第4話
【勇者でも魔王に恋がしたい!】
四話
それから数日が経った。
ライドンさんはまだ身体に包帯を巻いているのだが……
「がっはっはっはっは!!この程度の傷どうということはないわっ!!」
いつもと同じように、病室に入らなくてもわかるほどのでっかい声で、大爆笑しているので大丈夫だろう。
「ミカエルさん。あれ、本当に大丈夫なんですかね?」
「あれこそ化け物ね………ゴキブリ並みの生存能力を持ってるわ」
冷静に分析までしてしまうとは、さっすがミカエルさん!!そこに痺れる憧れるぅ!
「ミカエルさんはどうなんです?」
「私?私は彼女らに比べればマシな方……でも、バニラ大丈夫かしら……」
いつもは鉄仮面みたいに表情ひとつ変えない彼女なのだが、バニラのこととなると話は別だ。まあ、仲良さげだしな。納得だ。
「そっか」
「じゃ、私はそろそろ私の治療があるから行くわね」
「うん。またね」
そう言うと彼女は踵を返して、松葉杖をつきながら去っていった。
なんというクールビューティ。松葉杖をついて歩いているだけなのにかっこいい!
「……えと、次は………」
それから俺はベットで眠っている一番の重傷者の元に訪れた。
部屋の感じは病院と何ら変わらない。ライドンさんは集合部屋のようなところにいるが、こっちは個室だ。
魔王城にこんな設備があるなんて正直驚いたが、仲間が治るならなんでもいい。
傷口なんかはミカエルさんが「女の子はこんな傷ついてたら傷ついちゃうから」なんて言って、傷口を塞いだので、全くと言っていいほど外傷は残ってはいないが、依然として目は覚めない。
ミカエルさん曰く、傷を見えないようにしただけで、傷を完全に治した訳では無いらしい。ペイントのようなものだって言っていたな。
「……バニラごめんな。俺が無理をさせたから……」
あの方法しか勝算がなかったが為にこいつには無理をさせてしまった。もっと俺に力があればこいつにあんな無理をさせなくて済んだのに……
「目を覚ましたら、なんでもお前の言うことをきいてやるから起きてくれよ?このまま死なれたら目覚めが悪いからな……」
寝ているバニラの頭を撫でながら、すがるような思いを込めてそう言った。
「……ん。じゃ、お願いしていい?」
「あぁ…………って、は?おま、いいいいつから起きてたし!」
「最初から……かな?マルクのくせに生意気……」
まだ目を覚ましたってだけで声だけでわかるようないつものうるさいくらいの元気はない。
「……大丈夫か?」
「うん……まだちょっと痛いかな?」
「そっか。じゃ、安静にしてな。とりあえずみんな呼んでくる」
それから、みんなを呼んでバニラの元に訪れた。
「どう?大丈夫?」
一番に駆け寄ったのは、ミカエルだった。
「うん。大丈夫!ありがと!ミカエルちゃん!」
さっきよりは元気になったのか、嬉々とした表情でバニラは受け答えをする。
「い、いえ……私は私のできることをしただけで……」
「ミカエルちゃん大好き!」
そう言って上半身だけを浮かして、ミカエルさんに抱きついた。ミカエルさんは顔を赤めて恥じらうが、まんざらでもないらしい。
な、なんだ?このゆりゆりした空間は……
「なぁ、俺ら別にここにいなくてもいいんじゃないか?」
横にいたライドンさんが小声で話しかけてくる。
「ライドンさん。何か言ってきてくださいよ。仲間が……バニラが起きたんですよ?」
「まあ、そうだな。仲間として言ってやるべきだよな!」
そう言って彼は決心を固めると、あの百合空間へと飛び込んでいった。
その勇姿、しかと見せてもらったぜ!
