第4話 鋼鉄人形の戦い

 俺たちは連合宇宙軍の戦闘服を着込んだ猿人に囲まれた。連合宇宙軍と言っているがそれは略称で、本来は『アルマ星間連合宇宙空間共同防衛機構』と言うのが正式名なのだ。元々はここアルマ帝国中心の組織であったのだが、加盟国が増えるに従い帝国の格は下がり今では単なる議長国となりさがった。当然反帝国派が蔓延っているのだが、このサル助共はその先鋒だ。俺が鋼鉄人形を出しているのを知ってか、機械人形を3体配置している。この機械人形は電機駆動するロボット兵器で、宇宙軍の正式装備だ。霊力を必要としない汎用兵器である。上手下手を抜きにすれば誰でも操縦できる。

「少尉助けて!」

 猿人の後ろからフェオの声がする。後ろ手に手錠をかけられている。その横にあの店のウェイトレスがいた。名前はたしかフラウだったか、まだエプロンドレス姿の彼女は縛られてはいなかった。

 サル助の指揮官らしき男と親しげに話す彼女を見て、俺は自分の間違いに気づいた。アレは女スパイで皇女方の動向を探っていたのだ。俺は警備隊を呼べと言ったのだが、彼女は宇宙軍を呼んだ。そして、店の表で宇宙軍を中に入れないよう頑張ったであろうフェオは妨害罪とかで拘束されたのだ。俺としたことが、連日の農作業で平和ボケしていた。情けない。

「レガラル隊長。約束は守りましたよ。情報料払ってね」

 レガラルと呼ばれた猿人はフラウに銭袋を渡す。中身を確認し彼にウィンクすると俺に向かって歩いてくる。俺の手前で立ち止まり首に両手を回しキスしてきた。

「ねえ少尉殿、いえ、元大尉殿。私、昨夜はあなたと寝たかったのよ。そこにいる毛のない小娘が来なければたっぷり感じさせてあげたのに……残念」

「それはすまなかったな。そこのサル助を全員ぶちのめしてから帰るから、その時またお願いするよ」

「あら、すごい自信ね」

「俺が元大尉だと知ってるならそう不思議な事でもないだろう」

「そうね。そうよね。じゃあ待ってるわ」

「ああ」

 チュッと唇を合わせ俺から離れたフラウは森の方へ歩いていく。

「おいフラウ。俺との約束忘れるなよ。ヒーヒーよがらせてやる」

 レガラルが叫ぶとフラウは振り向いた。

「あんたが無事に帰ってきたら考えてあげる。アレがでかいだけで女が満足するとでも思ってるの。

 ヒラヒラと手を振りながら森の中へと消えていく。レガラルは完全に頭に血が上ったようでフェオの尻を蹴飛ばす。

「お前は用済みだ。どこへでも行け!」

 フェオを解放してしまった。さらに都合の良い事に俺との勝負を申し込んできた。

「ハーゲン。俺と勝負しろ。人形での対決だ。お前が勝ったら此処は何もせず退散してやる。俺が勝ったらフラウは貰う。そこの人間の女二人も俺が貰う。夜通し泣かせてやる。がはははは!」

 下卑な笑いだ。品性のかけらもない。フラウは敵だと思っていたがいい仕事をしてくれた。レガラルの嫉妬心を巧妙にあおり、人質を解放させ俺との一騎打ちを誘発してくれたことだ。俺達にとって一番避けなければならないのは、人質を取られ行動を制限される事。逆に望ましいのは各個撃破できる状況を作ること。つまり、一騎打ちは絶好の条件なのだ。阿保なサル助である。フェオはフラフラしながら俺の元へとたどり着く。

 此処でララ皇女が俺に耳打ちする。

「先ほども見たであろうが連絡艇が爆破された。プランAは失敗だ。それでプランBへ移行する。30分粘れ」

「承知しました。ところで宇宙軍が出張ってきてますが、対応できるのでしょうか?」

「心配いらん。奥の手じゃからな。問題はない。まあ万が一しくじってもプランCで乗り切るから大丈夫だ」

「嫌な予感がしますが、そのプランCってもしかして強行突破して宇宙船を分捕るとか、そういう無謀な計画ではないでしょうか」

「すっ鋭い奴。プランCは強行突破だ。これは私もなるべくやりたくない」

「そのプランCに移行しないためには俺が30分時間稼ぎをすればいい。そういう事ですね」

「ああ、任せたぞハーゲン」

「承知しました。すみませんがこいつの事お願いします」

 フェオをララ皇女へ預ける。殴られて痣になっている頬をクレド様が舐めている。

「うひゃ。くすぐったい。あはぁ!」

 楽しそうに悶えているお調子者だ。一生の思い出になる光栄な経験だろうが残念なことにフェオはクレド様の事を知らない。

 俺はゼクローザスへ乗り込んだ。

 このサル助共は、欲深で節操がなく傲慢なのだが、こういった力を競うときは妙に生真面目で狡をしない。力を誇示し認められたものだけがリーダーになれる風習なのだという。そこでごまかすと信用を失いリーダーにはなれないらしい。俺がゼクローザスに搭乗するのを妨害しないとはお人よしすぎる。

