第3話 解放と抱擁

 途中で2度結界の解除を行い、俺たちは最終目的地に到着した。

 人形をしゃがませ二人の皇女を下に降ろす。山肌に石造りの建物がある。そこの扉の奥に洞窟があり、幾重にも結界が張られた永遠の牢獄があるのだという。

「こんなところに500年ですか。俺たちの女神様に対して惨いことをしやがる」

「連合に対して憤る気持ちは分かりますが、先代の皇帝陛下が承諾されて実施したことなのです。陛下の批判につながる言葉はお控えください」

「そうでした。今の発言は取り消します」

「ええ」

 マユ皇女は胸に両手を当て目を瞑り祈りをささげる。そのまま数分間じっと動かず祈り続けている。瞼を開き両手を扉に当てた。

「カーンアルマ神の命です。開いてください」

 石の重い扉が内側に開いていく。中はぼんやりと明かりがともっている。マユ皇女、ララ皇女に続いて俺も中へ入る。石造りの廊下を進んでいくと奥に牢獄が見えた。

 そこには一匹の毛深い女鹿がいた。角は無く、輝くばかりの栗毛が美しい。クレド様が動物の姿で描かれている宗教画を何度か見たことがあったが、それは孔雀やフクロウなど、鳥の姿だった記憶がある。このようなお姿であった事は予想外だったのだが、その神々しい美しさに暫し心を奪われた。

(マユ様、ララ様、お久しぶりです)

 これは、音が聞こえないのに直接頭の中に響いてくる。精神会話なのか。

「お久しぶりです。クレド様」

「お久しぶりです」

 マユ皇女とララ皇女が深く礼をする。

(そちらの男性は?)

「こちらはドールマスターのハーゲン少尉です」

「初めましてクレド様ハーゲンと申します」

 俺は片膝をつき最敬礼をする。

(今日は何か特別な御用がおありなのですか?)

「ええ、以前お話したクレド様の亡命の件で参りました。本日この牢獄から解放して差し上げます。そして星間連合外の星、地球へお連れ致します。さあ格子から離れてください」

 マユ皇女がまた呪文を唱える。淡く輝いていた格子は光を失い中央の格子は消えてなくなった。

「さあどうぞ外へ」

(ありがとうマユ様)

 女鹿の姿をした女神クレド様が外に出てきた。俺はしゃがんでパンを取り出す。

「クレド様、おなかが空いていませんか、粗末なものですがよろしければお召し上がりください」

(ありがとう。いただきますわ)

 俺はコッペパンをちぎってはクレド様の口へ持っていく。クレド様は美味しそうにもしゃもしゃとそれをついばむ。

「ハーゲン。私も食べさせてあげたい」

 ララ皇女は俺からパンをもぎ取りクレド様に食べさせる。コッペパンはすぐになくなってしまった。

(たいへんおいしかった。ありがとうハーゲン、ララ様)

「人形の中にもう少し食べ物があります。お持ちしましょうか?」

(もう結構です。それはあなたたちがお食べなさい)

 ララ様がクレド様を熱い視線で見つめている。まさかこの人は恐れ多くもクレド様を撫でまわす気なのか!?

「クレド様、体を撫でてもいいですか?」

(ええどうぞ)

 ララ様は首のあたりに遠慮なく抱きつきあごや頭を撫でまわしている。

「ああ気持ち良い」

(私もです。ハーゲン、あなたも遠慮せず私を撫でて下さい。久方ぶりの人の温かさが大変心地よいのです)

 俺もしゃがみ込みクレド様の背中を撫でる。クレド様もうっとりとした表情を浮かべ目を細めた。

(ララ様、ハーゲンありがとう。500年ぶりの人との触れ合いに胸が熱くなります、心が弾けてしまいそうな感動を覚えます。ところでマユ様そろそろ移動した方がよろしいのでは?)

「そうですね。迎えが来る頃です。外へ出ましょう」

 マユ皇女は頷くと外へ向かって歩き出した。俺たちは彼女に従い外へ向かう。

「しかし、あっさりと出れましたね。こんなに簡単にいくとは思いませんでした」

「そこはきっと大人の事情があるのでしょう」

「大人の事情って何でしょうか」

「作者としては、迷宮の奥深くに捕らえられている女神様を救出するため、ダンジョンの3つのカギを開けるミステリーを解き、途中で現れるモンスターをバッタバッタとなぎ倒し、最後に待ち構えるラスボスを皆で協力し苦労してやっとのことで倒す。そしてめでたく女神様が助け出される。そういう王道ファンタジーがやりたかったのだ。多分な。パーティーメンバーは、私、ララが勇者、マユ姉様は僧侶兼魔法使い、鋼鉄人形が戦士、貴様はもふもふの遊び人だハーゲン。効果のないパルプンテでも唱えておれ」

「私が戦士でよろしいのでは?実際の職業もそうですし、鋼鉄人形を装備すると考えれば矛盾はありません」

「頭の固い奴じゃな。冗談にきまっておろうが」

「しかし、今回は短編2万字以内で応募すると決定的されております。そういうエピソードを入れてしまっては、字数が大幅に超過する事が確実でした。仕方なくダンジョンのストーリーはカットされたのだと思われます」

「まあ、そういう事情があってな。作者は途中で進路変更しやがったのだ。ラスボスの攻略に貴様と貴様の鋼鉄人形が必要だったので無理やり引っ張て来たのだが不要になった。もう出番は無い……と思う」

「正に大人の事情ですね。しかし、こんなどうでもいい事喋るだけで字数食ってますね。もったいない」

「この脱線は、後程、字数合わせの為削除されますわ」

「それはそれで空しいですね」

「そうですね。そろそろ外に出ますよ」

 うす暗い地下から陽光の眩しい地上へ出る。しばらく目が眩んで良く見えなかったが、少し離れた広場に宇宙軍の連絡艇が着陸していた。小型で10名程度の定員だったはずだ。あれで地上と衛星高度の宇宙船を往復できる。

「あれが迎えですかね」

「そのようです。急ぎましょう」

 俺たちはその連絡艇へと向かうのだが、そのコクピットでパイロットらしき男がしきりに首を振っていた。よく見ると猿ぐつわを噛まされシートにっ縛り付けられている。後ろに立っていた猿人がにやりと笑い手榴弾を放り投げる。俺たちは今来た道を逆に戻り地に伏せる。

 バンという破裂音と共にコクピットのガラスが割れ、機体から火が出て燃え始めた。2~3度爆発する。異変を感じた俺はゼクローザスへ向かって走り出すのだが、残念なことに鋼鉄人形は猿人に占拠されていた。



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