第四小節 静謐な嵐

「げ、フィディール」

「フィディール代理執政官!」


 露骨に毒づいたハインツと慌てたオズウェルが、ばっと後ろを振り返る。

 ブランシュもぎくりとして、顔を上げた。

 三人の視線の先、部屋の扉の前に立っていたのは、長い金髪を一つに束ねた翡翠色の瞳の青年──フィディールだった。


「部屋から出るな、と僕は言ったはずだが」

「わたし、は……」


 フィディールから冷たい視線が寄越される。情を一切感じさせない凍りつくような目に、背中に震えが走り、喉が強張って動かなくなる。

 声を上げたのはオズウェルだった。


「僕の責任です! ですから、彼女が悪いわけではなく──」

「僕はこいつに聞いているんだ。お前には聞いていない」

「す、すみません」


 視線の鋭さに、オズウェルが委縮したように一歩下がる。

 フィディールは感情のこもっていない目でブランシュを見た。


「イリーナにも言われなかったか? 部屋から出るな、と」

「……はい」

「そうか」


 フィディールは無感動に頷くと手を振り上げた。黒い袖から覗く白い手首をぼんやりと見上げ──あっと思う暇もなく、それはブランシュの頬へ振り下ろされた。

 鞭打つような甲高い音とともに、頬に熱い衝撃。


「……っ!」


 叩かれた反動でブランシュはバランスを崩した。長い金髪が乱れ、倒れるような形で尻餅をつく。


 ──一体、何が。


 とっさの理解が及ばず、ブランシュはひりひりと痛みと熱を持つ頬を呆然と抑えた。

 黒い影が足元に踊る。影をなぞって、ブランシュはやってきた人物を見上げた。

 そこには、ブランシュを冷然と見下ろすフィディールの姿があった。


「フィ、フィディール代理執政官──!」


 叫びかけたオズウェルの肩をハインツがぐっと掴んだ。首を横に振って制する。


「言ったはずだ。お前は外に出る必要はない、と」


 ぐい、とフィディールが、ブランシュの長い髪を引っ張った。頭皮に突っ張るような痛み走り、無理やり顔を上げさせられる。


「いたっ!」

「これに懲りたら、二度と外に出ようなんて思うな。わかったか」


 氷海のように冷え切った眼差しは、美麗な容貌と相まって凄絶な恐ろしさを醸し出す。

 これが、人間がする目なのだろうか。人間に出来る目なのだろうか。

 ぞっと背筋が寒くなる翡翠色の目を前に、血も涙もない冷血漢と遭遇したような気分になり、ブランシュは震え上がった。

 割って入ったのはハインツだった。


「おいおいおーい、何もそこまでするこたぁねぇんじゃねーの?」

「お前は黙ってろハインツ」

「……お子ちゃま代理執政官」


 ぴく、とフィディールの形のいい眉がつり上がる。


「何か言ったか?」

「そういう風に反応する時点でお子ちゃまだってんだ」


 やれやれ、とハインツが溜息まじりに両手を開いた。すかさず、フィディールがハインツを睨む。ブランシュに向けたものと比べ物にならない苛烈な視線。

 しかし、ハインツはどこ吹く風とばかりに、口笛を吹きながらそっぽを向くだけだ。

 と、今度は、どこか退屈そうな女の声。


「お取り込み中のところ悪いけど、そこ、通してくれないかしら」


 こんこんと、開きっぱなしの扉を叩いていたのは、編み込んだ銀髪を垂らした白衣の女──イリーナだった。

 意外そうな、しかし落ち着いた様子で聞いたのはハインツだった。


「あんれ? お前どうしたんだ?」

「忘れ物をしたから取りに来たのよ」


 イリーナは素っ気なく答えると男たちの間を通り抜け、窓際の寝台に近づいた。その場の雰囲気などお構いなしに窓際の寝台に膝を乗せ、奥や隙間などを覗き、あったわ、と石床から黒い光沢を放つ万年筆を拾い上げた。胸ポケットにさりげなくしまう。

