第2話 もふもふとおっぱい

 店の裏口から外へ出て砦の通用門から外に出るように案内するのだが、ララ皇女は承諾してくれなかった。

「貴様はドールマスターであろう。ここにも配備してあるな」

「はい」

「何日動ける」

「戦闘行動二週間分のチャージが完了しております」

「よし、人形を出せ」

「え?アレは非常に目立ちますがよろしいのですか」

「構わん。時間が惜しい。先ほど馬車を失ったからな。目的地は徒歩で一週間かかる。鋼鉄人形なら一日で着く」

「私も随行しますか?」

「当たり前だ。われらに人形は動かせん。早くしろ」

「承知しました」

 俺は水と糧食を用意し格納庫へ向かう。先に皇女様お二人を操縦席のせ『夜間演習』と言う適当な理由で門を開けさせる。ゼクローザスの操縦席に座るのだが一人乗りの操縦席に3人はキツイ。

「構わん。このまま出せ!進路は西だ!!」

 ララ皇女の命に従いゼクローザスを発信させる。

 もうすっかり暗くなり空には数多くの星が瞬いていた。暗闇の中、ゼクローザスをひたすら前進させる。この辺りは砂漠地帯で概ね平坦なので歩かせやすい。

 ララ皇女はシートの後ろの狭い空間に立ち俺の頭に抱きつき俺の毛並みを撫でまわしている。マユ皇女は俺の膝の上に座り俺の胸に頬ずりすしている。軍服のボタンはすべて外され胸の毛並みを堪能されているのだ。皇室の美少女二人に毛並みを撫でまわされている。こんな至福の時はそう訪れないだろう。一生の思い出になるな。と、少し集中力が落ちたところでゼクローザスの足を躓かせてしまいコケそうになった。機体が大きくグラつき二人の皇女も悲鳴を上げた。

「おい、ハーゲン。気を付けろ」

「申し訳ありません。マユ様、ララ様。もう少し私の体に触るのをお控えください。そちらが気になって集中力を削がれるのです」

「そうなのですね。わかりました。ララさん」

「え。この極楽浄土のような毛並みから手を引けと。それは惨いですぞ姉様」

「ダメです。ハーゲン少尉がお困りですよ」

「うむむ。仕方ない。ハーゲン、暇になったらまた触らせろ。頼む」

「了解です」

 強面のララ皇女も姉のマユ皇女には素直だ。そのお姿はなかなか可愛らしい。

 数時間歩きオアシスの町ルボラーナが見えてきた。

「今夜はどうされますか。そこのオアシスの町で休まれますか?」

「いや、時間がもったいない。このまま行ってくれ。貴様へこたれても休むな」

「了解。ところで、行先はどちらでしょうか?それによって若干ペースを調整いたします。少しは休憩しないと皇女様方もお疲れではないでしょうか」

 人型の鋼鉄人形である。歩行するたびに上下に揺らされるので素人では辛いはずだ。訓練した者でも丸一日歩行するのが限界だ。

「行先はオクスだ」

「本気で?」

「ああ本気だ」

「あそこは立ち入り禁止区域では?」

「皇族は許されている」

「では私は行けるところまでで良いですか」

「いや、最後まで付き合え」

「法を犯せと」

「ふん。法を守って義を捨てることは出来んだろう。お前は」

「まあそうですね」

「あそこに500年間女神様が幽閉されているの。クレド様の件。あなたもご存知でしょう?」

「ええ。その話は聞いておりますが、それがオクスなのですか?」

「ええそうです」

「そこへ行って何をされるのですか」

「クレド様を解放します」

「許可は?」

「陛下の指示です」

「なるほど。しかし、議会の承認は得ていないと」

「ええそうです」

「星間連合に対する裏切り行為になりますね」

「そうです」

「それでもやるんですか?」

「もちろんです」

「どうしてそこまで性急になさるのですか?」

「これは皇帝陛下のご決断なのです。先代の為された事ですが、連合に屈する形でわれらの女神様を封印してしまった事を悔いておられるのです。これはクレド様に対する償いだと仰せです」

「救出した後はどうされるんですか。帝国内では匿えないでしょう」

「星間連合外へ亡命していただきます。それなら連合も文句を言えないはずです」

「確かにそうですね。過剰な軍事力が封印の理由だったと聞いておりますから、連合外への移転であれば問題ないかもしれません」

 クレド様はこの大地を守る守護神であり強大な力をお持ちだ。過去数度この大地を汚した侵略者に対し痛烈な罰を与え殲滅されたという。現代の兵器でも敵わぬ圧倒的な力をお持ちなのだという。

