予告・第二楽章「紅い靴の乙女が踊る円舞曲」

 一つの喪失を経て、選択肢をつかみとった少女は決断を迫られる。


「それじゃあ、君はどうしたいんだ?」


 少年は少女に手を差し出し。


「……一緒に来て、くれるんですか?」


 少女はその手を握り返す。


 因果律を奏でる鍵盤楽器に引き寄せられるように、役者たちは物語の糸を手繰り寄せる。








「まさか〈盤上の白と黒〉――?」


  「――ちなみに、そいつ名前は?」


「引き返すつもりはないのかい?」


  「エルス。それがこの写真の少年の名前よ」


「引き返すつもりは、ない」


「一つ確認させろ。お前たちは〈ラティメリア第一計画〉を知っているのか。五年前、死傷者二百三十七人、廃人五百六十人、逃亡した被験体ナンバー九を残して研究員も、その関係者も、研究施設まるごと炎上したあの計画を」


「……裏切り者とはよく言ったもんだ」


  「絶望で人は死ねるよ」


「俺なんかを信用するお前は本当に哀れで情が深いよ」


  「……希望で人が生きられるのと同じように?」











 花の香りさえ匂いそうな、薄桃色の唇を緩やかに持ち上げながら、彼女は微笑む。

 それは新たなる邂逅と悲劇の兆し。


「私はルーシー。ルーシー・ウィシャート。あなたちの味方よ」


 そういって彼女は微笑んだ。









「ま、ひとまずはよろしく?」

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