………この後あのおっさんが、二人からすっごい表情で睨まれたのは言うまでもない。
「なぁ、そんなに怖い顔せんでもいいだろう?がっはっはっはっは!!やっと起きたみたいだな!大丈夫なのか?」
「……そのうるさい声が傷口に響くのでどっかで死んでてください」
辛辣な言葉を投げつけられながらも、ライドンさんは大きな声で笑っていた。
いつもの光景。みんなでした冒険が脳裏に浮かぶ。
辛く、苦しいこともあったけど、楽しかったな……
そう。もう、俺らの冒険は終わるのだ。
あれを魔王に渡せば戦わなくて済む。俺も勇者でいなくても済むし魔王も同じだ。争いがないそんな平和な日々が俺らを待っている。
それはみんなが望むハッピーエンドだ。俺らはそれを目指して、冒険をしてきたはずだ。
「……マルク?どうしたの?怖い顔して」
「……え?」
ミカエルさんにそう言われ、顔を上げると、みんなが皆心配そうな目でこちらを見ていた。
「な、なんでもないですよ。なんでも……それよりバニラ大丈夫なのか?」
「話逸らすの下手過ぎだから。私は大丈夫だけどね!」
そう言って彼女は笑顔でVサインを指で作って突き出した。
「そうらしいな。じゃ、魔王に装備を渡さないとな。バニラ……歩けるか?」
「うん。大丈夫!」
勢いよくベットから飛び降りて見せたが、ふらつき倒れそうになる。
「危ないっ!」
体は動いたが、到底間に合うわけのない場所にいたので、倒れるバニラを助けるには間に合わない。
「っと、本当に大丈夫なのか?」
ライドンさんがすぐそばに居たので転ぶようなことにはならなかったが、本当に間一髪ってところだった。
「……あれー。おかしいな」
彼女は不思議そうに自分の身体を見ていた。足とかに細工なんかないから見ても無駄だがな。
「……あんだけのことをしたんだ。まだ怪我だってあるんだし無理はするなよ?」
「うん。そうする。だから、マルク肩貸して?」
そう言い、首を傾げて、うるうるとした瞳でこちらを見る。
「……なぜだ?」
「私、歩けないじゃない?だからだよ!」
数歩跳ねるように歩いてこっちに来て、俺の肩に飛びかかってきた。避けるのは容易ではあったが、流石に気が引けたので受け止めた。
「……歩けてたじゃないか」
「歩けませーん」
るんるんしながら言うセリフでもない気もするが、まあ、いいや。とりあえず魔王のところに行こう。
俺は長い廊下を歩き、魔王のいる大広間前についた。軽くノックをしてから扉を開く。
「邪魔する……ぞ?」
そこには魔王がいた。うん、まあ、それはそうだが、あれはなにをしてるんだろうか?
彼女は部屋の真ん中で、寝っ転がってじたばたしていた。
「あ……」
目が合ってしまった。
「……ゆ、勇者達。御苦労であった」
「あ、あぁ……いま、何して……」
「それ以上は聞くなっ!」
じろりと、さっきに溢れた目で睨む彼女。俺は蛇に睨まれた蛙のようになった。だが、引けない。
「で、でも、気になるし……」
「怒るよ!!」
なんて言って顔をトマトみたいに真っ赤に染めて、右手をうんと伸ばしてブンブンと振って暴れさせている。
なんだよ。こいつ。可愛いじゃねえか。
「ま、いいじゃないの。魔王さん」
「……そ、そうだな!本題に入ろう」
ミカエルさんに止められてしまい、なにをしていたかはわからなかったが、可愛かったので許す。
「……皆には悪い事をしたな。命懸けで私のために戦ってくれてありがとう」
魔王はそう続けた。
「いや、魔王のお陰でみんな無事に帰れた。ありがとう」
それに俺は首を横に振ってみんなに代わり言いながら、装備袋からバニラの盗んできた魔力を無くせるという装備を差し出そうとする。
「……待って」
そう言って俺と魔王の間に俯きながら入って出ると、彼女は顔を上げた。その顔は今にも泣き出しそうな歪んた顔をしていた。
「これ、渡しちゃったらさ?………私らの冒険って終わっちゃうの?」
「戦う意味がなくなるからな。なら、無くなると思うぞ」
魔王が普通にその問いに答えた。
「なんだ?今更。争いなんてない方がいいだろう?」
ライドンさんも怪訝な目でバニラを睨みながらそういう。
「……ライドン達の言っていることは間違いではないわね。私もそう思うわ。別に今生の別れという訳では無いでしょ?」
確かにみんなの言う通りだ。ミカエルさんの言うように会いたい時にみんなに会おうと思えば会えるし話せる。
なのに、なんでこんなに気分が落ちていくんだろ。
「でも……でもっ!」
「冒険はできなくなるかもしれないが、俺らは仲間だろ?そう易々と砕けるような絆じゃねえさ。だろ?勇者さんよ」
ライドンさんが意気揚々と言って、こっちに振ってくる。……俺はこれを二つ返事で返すことが出来なかった。
「……勇者?」
「……いや、俺もわかってはいるんだけどな。やっぱりお前らと冒険できて楽しかったって、そう思うから……」
「………マルク」
涙を流してバニラは俺の名を呼ぶ。
「………でも、俺は魔王のことが好きだ!これは揺るがねえ。だから!!」
油断したバニラの横をすり抜けると魔王に装備を渡す。
バニラは泣きじゃくっているが、こればかりは仕方ないのだ。
「……ありがとう。勇者これを着れば魔力が消えてくれるんだな」
「あぁ。そうらしいぞ」