 それからイリーナは、未だ座り込んでいるブランシュの前にすっと屈んだ。ブランシュの頬を見るなり、口を大きく開く。


「ちょっと、どうしたのよこれ」

「い、いえ、大丈夫ですから!」


 ブランシュは慌てて頬を隠した。


「髪の毛も乱れているようだし、大丈夫?」


 そう言ったイリーナが自然に手を伸ばしてくる。

 瞬間、ブランシュは無意識のうちにびくりと肩を震わせていた。


「あ……っ、ごめ……ごめんなさい」


 そのあからさまな反応にイリーナも何かを察したらしい。手を下ろし、背後の青年と男を肩ごしに睨む。


「何があったかなんて聞くつもりはないけれど、仮にもにする仕打ちとしてはひどいんじゃない?」


 フィディールが薄い冷笑を浮かべる。


、な。それを他でもないお前が言うのか?」

「なら、この子が脱いで動揺するあんたはなんなのかしらねぇ?」


 イリーナが嫌味たっぷりに笑う。フィディールが瞳を鋭く眇めた。

 意味がわからず、ブランシュは視線で周囲に問いかけた。オズウェルは仄暗い顔をそっと伏せ、ハインツは頭痛でもしたように頭に手を当て──つまり、誰一人として答えてくれそうな様子はない。

 一触即発の空気が容赦なく突き刺さる。

 我慢ならないとばかりに叫んだのはハインツだった。


「だあぁっ! いー加減にしろってーの!」


 ハインツはびし、びし、とフィディールとイリーナを交互に指差す。


「嬢ちゃんを引っぱたいたお前はやりすぎ! んでもって、おめーもおめーでフィディールを挑発するような真似すんな!」


 世話が焼ける、とハインツはかぶりを振るとオズウェルの襟を捕まえ、部屋の外に放り投げた。ついでフィディールの腕を鷲掴みにし、ずかずかと部屋から出ていこうとする。


「た、隊長!?」

「いーからお前は先にカヤんとこ戻ってろ。オレは後からこいつ引っ張っていくから」

「は、はい……」

「ちょっと待てハインツ! まだ話は終わってない!」

「終いだ終い! 大体お前は今日んなことしてる場合じゃねぇだろ」


 その言葉にフィディールの抵抗が止む。ぐっと感情を押し殺した声で呟いてきた。


「……準備は出来てるのか」

「そりゃあ、いつでもな」


 ウィンクするハインツの調子は、どこまでも軽い。

 対照的に、フィディールの表情は海の暗い海の底へ沈んでいくばかり。

 ふと、ブランシュは自分の立場を忘れて聞いていた。


「……今日、何かあるんです?」

「お前には関係ない」


 胸の奥を刺す、鋭い拒絶。つきりと胸に走る痛みに、ブランシュは唇を結んだ。ぎゅっと手を握り締める。

 見かねたらしい。ハインツがほとほと呆れたように口にする。


「ほんっとお前はよー」

「なら、言ってどうなる。この件はこいつにはそれこそ関係ないだろう」

「言い方の問題だっつってんの。そーゆーとこだぞほんとお前」


 ぶつくさ言ってから、ハインツは項垂れるブランシュを見た。あー、と、考えあぐねた様子の後、曖昧に答えてくる。


「ま、宴ってぇか、祭りだな」

「お祭り……?」


 すると、イリーナがくすりと微笑んだ。


「祭り、ね。さぁて、誰が血祭りに挙げられるのかしら」


 イリーナはルージュを乗せた唇を笑みの形に歪め、笑っている。

 くすくす。くすくすくす。くすり。

 不吉な予感を抱かせるイリーナを、フィディールは不審の目で見つめ、だが何も言わず、ハインツと立ち去った。

 二人きりになった後、イリーナはブランシュの頬にそっと手を当てた。ひんやりとした白い手が赤い頬を撫でる。痛みを拭いとるような優しい仕草に、ブランシュは大人しくされるままにする。


