第13話
【勇者でも魔王に恋がしたい!】
十三話
なぜかわからないが、冷たい目達がこちらをギロりと見ていた。
その中少しの疑問はあったが、気にせずに部屋の端、みんなから離れた位置の椅子に腰掛けると、ライドンさんがため息を漏らして立ち上がると、こちらまで来た。
「おい。ちょっと」
「なんですか?」
皆に聞かれるとまずい話なのか、また廊下に出ることになった。
「……なぁ、お前少し変だぞ?」
「何のことですか?」
「……まあいい。お前、危ない橋を渡ったな。一歩間違えたらみんな死んでたぞ」
少し間を置くと、彼はこめかみあたりを抑えながらそう言った。
「……ライドンさんには関係ないですよ。俺が勝手に一人でやったことだし」
「関係ないわけないだろっ!!」
ライドンさんはがらにもなく、廊下中に轟く怒鳴り声を上げた。
「……済まない。俺もうまく言えないが、俺らをもう少し頼ってくれよ。仲間なんだからさ。説教は以上だ」
そう言うと頭をポリポリと掻きながら、談話室に戻っていった。
俺は、戻ることが出来なかったので、仕方なく部屋に戻る。
「なんでこんな険悪な雰囲気になっちまったんだろ……」
俺が犠牲になればみんな救えるし、誰も傷つかない。なら、それでいいじゃないか。それに、これはバニラを傷つけてしまった俺への戒めだ。
俺にもっと力があればマーリンだって両親だって死ぬことはなかったのに。
もう、誰にも死んで欲しくない。あんな思いはもうごめんだ。絶対に俺の仲間は死なさせはしない。たとえ俺が犠牲になっても。
*****
それから暫くして、俺は昼には街を発つという連絡を仲間達にして回った。
天気は雪国なのにまたまた快晴だった。太陽から注がれる光が気持ちよく感じる。
「じゃ、行くか」
「お、おう……」
「じゃ早く行きましょ?」
「うん……」
街から出てまた北の方角を目指すが、まるで昼ドラのようなギスギスしたこの感じは拭いきれてはいなかった。
街ももう見えなくなり、あんなに積もっていた雪ですら俺らの視界からは消えた。
黙々と誰も喋らずに歩いていると、禍々しい城を見つけてしまった。
「……なぁ、これって」
「あぁ。そうみたいだな……」
アンナは俺から目をそらしながらそう言う。……理不尽には慣れてるつもりだったのにな。
****
日も暮れてきたので、戦いの前、英気を養うために俺らは森の中にテントを張り、アンナの作ったご飯を食べる。今日はカレーだった。ハズレなくやっぱり美味しい。だが、無言でみんなそれを食べ、片付けが終わると、バニラだけは残っていたが、他のみんなは居なくなってしまっていた。
「ねぇ……あとで湖の前まで来て」
バニラは目も見ずにそう言い残すと、森の中に消えていった。
仕方なく、俺はテントに入るとそこにはライドンさんがいた。すると、ライドンさんが俺の顔を見るなり「俺もう寝るわ」と、言って寝袋にくるまってしまった。
バニラのところに行ったところで今の状況が変わるわけもないし、明日は本戦が待ち構えているのだ。十分に体を休めないといけない。なのでそれを無視して寝ることにする。
俺もライドンさんから離れて寝袋入り、目を閉じる。
「……眠れない」
ライドンさんのイビキがうるさいというものあるのだが、眠れる気がしなかった。
雪のない土の大地を踏み、月光を頼りに歩いていくと、大きな湖があった。そして、バニラはなにも言うことなく、足を桟橋から投げて座っていた。
「……よう」
挨拶をしてみると、彼女は振り返ってこっちを見る。彼女の目は潤んでいた。でも、気にしていないのか、返事もせずにまたすぐに月に向き直った。
横に座ると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……こんな時に話す話じゃないけど、決めたんだ」
「なにをだ?」
「私、マルクのこと好き!恋人になって!」
「……え?」
いつもと違い彼女の声は強ばっていた。俺は声にもならないような声を上げて、彼女の方に目を移す。
これがドッキリなんかであれば、後ろの茂みあたりからみんなが出てきて、俺の間抜けな顔を見て大爆笑なんて落ちもあるだろうが、彼女の顔を見ればその可能性はない。
ぐにゃりと整った顔を歪めながらも、ただ真っ直ぐと淡い赤色がこちらを見つめる。宝石のように光る瞳に、吸い込まれているみたいだ。
暫くぽかーんと見ていると、ハッとして「そっか」と、答える。彼女がここまで本気でなければ、俺は多分適当に「無理」とか、返していたのかもしれない。でも、彼女の想いは重い。俺なんかでは答えるのもおこがましい。到底受け止めれないものだった。
「でもね、みんなも好きなの。ライドンさんは面白いし、ミカエルはお母さんみたいで優しいし、最初は怖かったけどアンナもかわいいし。みんな、みんな大好きなの……」
「……そうか」
もう、顔を上げることも適わなかった。彼女の表情を見るのが辛い。一番近くにいた彼女の気持ち一つ俺は理解できない。そんな俺が、あの三人の考えなんかわかるはずがない。わかって……いや、分かり合えているつもりで、何一つとしてわかっていなかった。
