第14話
【勇者でも魔王に恋がしたい!】
十四話
「身体は動かなくとも聞こえているのだろう?勇者よ。……新たな魔王に必要なのは君だからな。待ってたよ勇者……そして、今から魔王になる逸材……」
低いトーンの声だけが聞こえてくる。何言ってんだこいつ……俺が魔王なんかになるわけないのによ。
そして、よくわからんクラッシックっぽい音楽が流れる。なんだろう。すげえ眠くなる。
「眠るな……眠るな……」
俺はこくりこくりと船を漕ぎ始めた。そして、睡魔に負け、次第に意識をなくしていった。
****
目を覚ますと、R18コーナーに入った時のようなピンキーなものを見るハメになった。
頭が少しがんがんするが、あたりを確認する。
女の子っぽいファンシー系の部屋だ。
「すげえ趣味してるな……」
立ち上がろうとするが、変な感じだった。変な感じなんだ。大事な事なので二度言っておく。体が重いというか辛い感じだ。なんだ?女の子の日か?いやいや、俺男の子だもん!
重たい腰を上げ、ゆっくりとベットに手を置きながら立ち上がると、目線がいつもより低い。いや、多分気のせいだ。そうに違いない。自分に言い聞かせて、ベットの横にあった姿見で確認すると、全く知らない女らしい顔があった。
「……は?誰これ?」
髪の毛は尻あたりまで伸びて長いし、体の胸や尻が女性特有の丸みを帯びたものだった。
いや、これ、俺か?別人みたいだが、うん。
でも、少しだけ俺の面影があるような気がする。
そして、俺は自分の胸についている脂肪に、惹きつけられるように鷲掴み動かしていた。柔らけぇし、手に収まりませんよこれ!
「……けしからん。けしからんぞ!!あとでバニラに自慢しよっと」
いや、待てよ。こんなものがついているということは……
冷や汗を掻きながらも恐る恐る手を自分の股間に伸ばすと、そこに鎮座してなければならないはずのものがなかった。
「ない!ないない!ないぞ!?」
何度も確認のために何度も触ってみるが、結果は変わらない。男の象徴がない!ないんだよ!
「……いや、そんなことあるはずがない。これは夢だ。うんうん。だから頬を抓ったら……」
夢でも痛いくらいに抓ってやる。こうなりゃやけだ。グイッと思いっきり頬をつまんでみると、ちぎれそうな程に痛かった。
「痛い……」
誰がこんなに思いっきり抓ったんだよ。跡残っちゃったし……あ、俺か。いや、今は私?わたくし?いや、まさかの僕キャラでいくか!?……消失感のあまりに泣きそう。女の子だもん!
「失礼します。魔王」
そう言って背の高いイケメン。確かルシファーと名乗っていたやつは部屋に入ってきた。
「何を言ってるんだ?俺は魔王じゃなくて勇者だが?」
声も高くなってる……どうやらマジで女になっちまったみたいだ。
もうこの際どうでもいい。とりあえずすげえ胸が苦しいので服が欲しい。女のコってこんなに辛いのね!
「こちら、洋服で御座います」
そして、服を置いて深々と頭を下げるとルシファーは去っていった。
「着替える。か」
自分で脱いでいるのにも関わらず恥ずかしい気持ちと、見たいという気持ちが重なり合って気持ちが悪い。
そして、全貌が明らかとなった。お腹の傷は消えてなかったが、一言で言えば綺麗であった。そんな感想しか出てこない……俺は余計に虚しくなった。
だって、エロいじゃん!すげえエロいじゃん!初めて見る女の裸だってのに……男であればそれを表すパロメーターを示すはずの物があるってのに……
溢れそうになる涙を上を向いて堪えつつ、白色の下着を身につけた後に、さっきルシファーが持ってきた服を着る。
それは黒のワンピースだった。
やっぱり魔性の女っての?大人っぽい女というのは黒が映えますね!