「大丈夫? まずは冷やさないとね」


 そう言って微笑むイリーナからは、先ほどの不気味さは消え失せていた。







 草木も眠る深夜。

 灯りが消え、人々も獣すらも寝静まり、動くものが何もいなくなってから彼・はある部屋を訪れていた。

 辿り着き、複製した鍵で部屋の扉を開いた。闇と同化し、室内に侵入する。

 足音を殺し、無駄に広い部屋を進み、奥の寝台を目指す。

 小さくぱちぱちと音を立てながら燃える暖炉。石壁にかけられた美しい風景画。所狭しと古書が並んだ書架。それらを通り過ぎていく。


「何者だ?」


 いきなり寝台から声をかけられ、彼・は靴の動きを止める。

 特に驚きはしなかった。自分がこれからしようとしていることを考えれば、寝台にいる男が寝ていても起きていても大差ない。

 代わりに、彼・は美しく微笑んだ。


「僕ですよ。養父とうさん」


 すると、寝台の上の男が、ふっと警戒を解く気配。


「ああ、なんだお前か」


 そう言って、壮年に差し掛かる養父が冗談交じりに苦笑する。


「こんな夜更けにわしの寝室に忍び込むなど、何をしておる。息子とはいえ、寝首をかきに来たと間違われて返り討ちにあっても非難できんぞ」


 寝台の横、大きな窓、雲間から差した月明かりが、来訪者の素顔を明かす。


「フィディール」


 養父が自分の名を呼ぶ。

 寝台の傍ら、青白い光に照らされ、立っていたのは金髪に翡翠色の瞳──フィディールだった。

 フィディールは薄っすらと冷たい笑みを浮かべた。


「間違われて、大いに結構ですよ」


 言うなり、腰につり下げられた剣を抜き放つ。そのままディディウスの首筋めがけて突き刺した。

 ──だが、手に伝わってきたのは、柔らかな羽毛を突き刺す軽い感触だった。

 すぐ隣を見れば、ディディウスが寸前で身を起こしていた。その顔は恐ろしさのあまり血の気が引いている。


「貴様……っ! 血迷うたか!」

「血迷う?」


 月光を浴び、凍てついた光を放つ剣を、枕から引き抜く。


「執政官という立場を利用して、古都トレーネの議員に癒着しているあなたの方がよほど血迷っている」


 淡々と言って、フィディールは再び剣を構えた。養父であり、この国の最高権力者である男に剣を向ける。


 この地、オスティナート大陸の南に、ここ帝都カレヴァラはある。

 荒廃した大地にそびえ立つ一本の塔と、塔の周囲に浮かぶ無数の大陸で作られた国。

 約四百年前、オルドヌング族との大戦後、古都トレーネのような法術の力でもなく、王都グラ・ソノルのような科学技術の力でもなく、指導者と高貴な信念を持つ貴族たち、そして人々の一致によって安寧を維持してきた国だ。

 だが、四百年前の時は長く、その間に、この国はあまりに腐敗しすぎた。


 フィディールは養父を見据えると、言った。


「貴族制度がなぜ撤廃されたのか、わかっていないように思える」


 中世の貴族たちは既得権益と富に目にくらみ、道を踏み外した。

 その後、貴族制度は撤廃され、地方を自治する長老が選出されるようになったが、彼らも汚職を働き私腹を肥やすばかり。


「……それに、今そんなことをしているときではないというのは、あなたが一番わかっているでしょう」


 昔から、この国の人々は、塔から供給される力を利用して生活している。

 だが二年前、が起きてからというもの、力の供給が不安定となっている。更には、地方にある大陸の一部が崩落する始末。

 その間、問題解決のための研究は芽を結ばず、人々もまた特別な危機感を抱かず、平和に暮らしている。

 それもそのはず。当面訪れる危機は、一人の預言者の力で回避されているからだ。

 預言者は、にも、と同じ二年前に現れた。


〈光詠み〉。


 光のごとき閃きによって先を見通す預言者は、神がかった予言をもって、この国に希望をもたらした。

 だが、それはうまいこと致命的な被害を免れているに過ぎない。根本的な解決にはならず、将来、何かしらの手立てが必要になる。そんなことぐらい、国の政治家ならわかっているはず。

