絶え立ち上がった。
「大丈夫なの!? クエスタ!」
ヒュノの言葉にクエスタはこくりとうなづくと、そのまま立ち上がって俺にこういった。
「純騎さん……私が魔法を詠唱している間、姉さんと共に相手をひきつけてください」
俺は無言でうなづく。
ヒュノもこくこくと力強くうなづいた。
その間、ミーサは足をだんだんと踏みながらイライラした様子で待っていた。
「あんたたち、最後の話し合いは終わったかい?」
ミーサのその声。
それが、ヒュノとクエスタの合図だった。
ヒュノが弓を構えてミーサに向かって一直線に走り出す。
その後方でクエスタが杖を構えて目を閉じた。
クエスタの足もとに青白い魔方陣が広がる。
円形でよくわからない文字が描かれたそれは、クエスタを中心として結界を作り出した。
「『今宵、私たちは天・地・水、すべてを生み出す……』」
クエスタの周りに光が集まっていく。
ヒュノはミーサの銃撃をすべてかわしながら、矢を放っていく。
「……」
俺にできることを模索する。
特別、力が強いわけじゃない。
チートスキルも今は使いこなせない。
でも、生き残りたい……!
覚悟を決め、あたりを見渡すと、ミーサが落としたスキットルが目に入る。
「……気をそらすくらいなら!」
俺は全力でスキットルの方まで走る。
そして、それを拾い上げると、俺に背中を向けていたミーサの後頭部に思いっきり投げつけた。
ガンと鈍い音がする。
「……なんなんだぁ? 今のはぁ?」
聞いているだけで震え上がる程のドスを効かせ、ミーサがターゲットを俺に変更した時だった。
「『万物万象私の手の中に!
クエスタのその声と共に、彼女から色とりどりの星が振り注ぐ。
「!!」
俺の方を見ていたからか、ミーサは反応が遅れ、全て直撃する羽目になった。
「……倒れて」
杖を支えにしてかろうじでたっているクエスタ。
そんな彼女に近寄る俺とヒュノ。
燃え上がり、風が吹き荒れ、
これで終わった……。
BB団員たちも、俺らも、誰もがそう思った。
「いいねぇ、やるじゃないか」
楽しそうな声が響く。
「姉御だ!」「姉御はまだ生きている!」
団員たちの嬉しそうな声が聞こえてくる。
やがて、上がった火柱が消えうせる。
その中心部には、焼け焦げ、切り裂かれた服を着てこちらを睨みつけながらも笑顔を浮かべているミーサの姿があった。
「まだ生きてるなの!?」
「あぁ、あんたたちの作戦、面白かったよ。だが、詰めが甘かったようだねぇ」
にやりと笑い、ライフルを構える。
銃口は、もちろん俺達だ。
クエスタは動けない。俺もろくなものが作れない、ヒュノもおびえている。
……今度こそ死を覚悟した。
「アディオス」
そして、引き金は引かれた。
――ここで終わりか……。
――早かったな、異世界生活……。
覚悟を決め、今までの出来事が走馬灯のように流れていく。
しかし、いくらたっても痛みは来ないし、まだ生きている。
「……?」
ミーサの方を見ると、カチカチとライフルの引き金を引いていた。
そして、やれやれといった感じで溜息をひとつつくと、俺達に向かってこう言い放った。
「……あんたたち、運がよかったね」
「……弾切れだよ」
「……え?」
俺の素っ頓狂な声が響く。
「いやー、ヒュノとかいう少女に全弾使ったのがいけなかったねぇ。今は替えの弾もないし……」
大げさに、しかし悔しそうにミーサは自らの頭をかく。
「私さん……大活躍なの!?」
「おぉ、そうさ、大活躍さ」
ヒュノの無邪気な言葉に笑顔で返すミーサ。
そして、俺らに背中を向けてこういった。
「酒が抜けちまった、この勝負、引き分けだ」
そして、黙り込んでいるBB団の軍団に入っていくと、「野郎ども! 帰るよ!」と彼らを引き連れて去って行った。
取り残される俺たち三人。
周りの建物からは続々と避難していた人たちが出てきた。
「引き分け……ですか」
ぜぇぜぇと重い呼吸をするクエスタ。
彼女の肩からは血がダラダラと流れている。
あたふたとしながらヒュノがクエスタに話しかける。
「クエスタ! 無理しないでなの!」
「いえ……この程度の怪我、なんてことありません……」
――いや、確実にやせ我慢だろ……。
実際、彼女の顔は苦痛に歪んでいるし、出血量も多い。
このままだと……!