あまりに似合いすぎているので、あはんうふん。と、鏡の前でポーズをとってみる。
そうしていると、ちょっとくせっ毛の入った長い髪の毛が、口の中に入った。
「……邪魔くさい」
髪も邪魔なので、後にひとつに纏めておこうと、机の上に置いてあったシュシュを手に取っていじってみるが、結べる気がしない。やめておこう。
そして、とりあえず部屋から出る。すると、この中とは違い、アンティーク調の落ち着いた雰囲気の廊下が延びていた。
「一番奥の部屋なのか。ここ」
とりあえずここに居ても仕方が無いので、白いゴワゴワしたスリッパを履いて進んでみると、ひらけた場所に出た。
そして、なぜここだけ広いのかはすぐに分かった。この大きな扉のせいだ。それに『絶対開けるな』と怪しい看板まで立っている。
扉が大きいということは何かを守っているとかそんな理由が多い。
ゆっくりと扉を開けると、そこには実験施設があった。
「……なんだろ?」
実験施設というよりかは病院の手術室みたいなものになっていた。
そして、色々な器具を眺めつつ目を滑らせていくと、至ってシンプルなドアがあった。
そこに入ると本がびっしりと並ぶ図書館のようなものになっていた。ここの主は几帳面なのかあいうえお順で、綺麗に本が並べられていた。
その中には魔王のやめ方や作り方なんてものもあった。一応それにも目を通しながら、図書館を見て回る。
書斎なんかにはよく、隠し扉なんかが出てくる仕掛けがある。なので慎重に散策していくと、なぜか一つだけ飛び出している本があった。
それは二三ページほどしかない薄い本だった。それを抜き取り、中を読んでみると、魔王と勇者の生まれ方について書いてある本だった。
『元々魔王と勇者は同意義であり、相反するものではない』
「……魔王と勇者は同じ?」
衝撃のあまり、本が手から滑り落ちた。
「いやいや、まさかな。可能性のひとつということなのかもしれないし」
すぐさま本を拾い上げ、書物に目を落とす。
『魔王と勇者は常に互角でなければならない。魔王には絶大な魔力と力が与えられ、勇者には仲間が与えられる。
魔王と勇者は世に存在し続けなければならない。万が一どちらか一方が居なくなり世の均衡が破られてしまえば~~~』
ここから先は破られていて読むことが出来なくなっている。
「一体どうなるんだ……?」
現状、一応魔王はいるが力が抑えられている。これに書いてある均衡とは言えないよな。
そして、そんな時にキィーッと扉が開いた音がした。そちらを向くとイケメンがいた。
「読んでしまいましたか……」
ルシファーが入ってきてすぐに、俺を見つけるとこめかみあたりを抑えて、残念そうに言った。
「……なぁ。これってどういうことだ?」
隠れていたつもりではなったが、見つかったなら仕方ない。聞けるところまでは聞かないとな。
「見たままですよ……世界が終わるんです。だから僕達は必死に魔王の代わりを探していた。勇者には元魔王でもなれるので、問題ないし、それに……」
そう言ってやつは、俺の顔を確認してからニヤリと笑った。
「お仲間さんを傷つけたくないのなら、こちらで一人でいた方がよろしいかと」
「……そう……だな。なぁ、俺は本当に魔王になったのか?」
「はい。それは間違いなく。あとは貴方様の気持ち次第でございます」
やつの言うことなので信用は出来ないが、俺は魔王になったらしい。なら、この本に書いてあった『世の均衡』ってのは、守られるはすだ。
「……ここにずっと一人でいるだけで誰も傷つかない。そんな誰もが夢見るような世界があるとするなら……俺が魔王になろう」
「……左様でございますか」
にやりと微笑んだルシファー。だが、もう、別に気にするようなことではないな。
人間界は任せたぞ。ライドンさん、ミカエルさん、バニラ。そして、勇者アンナ。
俺は別に一人でいい。みんなが幸せになれるならばそれでいいんだ。
それに俺なんかよりもアンナの方が勇者に向いている。
……もう疲れた。どうせ、みんなの気持ちなんてわからない。いるだけでみんなを傷付ける。
守ろうとした結果そうなったんだ。なら、勇者なんてできるわけがない。人なんかと関わらない方がいい。
「魔王になったって言われても、あんまり実感が湧かないな」
「それでしたら、こちらの地図をどうぞ」
