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目が覚めると、白い天井があった。ゆっくりと体を起こして目をこする。意識ははっきりしている。指の、爪の甘皮やうすらとできたしわまではっきりと見えた。手首に付けられた平たい端末が、ボタンを押すまでもなく小さな音を立てた。
ベッドから降りてスリッパに足を入れた。擦れる音がして、窓から食事が入ってくる。輪切りにされたバケットと、スープと、果物、いつもどおりの食事だった。窓に備え付けられたテーブルの前に座って、スプーンに指をかけた。
ここにあるものはほとんどが白だ。椅子も扉もかぶっている布団も、汚れひとつないままにそこにあった。真上から見たら、ただぼくの髪の色だけが浮かび上がって見えるだろう。そのために周りを白で囲んでいるのかもしれなかった。
食事を終えると、窓から出てきた細い機械の腕が食器を下げていった。これからの行動は決められている。顔を洗って、検査着に着替えたころ、職員が呼びに来る。
蛇口をひねる。顔を洗って歯を磨いた。これをきちんとしないと「清潔」が保てない。検査着に着替えるのも、寝る前に体を洗うのもそうだ。清潔でないと、検査に支障が出る。体を清潔にして、職員に従うことがぼくのすべてだった。
扉が開く音がした。
「検査の時間です」
着替えは終わっていた。扉の外で職員が待っている。職員はたくさんいて、いつも違う人が呼びに来る。白衣を着ていたらそれは職員で、ぼくに指示をするひとなのだと教えてもらった。
部屋の外に出ると勝手に扉が閉まった。真っ白な部屋はほんとうに白だけになった。
検査室に入ると、顔を白い布で覆った職員がたくさんいる。部屋の真ん中には機械がたくさんついた大きな椅子があって、ぼくはそこに静かに座っているのが仕事だ。職員のひとりがぼくの脇に手を入れて椅子に乗せて、両手足と胴を椅子に固定した。口を開けると布が入ってきた。頭の後ろで結ばれる。その上から機械がかぶさって、頭が動かないようになった。検査が始まる。ぼくはまぶたを閉じる。
「本日は採血、皮膚の採取、そこからの治癒速度を観測します。皮膚はすぐ真空へ保管するように。よろしくお願いします」
暴れてはいけない。検査が上手くいかないから。うるさくしてはいけない。職員同士の声が聞こえないから。初めての検査のときになんどもそういわれた。
肌を細い何かが刺した。
「採血完了」
「皮膚の採取に移行します」
なにかが二の腕に強く巻き付いた。
「止血しました」
「執刀します。保管準備」
口の中の布を嚙み締めた。腕に冷たいものが当たった。
「血脈の広がりを確認」
痛い、熱い、痛い、熱い、熱い。
「修復が開始されています」
「思ったよりも早いな。ほかのところに傷を」
熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、熱い、痛い。
「皮膚採取完了」
「真空保存を確認しました」
あつい。
「血脈拡大中」
「血管の生成が開始されました」
「十秒経過」
「筋肉組織」
「脂肪」
「二十」
「新皮質」
「皮膚。修復完了。血脈、収縮しました」
「三十秒か。前回より早くなってる」
「やはり食事でしょうか」
「少し間をあけたからかもしれん」
検査が終わった。二の腕に巻き付いていたものが取れた。頭にあった機械も、口に合った布も、両手足と胴を固定していた金属も、ぜんぶが外されて自由になる。職員が二人やってきて、ぼくの両腕をタオルでぬぐった。あの部屋みたいに、傷も汚れもなにひとつない皮膚がそこにあった。
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