そして、彼女はその鎧を装備した。
いや、正確には鎧ではなかった。初めて今それを見たので今ならしっかりとわかる。それはというと、大きな赤いリボンだった。
そんなアクセサリーのようなもので膨大な魔力を抑えられるのかは謎だが、とにかく金髪美女にはこれだろっていうテンプレ的な赤色の大きなリボン。映えないわけがない。
彼女は自分の頭にその大きなリボンをつけると、「ど、どうかな……?」と、赤面して訊いてくる。
「……似合ってるぞ」
そう答えると、頬が熱くなるのが自分でもわかる。
そんな時。ゴゴゴゴゴゴと、突如地鳴りが聞こえてきた。
「……地震?」
それは次第に大きくなり、俺らは地面に手をつく。
「で、でかくないか!?」
「少しやばそうね……」
バゴーン!!!という轟音とともに地面が割れて、なにかが空へと飛び出す。真っ黒のそれは、羽根の生えた人型の化け物だった。
「……お前はベリアル。何故ここに?」
アンナがその飛び出した怪物に話しかける。
「魔王……お前は俺らを裏切るんだな?」
そいつは低い声で、アンナをギロっと睨んでそう言う。
「あぁ、そうなるな。私は平和な世が見たいんだ。だから、お前らも私に協力しろ」
アンナも負けない眼力で奴を睨む。二人の間にはビリビリと花火が散っていた。
「ははっ。笑わせるな。勇者に協力?私が?ありえんな」
「……ふふっ。そうか。私に歯向かうか。なら、どうなるかわかっているよな?」
魔王感なんて微塵もなかったのに、今は完全に魔王の顔だ。すげえ……
「魔力のない魔王なんて要らんわ」
「なぜお前らはそんなに争いを望むんだ?」
「……お前なんで魔王になったんだ?そんなの簡単だろ。すべて俺のモノにしたい。それだけだ」
やつのその一言で、俺は真っ白になった。
「……お前らはそれだけの為に人を殺すのか?それだけの為に俺の両親は……友人は死んだんだぞ!!」
声を張り上げ、やつに向かって叫んでいた。
「ははっ!勇者の両親は死んだのか。それはよかったな!!」
ライドンさん並の爆笑をしながら、奴はそう抜かした。
「……お前らみたいな奴らのせいで色んな人が死んだ。大切な人も死んだ。……てめえは叩き切ってやる!!」
剣を鞘から取り出すと、構える。
「ははっ!それはどうかな?出来るならやってみな」
油断しているやつの懐に入り込み、腹を断とうと剣が当たろうとした瞬間、奴は微笑んだ。やばい。絶対にこれなにかある。
剣がやつに当たる前に止めなければ……だが、止めることが出来ずに俺は奴を切った。
確かにグサッと、手応えがあった。
「……気づくのが遅かったな」
うん?あれ?なんで俺、倒れてるんだろ?
*****
「……勇者。私が悪かった……あいつの技くらい知っていたはずなのに……」
起きると俺はベットの中にいた。そして、横ではすすり泣きながらなにかをぼやいている魔王がいた。
「……大丈夫だ」
「ゆ、勇者!?」
彼女はこちらに身を乗り上げて心配そうな顔で覗き込んでくる。
「あ、あぁ。まあ、今はもう勇者ではないけどな」
「よかった……」
と、小さな声で言うと彼女は胸をなでおろしながら、また椅子に腰掛ける。
「なぁ、何が起きた?というか俺は何日ここで寝ていた?」
「あの後はね……」
魔王……いや、もう魔力を持っていないしそんな権力もないだろうからアンナ。と呼んだ方がいいか。そんな彼女が全て教えてくれた。
要約すると、俺が倒れたあとはアンナがリボンを解いて、ベリアルを追い払ってくれたらしい。そして、俺は二日間、寝ていたらしい。あれ外すと魔力って戻るのか。ということは、あの赤いリボンは制御装置みたいな考えでいいのかな。
「やつには物理攻撃をするの自分に跳ね返ってくるのよ。だから、効かないわ。奴には魔法しかないのよ。………そう言えば貴方のパーティには魔法使いはいないのね」
「……そうだな。俺も少しは使えるが初歩の初歩ってくらいしか使えないし、ライドンさんは論外。ミカエルさんも簡単な攻撃呪文を少し使えるだけで、バニラはゴブリンに魔法を使ってもそんなに効果がない感じだ」
「……そう。魔王である私の魔力を抑えていてもそこまで意味はなかったみたい。過激派のベリアルみたいな奴らが勝手に行動を始めてしまったわ。……でも、止めないと人間にとって最悪な環境になってしまう」
「なら、勇者としてみんなを守らないとな」
そう言って腹筋に力を入れて立ち上がろうとした瞬間、強烈な痛みが体を貫く。
「うっ……」
傷、思ったより深いじゃねえか。
「どうしたの?」
「ああ。少し傷がな……でも、そうは言ってられないだろ。とりあえずあいつらの本部的なやつを探さないといけないな」
「……うん。それなら当てがあるわ。だから……私も連れて行ってくれないかしら?」
もじもじして魔王はそう言う。かっわいいなぁーおい!
アンナ(魔王)が仲間に加わった。
「これからよろしく頼む」
「こっちこそ。頼むな。アンナ」
そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
この笑顔……魔王じゃねえ。天使かな?
続く。
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