そう言ってイケメンらしく片膝をついて献上するように、人別帳風の巻物が俺に渡された。
「ここは魔王様の城、あるいは魔王様の家なのでございます。自分の家なのですから遠慮なくご修正なさって下さい」
「……ほう。まあ、人間の時はそんなことできなかったしな。わかった。やってみよう」
地図を開き軽く念じると、その地図に表示されている部屋のサイズなんかが変化した。
「じゃ、魔王城らしく変えますかな」
入口付近から迷路のようなものを作っていき、最終地点が最果ての部屋になるようにセットした。地図に映る部屋が白く光るので、最果ての部屋の表示がある所を触れると、殺風景な部屋まで飛んだ。
「……ここは、さっき俺が作った最果ての部屋ということか。なるほど。部屋に触れればそこまで飛べるのか」
感心しつつも俺は自分の部屋をいじり直すことにした。
とりあえず、この大広間は俺の部屋だな。
入口から赤黒いカーペットが階段を登らせ、俺の座る予定の大きな椅子まで伸びるようにする。
よし、ここで位置関係をしっかりさせる。
「招集をかけるか」
すると、すぐに俺の部下はやってきて、そのカーペットの横あたりに片膝をついている。
俺はそれを一番高い椅子に座って眺める。人が自分より低いところで頭を下げているというのは、実に気持ちがいいな。
部下とはいえ、二人しかいないのだがね。
「お前ら、人間界には手を出すなよ?絶対にな」
「はい。もちろんでございます……」
ルシファー、ベリアルはニヤリと微笑んだ。だが、そんなことはどうでもよくなった。これ以上のことなんてあるわけがないのだから。
そして、生活空間を作るべく、その部屋の裏方に個室を作ることにした。部屋は六畳程度で小さく、部屋の中をゴシック調に変えると、中世ヨーロッパのような晴れやかだが、落ち着いた雰囲気の部屋が出来上がった。
「やっと一息つける……」
カーペットの上に腰掛け、背の低いテーブルの上でコーヒーにミルクと砂糖をおおさじで五、六杯を入れて一気に飲み干すと、コーヒー特有のほろ苦さはなく、砂糖の甘さだけが絡むように口一杯に広がった。
「……甘い」
誰からのツッコミもなく、チクタクと時計の秒針だけが一定のリズムを刻んでいた。
そして、あれから月日は流れた。魔王生活が始まった当初は不安しかなかったが、元々女体であったかのようにその体にも慣れていき、それは案外暮らしやすいものであった。何もしなくても飯は出てくるし、何不自由ない生活だ。何も考えなくて済む。勇者時代よりもずっと楽だ。
だが、そんな平穏は突如として破られた。
「魔王様!」
ルシファーが慌てた表情で部屋に飛び込んできた。
「急に入ってくるなよ。で、どうしたんだ?」
ソファーから少し腰を上げ、コーヒーを一旦机の上に置いて、立ち代りでマドレーヌを摘みながら訊く。
「申し訳ございませぬ!勇者一行が城門前に」
「……あっそ。じゃ適当に追い返しておいて」
なんでラスボスが奥から出てこないのか、この立場になりようやくわかった気がした。ただ面倒臭いのだ。
俺はそう言うとルシファーを部屋から追い出し、今度は紅茶をすする。だが、まるで味がなく感じた。
「……もう、会いたくなかったんだけどな」
それから、しばらくして四人の外敵が俺の部屋までやってきた。仕方なく自分も個室から出て王宮の椅子に腰掛ける。
「……やぁ、みんな」
そこには知った顔が並んでいた。ミカエル、ライドン、バニラ、そして、アンナ……
元仲間のみんなだ。俺を見るなり驚いた表情を見せる。
「……お前、マルクなのか?」
ライドンさんが口を開く。
「……久しぶりですね」
「その声はやっぱり……子供の頃の声っぽいけどマルクなんだね!」
バニラが弾むような声で、そう言いながら笑った。
「あ、あぁ……」
人と会うのも久しぶりなので、反応と言葉に詰まるし、よくわからない間が生まれる。やっぱり俺は、人なんかと関わらない方がいいのかもしれない。
「……俺はもう魔王になった。だから、お前らはそっちで勝手に遊んでろよ。こっちはこっちで人がいるらしい。だから帰ってくれ。な?」
そう言って追い出そうとするが、みんなは一歩たりとも動かなかった。
「……出てけよ」
みんなを睨みながらも強い口調でそういうと、俺は魔法を使って強く扉を開いた。だが、下がることは無い。
