第11話:お手並み拝見
翌日の朝。私はいつもの時間よりも早く着いた私は、教室にある窓から正門を見ていた。
昨日出会った妖の事が気になって、気がつけば行動していた・・・。どの学部にいるのかすら分からないけど、根気強く探すしかないよね。
和也さんに相談しようかと思ったけど、忙しい和也さんはもっと分かってから相談した方がいいかと思ってまだしていない。
最後の去り際の目・・・。何かを私に伝えたかったのかもしれない。
そんな気持ちがどうしても拭えなかった。
お節介かもしれないけど、気になる。
「探し人、ですか?」
白い耳と尻尾・・・。
「それだけ熱心に探されているという事は、もしかして想い人ですか?」
確かに、好きな人を探している姿に見えなくもないよね・・・って、ん?
「倉橋さんも女子大生ですし、恋の1つや2つありますよね」
この声、まさかっ?
恐る恐る声のした方へと目を向けてみると・・・そこに立っていたのは。
「和也・・・さん?」
「はい。おはようございます」
蘆屋和也さんご本人でした。
「ど、どうしてこちらにっ?」
「どうしてと言われましても。学生の本分を全うしに来たんですよ」
確かに学生だっていうのは知っているけど、え、まさか和也さんが通っている大学って・・・ここ?
「はい。私が通っているのはこの大学ですよ。倉橋さんとは学部が違うのでなかなかお会いしませんでしたが」
「まままままた心を勝手に読みましたねっ?!?!?!」
「いえいえ。そう倉橋さんの顔に書いてありましたので」
黒縁のメガネが今日も爽やかな和也さんの笑みに、近くにいた同級生が声にならないピンクの悲鳴を上げているのを視界の端で確認できた。
私は少しずつ慣れてきているけど、和也さんの笑顔って心臓破りなんだよね。じんわりと来るっていうよりは、グサッとくる感じ。
「廊下を歩いていたら倉橋さんの姿をお見かけしたので声をかけさせていただいたのですが、どうやらお邪魔のようなので失礼しますね」
「・・・別に、恋とかではないですからね」
「え、そうなんですか?」
・・・わざとらしい声。和也さんなら予想はついていそうだけど、ここはじっと我慢。一応陰陽師の助手だし、やると言ったからにはしっかりやらないと。
「冗談ですよ。でも無理は禁物ですからね」
「・・・ありがとうございます」
すっと伸びてきた手が私の肩をぽん、と叩いた。
きっと頑張ってって、言ってくれたんだよね。
頑張らなくちゃ。
そうして再び視線を戻して、例の妖探しを再開した。
「おっはよーーっ!
和也が教室に入ると真っ先に声をかけってきたのは、加藤 颯。同級生の彼は入学当初から行動を共にする事が多い。
「おはよう、颯」
気が合う訳でもなく、趣味趣向が似ている訳でもないが、一緒にいて楽しいと思える友人だ。
「今日は珍しく俺より遅いじゃん。お菓子ちょーーーだい!!」
「ないよ。それにしても颯も早いじゃないか。今日は空っ風が吹き荒れるかな」
「あー、帰り道は追い風になるから楽だわー」
「あ、確かに」
と、群馬県民特有だという会話を繰り広げたところで、教授が入ってきたため着席する。しかし、着席してからすぐに教室の後方に座る男子学生に目を向けた。
銀色の髪に白の耳に尻尾、そして紅の瞳を持った”妖”。
「和やーん、課題が出るってーー」
「・・・」
「和やん?」
「あぁ、ごめん。課題が出るって話?」
「なんだ聞いてたんじゃん。今日図書館に行く?」
「今日は・・・行こうかな」
入学当初からいる妖だが、ここ最近は妖力が高まっているように感じる。おおよそ、何かあったのではないかと考えられるが、そこまでは分かっていない。
これ以上強くなるのであれば、脅威になるやもしれない。それは群馬を任された陰陽頭の家としては、放っておくわけにはいかない。
どうやら撫子も気がついているようだが、気がつかれないようにこちらも動いた方がよさそうだ。彼女のお手並みを拝見してみよう。
「陰陽師の助手・・・さん」
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