「くっ、傷薬くらいなら作れないか……?」
そう思い、俺が練成しようとした時だった。
前方から声が聞こえてきた。
「おぉい、君たち、大丈夫か?」
見てみると、顎髭を生やした小太りの男性が、緑色のエプロンを装着したままこっちに走ってきた。
「ジュースのおじさんなの!」
彼を見てはしゃぐヒュノ。
なるほど、ヒュノのこの反応……。彼はおそらく、俺らが行こうとしたジュース屋の店主なのだな。
この局面でそんなことを考えていたのは、現実逃避したかったからなのか。
それはわからない。
「いやぁ、店の前でいきなり戦いを始めるもんだから、おじさん、びっくりしてガタガタ震えていたよ」
恥ずかしそうにそういう彼は、「あ、そうそう」と持っていたトートバッグから葉っぱの束を取り出した。
「おじさん、これは……」
「あぁ、これかい? うちで使っている薬草だよ」
「薬草……」
「あぁ、クエスタちゃんがけがをしてるからね、持ってきたんだ」
そう言ってヒュノに薬草を手渡すおじさん。
ヒュノは「ありがとうなの!」とお礼を言ってさっそくクエスタのもとに持っていく。
しかし、薬草の葉っぱは小さい。見た感じ、手の中指ほどの大きさしかなかった。
クエスタの傷口に薬草を当てようとするが、うまくいかずにおろおろするヒュノ。
「どうしようなの……これじゃあ、傷の部分にうまく当てられないなの……」
数はたくさんあるが、これじゃあ、いつ治るかわからない。
……どうすれば。
「そうだ……!」
俺はとっさにあるものの存在を思いついた。
そして、それを一瞬で作り出す。
「ん、これは……」
真っ先におじさんが気付いたようだ。
白くて、長くて、伸縮性のある布……。
「包帯なのよさ!」
そう、包帯だ。
布がないなら作ればいい。
布よりも伸縮性がある包帯の方がいい。
俺の考えは当たっていたようだ。
ついでにハサミも作り出そうとしたが、おじさんが気を利かせて店まで取りに行ってくれた。
全力で走るおじさんは、それはそれは頼もしかった。
「じゃ、ヒュノ、一緒にクエスタを治療するぞ」
俺がそう話しかけると、ヒュノは「わかったなの!」と薬草を握りしめた。
ヒュノの話だと、どうやら、この薬草はあてたところの自然治癒力を高めるものらしい。
ヒュノが薬草を患部に当て、俺が包帯を巻く。
ちょうどその時に息を切らせながら戻ってきたおじさんが、俺にハサミを手渡した。
ここから店まで距離はあまりないと思うが……、おじさん、もしかして体力がない?
「純騎……さん」
きつそうな声で俺に話しかけるクエスタ。
「しゃべるな、クエスタ。今、お前は怪我人なんだ」
ヒュノがあてた薬草に包帯を巻きつけながら、俺はそう返す。
いつもだったら女性の体に触れただけでテンパる俺だが、今は四の五の言っていられない。
俺をかばって大怪我をした……。
その事実が俺を焦らせる。
もともと手先があまり器用でないのもあり、多少巻き方が不格好になったが気にはしていられない。
そして、三十分経過した。
「薬草、全部なくなったなのー!」
「こっちも終わりだ! どうだ? クエスタ」
クエスタの方を見ると、顔色が少しだけよくなっている。
薬草の効果ってすげぇ。
「ありがとう、ございます……」
フラフラと立ち上がるクエスタ。
俺は無言で肩を貸した。
彼女が驚いた表情で俺の方を見つめる。
「クエスタ、帰るぞ」
俺の言葉に、彼女は一言、「はい」とだけ答えた。
さて、ここだけ見れば俺はかなりかっこいいかもしれない。
だが、問題がひとつ浮上した。
――歩けねぇ!
そう、俺が非力すぎて歩けないのである。
クエスタはそこまで体重が重いというわけではなさそうだ。というか、女性に体重の話題はNGだ。
そんな彼女に肩を貸して歩けない俺……もう少し筋肉をつけておくべきだった。
実際、俺の膝は笑っている。
「……あの?」
「だ、大丈夫だから」
クエスタの心配そうな言葉に、ひきつった笑いで返す俺。
誰がどう見ても無理しているのは明確だった。
「純騎、早くいくなの―!」
俺の右手を引っ張るヒュノ。
ちょっと待ってくれ、歩けねぇって!