「そんなの出来るわけないじゃないっ!馬鹿なの?あんた……」
ミカエルさんが珍しく感情的になり、蛇のような鋭い目付きで睨み返してきた。だが、彼女の前にアンナは手を出して止めた。
そして、アンナはこちらに振り戻って涙目でこちらを見る。
「……私、嬉しかったんだ。あの時私を殺さないで連れ出してくれるって言ってくれて……告白までしてくれて……」
「そんなの、過去のことだろ!?今はもう……関係ない……」
「関係なくなんてない!今だって私の勇者はマルクだけなのよ!私はあなたの告白を受け入れます……だから、今度は私があなたをその地獄から救い出す!待っててね……」
彼女の目から雫が溢れ、こぼれ落ちた。だが、彼女はまっすぐサファイアのような美しく青い瞳が俺を捉えて離さない。
そして彼女の左手の小指には、光に反射して輝く指輪がハマっていた。
「それ、俺がアンナに買ったピンキーリング……」
そんな時、パチ……パチ……パチ……と、拍手の音が遠くから遅いリズムで刻まれる。
「……いやぁ実に美しい……美しいなぁ……これが愛ってやつかい?」
「べ、ベリアル!?」
勇者一行は、音の方に振り返る。そっちの開け放してあった扉から、拍手をしながらゆっくりと化け物が入ってきた。そいつは律儀にも扉を閉める。
「……俺もとても嬉しい。だが、我儘で他の人の命までは奪えないんだ」
そう言うと、ここはベリアルに任せて、俺は部屋に戻った。
ベリアルには人を殺すなとは言っている。だから、殺しはしないはずだ。
部屋に入り、紅茶を飲もうとカップに口をつけると、なぜか視界がにじんでいた。
「……俺もまだ人を辞めきれてないんだな」
部屋でポツリとつぶやくと、それが溢れそうになるのをこらえる。溢れてしまえば、みんなの仲間になりたいと思ってしまう……それはダメなんだ。
「……神様がいるならば俺にどれだけの試練を与えれば気が済むんだ……これ以上苦しめるならいっその事、感情を消してくれ……」
「……その願い叶えましょうか?」
そう言って、ルシファーが壁を通り抜けて現れた。
「お前……いつから……いやいい。それより、そんなこと出来るのか?」
「はい。恨みを力に変えるのですから、そのくらいは容易です」
「じゃ、頼む。もう、俺はもう、“俺”じゃなくていい」
「かしこまりました」
そう言って奴は手を前に出したその瞬間、部屋が勢いよく開かれた。
「ダメだ!!早くこっちに来い!!」
ライドンさんが入ってきたが、もう手遅れだった。
「……ん?なにがですかね?ライドンさん。俺はもういいんですよ。苦しいならやめればよかったんです。それだけです」
「それは違う!それは当たり前のことなんだ」
「なら、俺は人間失格だな……」
「違う違う!いつからお前はそんなに下向きになっちまったんだ!」
「……いつだってこんなんでしたよ……仲間がここで死ぬかもしれない。こんなの自分が犠牲にならない限り、こんなの払拭出来るわけない……俺はどうすればよかったんですか!?」
「私らの仲間になりなさい!」
アンナも部屋に転がり込むようにしてやって来た。
部屋の向こうではドンパチと音がしていた。まだあっちでは交戦中みたいだ。
だが、今更どうすればいい?もう、遅すぎた。こうしている間にもどんどんと意識が遠のいていく。
そして、俺の身体は勝手に動き始めた。
「マルク!マルク!」
声だけはするが、それですらどんどんと小さくなっていく。そして、俺の手からは大きな火の玉がみんなに向かって発射されていた。
それは襲ってくる“敵”に当たっていた。
もう、俺は俺でなくなっていた。もう、何も考えたくない。もう、終わればいい。心なんて不要だ。
でも、その四体の敵はしぶとくもまた立ち上がる。
「マルク!」
なんであれは俺の名前知ってるんだろ?でも、まあ、いいや。別に関係ないし。
適当に火の玉を打ち込んでいく。
数々の悲鳴が聞こえる。でも、奴らはボロボロになりながらも、何度も何度も俺の前に立ち続けた。
それも奴らは敵意をこちらに向けてこない。むしろ……
「マルク!戻ってきて!」
悲鳴にも近い、そんな擦り切れんばかりの声で名を呼ぶ。
なんでかその声で視界がぼやける。どっかでこんなの見たことあるな……
既視感ってやつだ。もしかして俺、泣いてるのか?