 俺はゼクローザスを起動させる。左手に円形の盾を持ち、右手に大剣を持ち構える。この古代の鎧を着た重装兵を思わせるスタイルは気に入っている。歴史と伝統が凝縮されており多くの人の支持をえているのだ。これと比較して目の前の機械人形エリダーナは合理主義極まりない設計なのだという。安定性を高める為脚は短い。腕が長くリーチがあり間合いが広い。腕の装甲は極端に熱く肉弾戦に強い。両肩、胸部には火器が内蔵されており遠距離での攻撃力も侮れない。最新の装備と膂力を秘めた新型機なのだが格好が悪い。

 大型ロボット兵器は少年の憧れであろうにこのエリダーナだけは人気がないのだ。

「準備は良いか。行くぞ。死んでも俺を恨むなよ」

 威勢の良いレガラルである。俺は盾を正面に構え突進し体当たりをかます。短足で安定がよいはずのエリダーナが簡単によろけ尻餅をつく。胸部の機関砲を射撃しやがったのを盾で防ぎ後退すると奴は立ち上がって吠える。

「剣で打ち合え。この卑怯者!」

 機関砲をぶっ放す奴に言われたくはない。今度は剣を突き出し一気に間を詰める。エリダーナはろくに回避もせず盾で受ける。奴の盾には大穴が空いた。

 ララ皇女から通信が入る。

「ハーゲン。30分は無理か?無理だな?」

「ええララ様。こいつ弱すぎます。手を抜いても3分が限度です」

「仕方ない。殺さんように倒せ」

「了解」

 今度は剣を振り回しながら突っ込んできた。大振りで軌道の乱れた剣筋は、剣の素養が全くないことを伺わせる。剣を盾でいなし地面に突き刺さったところで剣の腹を踏んでへし折る。三つ目の頭部に剣を突き刺した後片足を切断した。バチバチと火花を散らしながら仰向けに倒れたところへすかさずコクピットのある胸部を踏みつける。殺すためではなくコクピットを破壊し再起できなくするためだ。

「おい、俺の勝ちだな。即刻退散するなら命は奪わん」

「バカな。最新のエリダーナがこんな骨とう品に負けるなどあり得ん」

「そんなことはどうでもいいから負けを認めろ」

「ミル!ダイガ!ビーム射撃だ。こいつを吹き飛ばせ!」

 無茶な命令を出すものだ。ビーム砲は威力があり過ぎるし自分が射線上にいることを理解しているのだろうか。ちょうど俺の後ろにいた2体のエリダーナが肩部のビーム砲をぶっ放してきた。俺はそれをかわすだがレガラルの機体に命中する。レガラルのエリダーナは爆発炎上した。コクピット辺りに命中したようで、あれでは骨も残らないだろう。俺はすかさず一体の頭部を潰しもう一体の足を切断する。そこで今度はクレド様から精神会話がつながる。

(ハーゲン。3時の方向から艦砲射撃です。あと3秒、2、1)

 命中直前で俺は後ろへ下がり皇女方の前で姿勢を低くする。目の前でビームは2体のエリダーナを貫き激しく爆発する。膨大な熱が放射され周囲の草木が燃え上がった。盾で爆風と熱線を防いだところでララ皇女からの通信がはいる。

「ハーゲン。3次方向に巡洋艦だ。やっと姿を現しおった」

 空中に突如現れた宇宙軍の巡洋艦である。光学迷彩を使用していたせいで全く位置が掴めていなかった。真っ黒で、マンタレイを思わせる平べったい形状をしており尻尾部分が長い。胴体部分に何本も細長い砲身が突き出ている。こいつは圧倒的な火力を持っていて、俺たちの現状戦力では歯が立たない。

「ララ様、あれがラスボスですか」

「ああ。あんな代物を地上に降ろすとは酔狂だな」

「全くです。連合法ガン無視ですね」

「無視してでも欲しいものがあるのだ」

「クレド様ですか?」

「ほかに考えられん」

「困りましたね」

「ああ」

「あれ、どうしますか?」

「黙らせるしかなかろう」

「どうやって?石でも投げますか?」

「おおそれだ!」

 ララ皇女は何か思いついたようだが、俺は悪い予感しかしなかった。

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