 だというのに、最高指導者の立場にある目の前の男は、古都トレーネの傀儡となっている始末。いつまで経っても内側の問題に目を向けようとしない。

 帝都カレヴァラは、このまま放置すれば、いずれ内側から腐り落ちるだろう。


「お、お前こそ、なんにもわかっとらんではないか! わしが、どれほどこの国のために心血を注いでいるか……!」

「心血、ですか。それは例えば、古都トレーネとの外交のために、滅んだはずのオルドヌング族の血を引く子供を養子にして使うとか?」


 フィディールが剣を握り直した。

 そこで状況をようやく理解したらしい。ひっと、ディディウスが息を飲む気配があった。


「だ、誰か! 誰かおらんのか!」


 ディディウスの一声で扉から大勢の男たちが荒々しく入ってくる。帝都カレヴァラの防衛を担う警備隊員たち。

 暗さで数はわからない。だが、背中越しに感じる圧迫感から察するに、両手より多いだろう。


「ふ、ふふふふ……」


 勝利を確信したのだろう。不気味な笑い声をディディウスが発する。

 だが、警備隊員らは裏切るようにディディウスに剣を向けた。


「な──」


 面白いぐらいにディディウスの顔が破顔する。


「貴様ら誰に刃を向けている! その剣を納め、この不届きものを捕えんか!」

「無駄だぜおっさん」


 遅れて室内に入ってきたのは、黒髪を夜に溶かした男──ハインツだった。


「あんたに味方する奴はここにはいねえよ」

「ハインツ貴様……っ! わしへの忠義を忘れたか!」


 ハインツが愉快そうに鼻を鳴らす。


「忠義? 師匠と違って、あいにくオレはあんたに忠義なんか一度も誓ったことはねぇな。あ、勘違いすんなよ。そこであんたの首を取ろうとしているそいつにも誓ってねえからな」

「なら、ならなぜこやつに味方する!」

「それをあんたに教えてやる義理はねぇな」


 それは親しみさえ感じられる口調でありながら、絶対的な拒絶だった。

 フィディールが一歩進み出る。

 そのときになって、初めて男の眸に死の恐怖らしき色が宿る。息子に見捨てられ、追い詰められた哀れな老人の姿がそこにあった。


「何も、命まで取ることはなかろう……? お前をここに養子として迎えいれてやったのは誰だ? 右も左もわからないままここにやってきたお前に食事を与え、雨風をしのぐ寝床を与えてやったのは誰だったかを忘れたか!」


