第2話-4 視線と爪痕

 春コンは吹奏楽部の演奏から進んでいった。

 去年、仁美に誘われて聞きに行った定期演奏会でやってた曲もあったり、最近ドラマの主題歌になったJ-POPも吹部アレンジで演奏されたりもした。特に後者が今日来ている中学生たちには好評のようで、ノリノリの女の子には少し笑った。仁美が出たのは全曲ではなく、たまにこっそり脇から出てきて紛れるくらいだった。


 吹部の後にはやはり新設の部活がエントリーしていた。

 アコースティックギター部(弾き語りをするだけでまだヘタクソ)、アカペラ部(結構クオリティが高くて驚く)、ピアノ部(もはやショパンコンクール)とか。

 途中は人の出入りが多くなった気もするが、いよいよ最後に軽音楽部が始まるときにはまた人数が回復している。時間的に運動部が部活終わりで立ち寄ったってトコだろう。


「いよいよお姉さんの出番だなー! うんうん」

「気持ち悪いぞ後藤」

 両隣の喧騒をスルーしてると一つ目のバンドがスタートする。最初は三年の五人組バンドだった。ボーカル・ギター・ベース・ドラム・キーボード。姉貴はいなかったが、サビがこの前自宅で聞かされた二パターンのうちの一つだった。

「瞬、これお姉さんの曲?」

「うん」

「いい曲だなー」

 後藤が聞き入りながら呟いている。曲調は意外とゆったり系で、こういうアレンジもあるんだなって思う。


 二つ目のバンドは全員女子で組む、ガールズバンド。学年も関係なく、力量だけで揃えたって姉貴が昔言ってたやつだ。内容は意外にもハードロック系。最前列でモッシュが起きている。この位置でよかった。


 三つ目が姉貴のバンドで、春コンのトリだった。

 姉貴はキーボードとコーラスらしい。ボーカルとか他のメンバーも知っている先輩たちだ。たまにうちに来てて鉢合わせたこともあった。

 一曲目が意外にもバラード。聴衆を惹きつける常套手段らしい。ボーカルの先輩の顔立ちもあって女子が群がっている。

 二曲目が王道ポップソング。アニメの主題歌みたいな曲で若者をガッチリキャッチ。後藤もキャッチされていた。

 三曲目が校歌をもじったおふざけソング。だが聞こえはいい。姉貴に負けた感が鼻につく。


 最後の曲を前にして、息切れ切れのMCが挟まれた。

「えー……はぁハァ……僕たち三年が最後の春コンでやりたかったことがあります」

「それはある意味……伝説を残したい!という……ことです」

 隣で宗孝が「ありがちー」と呟く。俺も「わかる」と返す。


 そして聴衆の耳を傾けさせたまま、ラスト四曲目のイントロが始まった。


 もちろん超ガッツリ系、ポップでハードでノリノリな曲。

 一番が終わり、二番が終わり、間奏でギターの超絶テクが光り、大サビで曲調が落ち着き、ラストにボーカルが駆け回る。

 最後の音が「ジャーーー」と伸ばされて「ン」を待っている。ボーカルが「行くよー!」と掛け声をだす。

 そして、ジャンプをして跳ね上がる。前列をメインに聴衆もあわせて宙に浮く。


 着地と同時に「ン」が来る――それが王道。それじゃ伝説にはならない。




 着地と同時に体育館に響き渡る爆裂音。そして何色もの閃光。



 姉貴たちは、まさに伝説を作り上げた。

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