第9話 :群馬で陰陽師・・・の助手になりました

 街灯だけが道を照らす国道50号を歩いて行く。夕方は帰宅する学生やサラリーマンが前橋駅に向かって急ぎ足で歩いている姿が目立つが、22時の現在は人の姿は全く見られない。かろうじてチラチラと車が見られるくらいである。そんな人通りが少ない国道を歩くと、やがて左手に前橋市役所、前方に群馬県庁が見えてくる。地上33階、地下3階、高さ153mの県庁は、県庁としては日本一の高さだという。

「県庁・・・ですか?」

「はい。県庁です」

 そういう県庁の周りも人気はなく、静寂を保っている。特に変わった様子はない。

「この群馬県庁は、旧前橋城跡に建てられた県庁なんです。この裏に流れているのは日本で2番目に長い川、利根川です。前橋城は利根川の氾濫で何度も落城しています。この町は・・・利根川と共に歩んで来たと言っても、いいかもしれませんね」

 県庁の前にあるのは緑の芝生の広場。そして道路を挟んであるのは群馬会館。天皇即位の大典を記念して、昭和5年に建設された県内初の公会堂建築である。

 という大まかな説明を和也さんから受けたところで、ふと和也さんが真剣な表情になった。

「そう、ここはもともとお城だったのです。そして群馬県は土地の条件から度々戦が起っていたとか。そんな歴史から前橋城は妖怪が集まりやすいんです。戦いの果てに成仏できなかった魂。人の死を嗅ぎつけてきた妖気。・・・ほら、来ましたよ」

 和也さんが指差したのは県庁前にある芝生の広場の中心部。何もなかったはずの空間に空間が歪んだかのように景色が歪んでいく。そしてそこから現れたのは・・・。

「っ・・・っ?!」

 人間の形を成さない”モノ”であった。

「私たちがあそこに店を構え、暮らしているのはこの周辺が妖怪が多く出現するからです。そして本来、お城は霊力が多く存在する場所でもあるんです。・・・しかし現在の前橋城・・・厳密に言えば前橋城跡ですが、霊力が枯渇し妖怪を拒む力を失い、結果として妖怪が溢れているのが現状です。霊力が枯渇した理由は・・・分かっていません。現在調査中です。そこで、です」

 ”モノ”は私たちの姿を見つけるなり、ジッと睨みつけて来た。一方で和也さんは真剣な表情ながらも、切羽詰まった様子はない。

「霊力を持つあなたに、お手伝いしていただけたらと思っています。あなたには才能がありますから」

「手伝い・・・ですか?」

「はい。私の助手として」

「いや、霊力があるとか言われてもよく分からないですし、私にあんなのと戦う力はありませんからっ」

 あんなのと戦うなんて、普通の大学生の私にはできませんっ!!

 すると和也さんは私の背後に立ち、後ろから私の右手首を握った。

「大丈夫だべ。目をつぶって」

 こんな状況で目をつぶるなんて、自殺行為ではっ!?

 でもとりあえず、和也さんを信じてみよう。

「そのまま光の玉をイメージして」

 光の玉・・・。

「その光の玉から光の線がいくつも自分に伸びてくる」

 線が伸びてくる・・・。

「そしたら目の前にいる妖怪の姿を思い浮かべて」

 思い浮かべて・・・。

「右手を前にかざして」

 かざして・・・。

 あれ、なんだか体が熱い?

「放つ!!」

 和也さんの声と同時に目を開くと、妖怪の足元には白い光を放った円形の線が描かれていて、私の足元にも同じようなものがあった。

 ここここここれはっーーーー!?

「流石です。妖怪を足止めできましたね」

「あああああの・・・っ」

「ー 滅 ー」

 和也さんのその言葉と同時に、妖怪は苦しそうな声を上げて姿は空気に溶けるように消えていった。

「・・・」

 何が起こったのか、思考が追いつかないです。

 え、私・・・何をしたの?

「今あなたがしたのは、霊力を使った術の行使です。修行を積んでできる術を私の言葉だけで出来るようになるなんて、流石です」

「あ・・・あの・・・」

「・・・この土地の平和には、あなたの力が必要なんです。倉橋さんの力を貸していただけませんか」

 なんてまっすぐな目で私を見るんだろう。

 濁りのないまっすぐな目が、私には眩しい。

 陰陽師の助手・・・か。さっきの光景もまだ整理がついてないし、信じがたいけれど。

「・・・」

 でも、私に何か出来るなら。

「・・・わ、分かりました。私に出来る範囲であれば」

 とりあえずやって・・・みようかな。

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