「みんなとは仲良くしたいのに、テントの中でもミカエルさんとアンナで、ギスギスしてるから……なんか、私どうしていいか分からなくて……」
泣く彼女に俺はなんて声をかければいいか、どうしてやればいいかが、わからないまま結局、何も出来なかった。一通り泣き終えた彼女はその場から去っていき、俺はその場で呆然としていた。
*****
俺はずっとそこに座っていた。一晩考えてみたが、俺には一番近くにいたはずの彼女の涙の理由すらわからなかった。
こんなことで俺はなんで勇者なんかやってるんだろ……みんなを助けるために自分が犠牲になると、険悪なムードになって、結果、またバニラを傷つけることになった。
「……はぁ。これじゃ意味無いな」
だが、今日はあいつらとの決着をつける日だ。
無駄なことは考えないでおこう。
みんなで城前まで行くと、やはり恐怖が襲ってくる。だが、やる気を出さなければならないので勇者らしく声を張る。
「じゃ、やるか!」
「うん!やろう!」
バニラもどうにか場を盛り上げようとして声を張るが、まるで意味がなかった。昨日のこともあり俺はやつにどう接していいかわからないので、目を逸らしておく。
「あはは……」
バニラは苦笑いを浮かべた。
依然として、険悪な雰囲気であるが、その城の入口に立つ。
オーラだけで、押しつぶされそうなくらいに禍々しい城だ。魔王城でもここまでではなかった気がする。
まあ、箱を開けたら金髪碧眼ポニーテールの可愛い子が出てきただけだってけどな。
だが、今回は違う。もう敵も分かっている。
「ベリアル……ルシファー……」
あとこの二体だけ。こいつらを倒せばきっとこの仲間全員と話せる機会はある。仲直りだって出来る。だから今はこいつらに集中しないと。
「いい。みんな。とりあえず私が知ってるベリアル、ルシファーのことについて話すわ」
元々は幹部、いや、彼女はあっちの組織の頂点にいたのだ。なら、部下であったはずの彼らのことを知っていて当然だろう。
話をまとめると、ベリアルは物理攻撃が通らない跳ね返ってくる。それは前の実践でもよく知っていた。魔法も魔王の攻撃でやっと後退まで追い込めるほどだ。かなり手強いだろう。
そして、ルシファーはというと人間の負の感情を取り込んで力にするらしい。
やっぱり最後だけあって難敵だらけだ。でも、やっぱりラストは強者(つわもの)だよな。
それに、あいつらがいたから俺の母さんと父さんは死んだ。……マーリンも死んだ。ここで滅ぼしとかないと、またあんな思いをする奴が出てくる。それだけは絶対にダメだ!
「ふふ。そうか。憎いか。俺らが憎いか?勇者よ」
「誰だ!?」
中腰になり剣に手を当てて警戒し、周りを見渡すが敵らしい影はない。いるのは仲間だけだった。
「……どうしたの?」
どうやら他のヤツらには聞こえないらしい。
勇者ってこういうところあるよな。選ばれし者ってのはやっぱり面倒だ。
「憎い……憎いよなぁ……」
そして今度は遠目から低いトーンでなにかを呟きながら、城の奥の方から巨体がこちらに向かってくるのが見える。さっきのと同じ声だ。
「まあ、そうだよなぁ。憎いにきまってるよなぁ。あれをやったのは俺だし」
そう言って人間的に見ればイケメンに見えるやつは、悪気なんて1ミリもないまるで子供のような屈託のない笑顔でそう言った。
「……あれ、お前の差し金か?」
「おっと、怖い怖い……」
「全部お前がやったんだな?」
「いや、それは違うな。俺らでやった」
そう言って、前にもみた人型の化け物ベリアルが城からゆっくりと出てきた。
腹の古傷を気付くと抑えていた。
「あ、それは悪かったね。勇者。やるなら一撃の方が痛くなかったのに」
「なら、俺も一撃で決めてやるよ!」
そう言って剣を抜いた時、横にいたライドンさんが俺の剣を抑えた。
「やめろ。安い挑発にのるな」
「……ほう。前のようにはいかないというわけか。でもな、お前らに勝利はない」
そう言うと俺らの前から、瞬く間に奴らは消えた。
その刹那、がっさーん!!と、後ろで雷でも落ちたんじゃないかってくらいにどでかい音がし、反射的に振り返ると奴らはそこに居た。そして、ルシファーはアンナ、ベリアルはバニラを片手に抱えていた。
「アンナ!!バニラ!!」
ライドンさんが大声で叫ぶが、二人はピクリとも反応しなかった。でも、抱えてるところを見ると人質とかそんなところだろう。
「開始早々こうなるのか……」
「ふふ。言っただろう?君らには勝ち目はないのだよ」
「……二人を離せ」
「離せ?いい度胸してるね。まあこいつらの命をどうするかは俺ら……いや、君にかかってるんじゃないかな?」
ルシファーはそう言って笑った。
「……わかった。俺が二人の代わりに人質になる。武器も置いてく。これでどうだ?」
「そうか。なら、こちらへ」
「……ミカエル、ライドン。あとは頼みます」
一言そう言い残すと、俺は剣を自分の足元に落とし、両手を軽くあげて奴らの方へと歩み出す。
そして、彼女らを奴らは離すと、俺はそっちに進んでいく。すると、ベリアルが俺の背中に回り込むと、何が起こったのかもわからぬまま意識を手放した。
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