「姉さん、ちょっと待ってあげてください……」
「クエスタの危機なのー! 早く帰って私さん特製栄養ドリンクを飲ませてあげるなのー!」
ぐいぐいと引っ張るヒュノに、制止させようとするクエスタ。
って、待ってくれ! このままだと、俺、バランスを崩して……!
ぐらりと地面が近くなる。
そして、
「いでっ!」
ばったりと地面にうつぶせの状態で倒れてしまった。
俺の上にはクエスタが覆いかぶさるように乗っている。
「だ、大丈夫ですか!?」
クエスタが上から心配の声をかけてくれる。
というか、胸が当たってる! おそらくDくらいはあるであろう胸が背中に当たっている!
鼻血が出そうになるのを抑えつつ、俺は「あぁ、大丈夫……」と立ち上がった。
「……じゅーんきー」
起き上がった瞬間、にやにやしているヒュノと目が合う。
「なんだよ……?」
すると、彼女は俺にとてちてと近づき、こう耳打ちした。
「クエスタのおっぱい、かなり純騎の好みなの……?」
――うるせぇ。
俺は喉の奥まで出てきたその言葉を返さずに、彼女の脳天に拳骨を一発かましておいた。
その後、見かねた店主のおじさんがリヤカーにクエスタを乗せて家まで運んでくれた。
……明日、ジュース買いに行かなきゃな。
そして、夜更け。
俺は全員が集まる夕食の時間、その時間にすべてを話すことにした。
俺はどこから来たのか、どういう経緯で来たのか、どういうスキルを持っているのか……などだ。
「え……? 『無限錬成』?」
箸でつまんでいた夕食のハンバーグを落としかけるクエスタ。
驚くのも無理はない。どうやら、この世界にはないスキルらしいのだ。
「あー、そうらしい。なんか、ニーパって女神からいきなり異世界に転移させられるわ、チートスキルがいまいち使えないわで……」
愚痴にも似た俺の境遇を漏らすと、クエスタの隣でハンバーグをほおばっていたヒュノがこういう。
「でも、純騎、クエスタを治療してた時はかっこよかったなのよさ!」
「そ、そうですよ! おかげで私も無事に助かりましたし……」
手をパンと合わせてフォローに入ってくれるクエスタ。
たしかに、ライフル弾の傷は、薬草をはりつけて一時間くらいしたら完全にふさがっていた。
薬草、恐るべし。
これ、上薬草とか特薬草とかあったらどうなるんだ……?
「……でも」
褒められてうれしい半面、素直に喜べない俺がいる。
心に霧がかかっているように気分が晴れない。
心配そうな顔で見つめるクエスタと、なにも気にせずスープを飲み干すヒュノ。
「ごめん、ごちそうさま」
食欲が一気に無くなった俺は、クエスタにお礼を言うとそのまま部屋に戻った。
部屋への薄暗い階段を上る。
木製の急な階段で、一歩踏み外せば下まで真っ逆さまだ。
「……」
ライトすらつけずに階段を登る。
確かに、無限錬成は強い力だ。
実際、ロケットランチャーを生み出したり、包帯を作ったりできた。
でも……。
『あんたたち、守りたいものがあるなら、力で語りな』
ミーサのあの言葉が引っ掛かる。
「俺の、守りたいもの……」
その言葉をつぶやきながら階段を登る。
明かりをつけていない部屋に戻った俺。
そのままベッドにぼふっと横になる。
「あー……」
無気力のまま天井を見上げる。
木目が俺を嘲笑っているかのようにしか見えなかった。
「……力か」
力はある。
だけど、使いこなせていない。
床に置いたままの日本刀も、たぶんろくに使えないだろう。
「頼れる奴と言えば……いねぇなぁ」
自嘲にも似たつぶやきを吐いた瞬間、机の上に何かが置いてあることに気が付く。
スマホだ。
「そういえば、昨日作ったスマホ……」
たしかこれは、ニーパと電話できるはず。
だとすれば……!
震える指で発信ボタンを押す。
一コール、ニコール……。
『は~い、ニーパです~』
昨日と変わらない、おっとりとした声が聞こえてくる。
半ば安心感すら覚えた俺は、彼女に質問を投げかける。
「なあニーパ、俺の力、いったいどういうものなんだ?」
『え? それは【無限錬成】といって……』
「そうじゃない、使いこなす方法だ」
『……』
俺の声にニーパは少し黙り込んだが、その後、今までにないほど真剣な声で、こう話し始めた。
『わかりました、お話ししましょう。
その世界と、貴方の力のすべてを』
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