 命乞いをする義理の父親が、都合のよい温情を押し付けてくる。

 それに何を思うでもなく、フィディールは酷薄な笑みを浮かべた。


「ええ、感謝していますよ。十年前、ブランシュと一緒に僕らをここに招き入れてくれたことにはとても感謝してます」


 そう。目の前の男には、義理もある。恩もある。なんなら、親子の情ではないが、人並みの情だってある。


「な、なら──」

「あなたが五年前に〈ラティメリア第一計画〉を再現しなければ、ね」


 最後の一言とともにフィディールは力任せに剣を振るった。手近な羽毛布団を鋭く切り裂く。

 舞い散る花弁のように、白い羽が闇に散った。


「ぶ、ブランシュに会いたがっていたのは他でもないお前だろうが!」


 それを聞いたフィディールの表情がますます暗くなる。


「そうですね。僕は姉さんに会いたかった。その気持ちは本当です」


 正直に答えれば、ディディウスは戸惑ったようだった。たじろぎ、最悪にもフィディールの逆鱗に触れてくる。


「そ、それにわしだけではない! 最終的にアレを再現させるきっかけを作ったのはお前ではないか!」


 嵐の中の小船のように、フィディールの瞳が大きく揺れた。


「お前の姉を! わざわざにしてやったというのに!」


 耳障りなノイズを聞いているうちにこめかみがずきずきと痛んで頭痛となる。眩暈と強烈な吐き気が同時に襲ってくる。呼吸が狂い、意識が遠ざかる。目の前が真っ赤になる。視界が明滅する。記憶がぶり返される。


 ──ねえねえ、見てフィディール!


 五年前。十二歳の姿をした姉が笑う。フィディールよりの姉が、屈託のなく微笑み──

 聞こえたディディウスの声に、現実へ引き戻された。


「それを私のせいにするというのか!」


 ──ああ、嬲り殺したい。


 フィディールは目の前で騒ぐ男を心底嬲ってやりたいと思った。こちらに罪の意識があることを利用して問いただすこの男を嬲り殺してやりたい。唐突に冷めた思考でそう思う。

 ディディウスは自身の発言が思ったより効果がなかったと感じたようだった。無反応なフィディールを前に、明らかに狼狽え出す。


「お、お前とてこの国を憂える民の一人であろう?」

「民?」


 滑稽すぎる質問に、フィディールは一層笑いたくなった。

 フィディールは元々、帝都カレヴァラの生まれではない。

 ついでに言えば、この時代の人間でもない。

 十年前、オルドヌング族の血を引くフィディールに利用価値を見出したディディウスが勝手に養子にしたというだけで、彼自身、この国の行く末にも民にもかけらも興味がなかった。

 だというのに、この男は自分がこの国を憂える民の一人だと思っているらしい。実に馬鹿馬鹿しかった。

 フィディールの口元に、ゆっくりと、凄惨な笑みが浮かぶ。


「いいえ、違いますよ。最期だから教えてあげます。僕があなたを殺めるのは、彼女が二度とこの世界に生まれてこないようにするためです」

「た、たったそんなことのために?」


 フィディールは顎を引いて頷いた。


「ええ、そうです。あなたが古都トレーネとの外交の取引ぐらいにしか思っていない、たったそれだけの理由しか持っていない彼女が、二度と生まれないように僕は彼女を殺す。あそこに入った奴らのうち、残っているのは僕とあなたを含めて三人のみです」

「……ほ、ほかの奴らはどうしたというのだ」


 怯えで震えきったディディウスの声。

 段々と愉快になってきて、フィディールは笑みを深める。


「そういえば、極東の魔境では、なんとかに口なしと言うそうですね」


 今度は、ディディウスは震え上がることはしなかった。ただ、落ち着いた様子でフィディールを見返してくる。


「……死で死を洗うか。フィディール」


 それがひどく馬鹿げたことのように、ディディウスが嘲笑を浮かべる。


「わからぬのか。それはお前の命を奪うだけにとどまらん。いつか予期せぬ形となって跳ね返ってくるぞ」


 この期に及んで、今更、親のように説教じみたことを。

 フィディールは興ざめした気分で相手を見下ろした。告げる。


「……他に遺言は」

「ない。殺せ」


 打って変わって、堂々と居直るディディウス。

 フィディールは、どうしてか不愉快のようなものが湧き上がってくるのを感じた。だが、それをおくびにも出さず、端然と返す。


「言われなくとも」


 ディディウスが口端に笑みを乗せ、目を閉じる。

 フィディールが無表情で剣を振り上げる。

 斬切音がうなる。振り下ろされた剣が首を落とす。

 そうして男は絶命した。







 帝都カレヴァラ執政官の崩御、という事件は、たちまち国内にも国外にも知れ渡ることとなる。

 混迷は、間違いなくそこから始まった。

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