陰陽師の助手の初仕事

第10話:白い耳・尻尾、そして紅い瞳の男性

 国道50号沿いの木々も緑の葉をつけ始めた5月。大学へと続く道を自転車で漕いでいると、多少汗が滲んでくる。驚いたことに、群馬の5月は容赦無く暑さが襲ってくる。この日は最高気温23度。6月を待たずしてこの気温。

 おそるべし、群馬。

 なんて思いながら大学へと急ぐ。5月に入ったとのことで、やっと大学生活にも慣れてきた。はや君も色々と手伝ってくれるから一人暮らしもなんとかこなせている。

 まだ慣れていないと言えば・・・陰陽師の助手、かな。

 県庁前で和也さんの補助があって術を出してからというもの、その後妖怪に遭遇することは無かったし、私が助手らしいことをする場面も無かった。そして相変わらず和也さんは色んなところに引っ張りだこのようで、書店にはあまり顔を出せていない。前回会えたのは2週間前だったかな。書店のアルバイトはほぼ毎日入っていて、和也さんがいない日でも書店の仕事をこなせるようになってきた。

 そうして学校に到着した私は駐輪場に自転車を置いて教室に急いだ。早歩きで向かう私に対して、大きなあくびをしながら歩く学生の姿もありふと時間を確認すると、そこまで急がなくてもいい時間であることに気がついた。

 よかったぁ。

 ちょっと余裕もできたし、歩いて行くことにした。

 そうして歩いて行くと周りの学生がざわついているのに気がついた。遠巻きにしているというか、でも注目しているというか。その注目の中心を探してみると、とある2人の男女に行き着いた。

 その男女を見つけた時、周りの人の目が行く理由がすぐに分かった。2人ともすっごく綺麗な美男美女。女性は少し赤がかった茶色の髪を綺麗に巻いていて、ナチュラルなお化粧でモデルさんのような体型。これはまさしく八頭身・・・もう圧巻です。

 そして隣に立っているのは灰色の髪を持った青年。クールな目が印象的で瞳の色は・・・赤?

 ・・・あれ、よく見ると頭には白い・・・耳?

 そして白い尻尾・・・???

 え、え、え、え、え、え・・・。

 ええええぇぇぇぇぇーーーーーーーっっっ?!?!?!?!?

 赤い目はまだカラコンで説明は付くけど、あの耳と尻尾はどう説明しますかーーーっ?!?!?

 でも周りの人は気にしている様子はない。ってことは私がおかしいのかな・・・?その、例の陰陽師のこととか・・・。

 そんなこんなで色々と考えを巡らせていると、ふと白い耳を持った男性と目が合ってしまった。やっぱり瞳が赤い・・・よね?

 とっさに目をそらしてすぐにその場を後にした。



 なんだかんだで授業中も男性のことを気にしながら授業が終わり、駐輪場に向かっている時のこと。

「あのさ」

 とっさに後ろから声をかけられて誰かと思って振り返った時、そこにいたのはまさしく例の男性であった。

 やっぱり耳と尻尾がある。うん、あるよね。

「もしかして君、俺の姿見えてる?」

 あ、あ、、あの・・・それってもしかして、もしかしなくても。

「み、見えてるって・・・どういうことでしょうか?」

「・・・嘘つくの下手。目が泳いでるけど」

「うううう、嘘なんてついてません!!!」

 よく見ると”赤”じゃなくて”紅”の瞳。その紅の瞳にじっと見られるとなんだか心が読まれてしまいそう。そしてさっきよりも距離が近いためか、纏っている気配がとても”妖しい”ことに気がつく。

 もしかしたら妖なのかもしれない。まだまだ術だって1人では使えないし、妖怪と妖の気配とか、雰囲気とかがどんなものかとか、分からないことだらけで確信はできないけど・・・。でもこの人から妖怪みたいな怖い感じはない。でも人間とは少し違う気がする。だから妖なのか、と。我ながら安直な答えだとは思う。

 でも和也さんからは、もし妖や妖怪に会っても絶対に声をかけたりついて行っちゃ駄目だって言われているから、ここは知らんぷりで通したい。

「ふーん」

 そんな葛藤に追われている私の姿を見ていた男性は、すっと顔を近づけてきた。

 紅の瞳が目の前にある。

 美しいと思ってしまう、紅の瞳が。

「術者の気配がする。あんた、陰陽師でしょ?」

「っ・・・」

 大した力なんて持ってないけど、一回でも術を使ったことがあればもしかしたらそういった気配が分かる人には分かるのかもしれない。

「・・・でも、その様子だと俺を消しに来たわけじゃなさそう。それならいいんだ」

 そういって顔を離した男性はそう言うとそのままその場を後にした。


 でもその後ろ姿がなんだか寂しくて、姿が見えなくなるまで目が離せなかった。

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