「なんでだよ……止まらない……止まらない……心なんて捨てたのに、なんで……なんで今更泣くんだよ。意味わかんねえよ……」
涙が次々と流れ落ちる。
……それはこれまで溜め込んできた涙だったのかもしれない。どうしようもなく、目からぽたぽたと涙が溢れてきていた。
「……いいんだ。マルク。泣いても。人の心なんて分かりっこないんだ。自分のだってわかんない。今こうやって私がこうしてる理由も、正直あんまりわからない。気付いたらやってた。だから、わからなくてもいい。やりたいことだけやってれば……多分それが心なんだと思う」
アンナに俺は抱擁されて、悲しかったことばっかり思い出す。母さん……父さん……マーリン……
俺はそれからしばらく泣いていた。その後、アンナに礼を言って立ち上がり、辺りを見回すと、壁や天井にはボコボコと穴が空いていて、そこはもう俺の知っている王宮ではなかった。
「……これ、俺がやったのか?」
「……気にするなよ。仲間だろ?」
「仲間ですか……」
そうなってしまえば世界平和なんて無くなる。だから、俺にはそんな選択肢はないのだ。……それに、今更中に戻ってもバニラやアンナにどんな顔していいのかわからない。
「なんでそんなにそっち側でいようとするの?」
俺の含んだ言い方が気になるのか、ミカエルさんが柄にもなく俺の心配をしてくれていた。
「……えっと、魔王と勇者は世界に一人ずつ必要なんだ」
「なぜ?魔王なんて要らないじゃない」
「いや、それがそうでもないんだ。魔王が居なければ世界は滅んでしまうって、本に書いてあった……けど……」
なぜかミカエル、ライドン、アンナの三人が冷たい目線を送ってくる。バニラは何言ってるのかわからないのか、頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「……あ、あの、何か?」
「それ、題名見た?」
ため息混じりに彼女はそう訊いてくる。
「……題名?さあ、急いでたのでわからないです」
「それ多分おとぎ話……私もよく部屋で読んだわ」
アンナがこくこくと頷きながら呆れるような目でこちらを見た。
なぜそんなに責められないといけないの……?俺も仲間なんじゃないの?
「題名は確か、『きらりんみらくるみゅーじっく』とかだったな」
ライドンさんは遠くを見つめながらそういう。
「何その頭悪い名前……そんな名前で魔王と勇者は互いにとか書いてるんだよ……因みにどんな話なんだ?破られててよくわからなかったけど……」
「それなら私も読んだことあるよ!確か最後は魔王と勇者が平和になるように仲良くするんだよ」
「なにそれ……何落ちですかね?」
頭のおかしなおとぎ話だが、みんながそういうならそうなのだろう。
「で、仲間になるの?ならないの?」
バニラがニヤリと笑ってそう聞いてきた。そして、仲間たちを見回すと、みんなこっちを向いて笑っていた。
「……そうだな。なってやるか」
「うわぁ……生意気……」
バニラがそう言って反抗してくるのもなんだか懐かしく、可笑しく思えた。
「あれを破るとは……まあ、いいでしょう。貴方達に勝利はないのですよ。それをしっかりとお教えしましょう……」
そんな楽しげな時間は、ルシファーの声で一気に現実に戻される。
ルシファーが感心しながら不敵に笑った。
そして、後からベリアルもやってくる。
「バレてしまえば仕方ない……」
二人して気味の悪い笑顔だ。
「……みんな。まだ戦えるか?」
アンナはこちらに振り向くと笑顔で頷く。
「がっはっはっは!!それ聞くためにわざわざ来たんだぜ?やれるよな!」
「……それはライドンだけでしょ?でも、ま。やるけどね!」
そう言ってミカエルさんは笑った。初めてデレたような気がする。かわいい……
「……マルク女なのに目線がやらしい!」
「違ぇわ!俺元々男だから!」
「じゃ、その胸についてるのは何よ!!」
そう言って奴は胸を指さす。
「ふふん。羨ましいか?」
胸を強調するように突き出すと、バニラは膨れた。
「うっさい!馬鹿!……でも、無事でよかった」
怒鳴ったあと、なにかを小さく呟いた。
「……あ?なんだよ?」
「……な、なんでもないわよバカ!それよりあいつら倒すよ!」
結構長く旅をしてきた気がするが、全員で戦うのは、初めてのことかもしれない。
「やるぞ!」
そして、掛け声にそれぞれ返してくる。最後の戦いの始まりだ!
続く!
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