その人の『愛』について:という小説の冒頭を考えてみる。
愛というのは、欲だろうか?
その愛という言葉が、人生論における『恋』だとか『恋愛』とは一線を引かれた立場にあることを認めなければならないと考えた時、私の中の『愛』とはなんなのかを考える結果となった。
考えたきっかけは、とても単純な告白からだった。
昨日、私が通うT大学のサークル活動の女の子からの一通のメールが始まりだ。
午後授業で、一日を赤ん坊のようにうたたねしていた俺は、このメールに起こされた。そして、着信に浮かび上がる文字には、例の女の子『上条(かみじょう)あかね』と記載されているのに、朝から心臓が衝き跳ねそうになった。なぜなら、彼女はサークル一美女であり、私にとっては高嶺の花とでもいうべき女性だからだ。
また、男を撒きに撒いた数は人知れず………いつの間にか、誰も彼女に告白なんてしなくなっていたのは記憶に新しい。この結果、女性(特に上条)を目当てにサークルに参加した男性どものほぼスベテが、一か月もしないうちにこの場から立ち去った。
だが、男どもが『彼女の初めて?』を狙う理由も無理もない。
上条のスレンダーなのにふくらみのある風貌は女神のような包容で満ち溢れ、勉学のほうも大学推薦の特待生制度に選ばれるだけの学力の持ち主。彼女を一目には世の男性は、その他一般の大学生を女性として見れなくなるのは当然というべきか。
数えきれない逸話を入学式からゴールデンウィーク前までのおよそ一か月という期間に作り上げたのだ上条は、サークル内の男性からこう呼ばれることになる。
『禍の魔女』―――
だからというか、私の心臓が衝き跳ねたのはいくつのも理由が重なるからで、けっして惚れていたワケではない、というのは読者の皆様には理解して欲しい。この『惚れていない』というのが、とても重要になってくる。
そうだ。しつこいが俺は、彼女にどうしても恋愛感情をもてなかった。
そういう性格なのだ。
誰かが求めるモノに関してまったく興味が持てない。また、完璧すぎる容姿や神の子同類の学力には、自らの劣等感が勝る一方だった。そして濾過された『恋』に、ただカスのように残る感情があった。俺は………彼女のことをマジで一発ヤッテやりたかった。
彼女のメールの文面を読んだとき、下半身から
どちらの内容も………ここまで書けば言うまでもなく理解してくれるだろう。そして、この被害妄想は妄想ではなく事実であり、上条は夕焼けが染まるキャンパスの端で、懇願するように頭を大きく下げた。
「田中先輩。どうか、私と付き合ってくれませんか?」
この言葉に、やはり下半身だけは反応した。しかし―――だ。
伝えることは既に決まっていたのかも知れない。
おそらくそれは、彼女に欲を発散することがあっても、恋愛という遺伝子力学的行動には星が放つ光ほどの距離が存在していたからで、いや………それはお互い様であるが、
だが、優柔不断な俺は、初めての告白に狼狽えていたのだ。
「ごめん、何日か待ってくれないか?」
口からは、保留を含む却下を降した。
都合がいいというのは判っている。それでも、初めての告白に関わらずヤケに頭が冷めていた。早くも訪れた認知症のように、恋愛感情というのが理解できない。
だが、改めて考えてみた。
彼女のことを愛することができるが、それは思春期の脳がみせる化学反応の集合体。その中には、上条という女性をブランド視する汚い自分、欲を発散できる三次元的快楽という悪として俺が騒ぎ立てるように心を揺らす。
それでも、その付き合いを知られることで………サークル内で起きる二次災害的なことが想像することは容易い。上条が、誰かの男になった。しかもそれが、同じサークル内の冴えない男だなんて、考えたくなかった。
そして、彼女が原因で部員が減少するようなことは、金輪際、発生して欲しくはない。
が―――、気づいてしまった。
今まで百戦錬磨だった上条が、フラれるような窮地に追い込まれたことは今までに存在するか、どうか、
答えは、NO!
上条のポカンとした表情が、次期に今の予測しえなかった『否定』に気づいてきたのか、その瞼が揺れ始めた。
「え………、ナンでですか? 私じゃダメですか?」
その恋愛という感情に理由を尋ねる物言いは、俺の思考を鈍らせる。
まるで、自分に恋に落ちない世の男は存在しないかというようなセリフ。彼女は、頭もいい。おそらく、男の断(フ)り方を取得していく過程で、自身が男の欲望の塊ということには気づいているのかも知れない。
そして、このひとことだけは、聞きたくなかった。
「………私、もうサークルに戻れない」
「………え?」
「だって、アナタの顔をみるだけで私の胸は、締め付けられるように痛くなる。もう我慢できないの! 私のこと………好きにならなくてもいいから。どうか、私を愛してくれませんか?」
このT大学で禍の魔女と呼ばれる少女はあまりに脆く、打たれ弱い存在だと誰が知るだろうか?
やろうと思えば、世の男性スベテを虜にしてしまいそうな薄幸の美女が、懇願する眼差しで、俺を上目遣いで見ている。それは―――なんでも受け入れてくれる女神のように、
そして、『愛してくれればいい』という奴隷志望をする女神に、あらゆる欲望が溢れ出していた。
天秤の振動を抑えることはできない。
その手は、水に渇望する砂漠の旅人が幸福を求めるように、出来過ぎた包容に包まれていた。
かくして、俺は彼女との『愛』についての欲と盲信の日々が訪れた。
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