IDEA:未来からの手紙。


序章:未来から


 ボクがビデオカメラの録音ボタンを押す。

 彼は、カメラの向こう側へ、なにくわぬ世間話から始めた。


「たった一時間で、命を失うことなく、大金持ちになれるとすれば……誰もがそこにムダな努力を惜まないのではなかろうか。さらには、ここに自己啓発を兼ねているのであれば、なおも可である。

 ………けっして、歌手デビューやラノベ作家になって売れたいとか考えているワケではない。

 いってしまえば、

 私は、未来のプロゲーマーとして生きている人間だ。

 我ながら、よくも戦争や紛争、テロによってたくさんの命が失われているというのに、のんのんとゲームなんかできるな……なんて考えることもある。

 そもそも……他国のオトナたちは有意義なもんだ。

 この資金をゲーム大会のためでなく、発展途上国のために使えば何百人の人間を助かることができるだろうか。

 まぁ、私が優勝しても、ゼッタイにあげないんだけどね。

 まぁ大元から説明すれば、

 日本の首都:東京の消滅にともない、日本が占めた大企業は消滅し、その代わりに外資系企業が日本を運営するようになった。

 そういう自国だけでは景気が儘ならない落ちこぼれを『発展途上国』と呼ぶらしいが、日本のように高度経済成長を迎えてから衰退していったバカな国を『リターン発展途上国』なんて呼称するらしい。

 なんて恥ずかしい話だ、と私は思う。

 それでも、日本には国債という『国民からの借金』は消滅しないワケで……なにはともあれ、日本の平均給料が時給430円では、タバコ一箱どころか、月々掛かる税金さえまともに払えない―――おっとスマナイ。


 これはスベテ未来(あす)の話だ。

 ………いってみたかっただけだけど、

 だからというか、

 昔は神国なんて言われた日本の未来には、『デトロイロ』のような宙を闊歩する車両型タイムマシンもなければ、『時をかける少女』によろしく、こんな時空を掛けた恋は存在しない。

 それに付随するように、未来の人間は過去に焦がれるようになったのだ。それはマッタク不思議なことではない。君たちにわかりやすく説明するのであれば、過去の人間がバブル期を懐かしんだり、戦国時代の妄想に暮れるのと同じ原理だ。

 そうして、

 21世紀と22世紀の狭間で一時流行した『ニート』という存在が信仰復興(リバイバル)するだろう。いや……したんだ。給料や税金の話で理解してくれたと思うが、未来の若者たちも同じく、働く意義を見つけられなくなっていく。だが……それとは別に日本を占めていくのは、ここよりも貧しい海外労働者たち。……この日本の若者たちは、大人たちの都合で見捨てられたのさ。捨てたのは………誰だろうな。

 そんな中、

 ある科学者がとんでもない発明をした。彼が、私の先祖にあたる●●恭(きょう)介(すけ)という男だ。

 彼は、世界で初めて『本当の二次元』を発見した。

 ……わかりづらいと思うが、これはアニメーションを示す二次元ではない。

 古来より、現世を『写(うつ)し世』と表現するように、世界は鏡に映したように別の世界が存在する。

 彼はそれを逸早(いちはや)く発見すると、この世界を在り方について研究をおこなった。

 そして、気づいた。

 この世界はなぜか日本にしか入口(ゲート)がないことや、我々が疑似的にしか扱うことのできないデジタル信号により創造されていること。しかし、それは不幸中の幸いというべきか。我が先祖の恭介は、科学者でありながら、プログラマーでもあった。

 恭介は、すぐさまこの日本を変えるためのプログラムを打ち込んだ。

 誰もが楽しく画期的でユーモアかつ『現実』に生きていけるようになるプログラムをね。

 もちろんこのシステムは―――

 友人のいない者には気軽に話せる友を与え、病気などで歩けない者には疑似的にだが足を与える、学のない者に知恵を与え、この時代に合わせた職業訓練もおこなうことができる―――だけではない。我々未来人が憧れた過去を再現し、ゲームというコミュニケーションツールを発展させていったのだ。

 そんなプログラムは、この時代の若者たちを少しずつだが変えていったのだ。

 そして最後に、

 恭介という創造主たる人間は、彼ら若者に神を与えた。

 古来、敗戦によって奪われた『神』という存在を、日本をダメ方向に導いた大人たちの存在しない『若者たちだけの国』に与えたのだ。貧しい日本国民の中から、オトナに立ち向かうことのできる人間という種の『神』を選抜した。

 我が親友の先祖は宣言した。

 ―――この新しい神の国を『IDEA』と呼ぶことにする。


 だが、時が経つにつれて……この世界は現実である世界の『理』さえも変えていくことになる。

 それは我が先祖である創造主も考えなかった事態だ。

 しかしまぁ……本来の問題はここではないだろう。

 未来からこの映像をみている諸君、そう君のことだッ‼

 これらすべての問題は、これから大人になる君たちがちゃんと理解していれば起こらない問題だったなのだ。

 自分さえよければいい。未来のことなんてどうでもいいと考えていないだろうか?

 たしかに、君たちは私たちと同じ以上に過去の現代の葛藤や苦しみに耐えているのかもしれない。だが、それでも……ドコかでその絶望を止めなければ、私たちの未来はけっして幸せになることはないだろう。

『IDEA』という異国の言葉には、その思いが含まれているのだ。

 最後に………親友や家族、恋人。誰かを思う気持ちを忘れないでくれたまえ。

 そして、この映像(ビデオ)手紙(レター)が……未来からの最後の贈り物になることを切に願う」

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