第12話:陰陽師と幼馴染みのもう1つの顔

 朝の努力は虚しく、白の耳としっぽを持ったあの妖を見つけることはできなかった。そして、朝から夕方まで授業を受けてへとへとになって建物を出た時のこと。

「なでちゃーーん!!」

 歩いていた私の後ろから誰かが私を追い抜いたかと思えば、すぐに前方で停止しそのまま体の向きを変えた男性-はや君は満面の笑みだった。

「元気だねぇ」

「なでちゃんが元気ないだけだって。授業疲れたの?」

「疲れちゃった。甘いものでも買って帰ろうかなって」

 今日はこの後バイトも入ってないし、家でゆっくりしようかな。あの妖も全然見つからないし、作戦を考えなきゃ。

「はや君も授業終わり?」

「うん。でもこれから課題をやろうかと思ってさ」

 そう言うとはや君は私越しに誰かを見つけたらしく、これまた笑顔で手を振った。

「おーーい!和やーーん!!こっちこっち!!」

 はや君の友達かな?だったら私はお邪魔だしおいとましようかな・・・。

「おや、倉橋さんもご一緒でしたか」

 ん?この声、聞いたことがあるような。というよりも、今朝も似たようなことなかったけ?

「もしかして、なでちゃんと和やん、知り合い?」

 己はロボットかと思うほどにぎこちなく顔を声のした方へと向けてみると、そこに立っていたのは紛れもなく和也さんでした。

「倉橋さんは僕の書店でアルバイトしてもらっているんだ。倉橋さんから聞いてなかった?」

「アルバイトしてるのは知ってたけど、そう言えば、和やんの家の書店だったね。書店で和やんに全然会わないから、うっかりしてたね。てへっ」

 いやいやいや!!!確かにはや君が来てくれる時に、和也さんはいなかったけども!!

 なんていう私の叫びはもちろんはや君には伝わらない。けど、これはいつものこと。

「は、はや君。和也さんとはどういう関係・・・?」

「ん?和やんは同級生だよ」

 かかかか和也さんと同級生っ?!それもまた初耳なんですが!!今朝のことといい、今日は驚いてばかりな気がする。一方で和也さんは驚いた様子もなく笑みを崩さない。ということは・・・。

「あ、あの、和也さんは私とはや君の関係については・・・」

「はい、知ってましたよ。ただ双方から何も言われなかったので、特に話す必要なないかと思いまして」

 やっぱり、そうですよね。薄々分かっていました、はい。

「世間は狭いっていうけど、まさしくこういうことだね」

 はや君は昔から適応能力が高くって、あまり驚くことをしない。今回もきっとそうなんだろうな。

「これから俺たち図書館に行こうと思ってたんだ。なでちゃんも一緒に課題しない?この時間だと暗いから一緒に帰ろうよ」

 確か、近々提出予定の課題があったような。でももともと二人でやる予定だったのにお邪魔してもいいのかな?

「お邪魔じゃないですよ。倉橋さんさえよろしければ、ご一緒にどうですか?」

 また人の心を・・・。本人は否定しているけど、私は陰陽の術を使って心を読んでいるんじゃないかと思う。というくらい的確に当ててくるんだもん。

 といっても、そんな術があるのかどうかはわからないけど。

「じゃあ、お邪魔します」

 かくして、私たちは大学の敷地内にある図書館に向かったのだった。




 そうして、図書館について課題を始めたのはいいものの、ここで私は再び驚くことになる。和也さんが課題を黙々と進めていく姿は想像できた。けれどはや君は昔から勉強の類には興味もあまりなかったせいか、宿題に対して積極的に取り組まなかった。でも今、目の前にある姿は、課題に対して真剣な眼差しで向かうはや君の姿だった。加えて、パソコンのキーボードに置かれた手はスラスラと動いている。他の人から見れば、おかしな光景に見えないかもしれないけれど私からみたら、はや君には失礼かもしれないけど異様な光景だった。

 はや君、ごめんっ!

 そんな私の視線を理解したのか、はたまた術で読み取ったのか、和也さんがパソコンから顔を上げると手招きをした。

「颯本人から聞いた話ですけども、高校などでやった勉強にはあまり興味が持てなかったそうですが、大学では自分が興味のあることができて毎日が楽しいそうですよ」

 自分に興味があること。そういえばそういう人だったね。

 自分が好きなことには周りが見えなくなるくらい一生懸命で、時々それが危なかしくって。でもそんなはや君が大好きなんだよね。

「そうですか・・・」

 私も負けてらんないな。勉強のことも・・・そして自分がやると決めた、陰陽師の助手のことも。私がやるって決めたんだもん。中途半端じゃ周りに迷惑もかけるし、私も嫌だ。

 そしてひと段落ついたのか、はや君が顔を上げてコソコソと話していた私と和也さんを交互に見ると、ニコッと笑みを見せてくれた。

 本当に変わらないな。


 そうして時間は流れていき、図書館の閉館時間が近づいて来て私たちは帰宅の途についた。

 和也さんと別れて、2人での帰り道。

「帰りにお菓子買って帰る?」

「晩ごはんが食べられなくなっちゃうもん。もうやめておく」

「じゃあ、今日はなでちゃんのごはん食べに行ってもいい?」

「どうしてそうなるのー。いいけども」

「やった!なでちゃんのオムライス好きなんだ」

 ちゃっかりリクエストして・・・。どっちが年上なんだか分かったもんじゃないよね。でも、親元を初めて離れて私に寂しい思いをさせないと気を遣ってくれているのがよく伝わってくる。

 オムライスは私がはや君に作ってあげた初めての料理で、何度も失敗してその度に「おいしいよ」って無理して言ってくれた。そんなはや君に美味しいオムライスを食べさせてあげたくて沢山練習した思い入れのある料理なんだよね。

 そこまで考えて言っているのか、はたまた本当に食べたかったのか。

「・・・じゃ、スーパー寄って帰ろう?」

「うん、じゃあお菓子も買って帰ろーー!」

 はや君の目を見れば、だいたい想像はつくんだよね。


 そんな2人の姿を建物の屋上から見下ろす影が1つ。

 その影の瞳には颯の姿が映っていた。

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