「それは賭けなのです。この事を連合が認めるか否か」

「賭けですか。勝算は?」

「五分五分ですね」

「その賭けに負けるリスクを承知で陛下はご決断されたのだ。ハーゲン少尉、やるのかやらないのか?」

「当然やりますよ。あの話は聞くたびに腹が立っていましたから。連合に一泡吹かせられるなら喜んでお手伝いします」

「良いのか。下手をすれば反逆罪だぞ」

「マユ皇女、ララ皇女とご一緒できるなら本望です。軍法会議など怖くないですよ」

 俺の返事に皇女様方は満足されたようだ。俺たちは夜通し歩き続け夜が明けるころには砂漠地帯を抜け山岳地帯へと入り込んでいた。今はお二人は位置を入れ替わっており俺の膝の上にララ様、後ろにマユ様がいるマユ様も俺の頭に抱きついておりその豊かな胸が後ろ頭に押し付けられるのがなんとも心地よい。

「夜明けと同時に山中に入れたのは幸運ですね。目立つ砂漠を暗いうちに走破できました。恐らく正午ごろ目的地に着くと思われます。立ち入り禁止区域ですのである程度憶測が入っております」

「それで良い」

「ところで、質問してよろしいでしょうか」

「何だ少尉」

「クレド様を解放できたとして、その後どうされるのですか?星間連合外への亡命だと言われておりましたが、宇宙船の段取りは出来ているのでしょうか?」

「ああ問題ない」

「宇宙船の運行は厳しく管理されておりますから、宇宙軍を動かすとかえって邪魔が入りやすいかと思いますが」

「心配ない。お前はわれらをそこへ連れていけば良い。後の事はわれらに任せよ」

「承知しました。ところで昨夜の酒場での狼藉もこの計画の妨害だったのでしょうか?」

「そうだと思います」

「サル助はそこかしこで似たようなことをしでかして居るからな。あ奴らを使えば策略であると悟られにくいのだろう」

 森に入り更に奥へと進む。道がふさがれている場所があり立ち入り禁止の表示がしてある。無視して進もうとすると結界が張ってあるようで接触面で火花が散る。

「結界ですね。どうしますか。目立って良ければ俺が壊します」

「私が解除しましょう。扉を開けてください」

 操縦席のハッチを開く。マユ様は俺の頭に抱きつき胸を押し付けながら前に出る。

「私の胸の感触は、良かったですか?毛並みにたっぷり触れさせて頂いたお礼です」

「ありがとうございます。至福の時を過ごさせていただきました」

 素直に礼を言う。マユ様も微笑んでいる。彼女の黄金の瞳は非常に美しく見とれてしまう。

 前側に出て何か呪文を唱え、こちらを向き微笑む。

「もう大丈夫ですわ。お進みください」

 ハッチを締めると、今度はララ様が俺の頭に抱きつき後ろ側へ回り、マユ様は膝の上に座る。

 ゼクローザスを進めるが今度は何も起きなかった。見事に結界は消滅している。そのまま歩いていく。

「なあ少尉」

「何でしょうララ様」

「お前は胸が好きか?」

「それはどういう意味でしょうか?」

「いや、だから女性の胸が、おっぱいが好きなのかと聞いておるのだ」

「嫌いではありませんが」

「やはりな。男はみなおっぱい星人なのじゃ。この裏切り者」

「裏切り者などと仰せられても困るのですが」

「貴様と私は御前試合で戦った仲ではないか。命を懸け戦った強敵ともであろう。そうだな。なのに姉様の胸の感触に酔いしれてデレデレしおって。私の胸では何の感慨もない顔であった。ぐぬぬぬぬ」

 今度は頬の毛を引っ張りグリグリとこね回し始めた。

「ララさん。少尉がお困りですよ。ララさんの胸もすぐに大きくなりますから。皇族の女性は皆胸が豊かなのです。あなたも大丈夫ですよ。ご安心なさい」

「本当に?姉様方は胸が豊かなのに私だけこんなにぺったんこなのは辛いです。すぐに大きくなりますか?」

「あと10年ほどお待ちなさい。そうすれば、ララさんの胸もきっと大きくなります」

「10年も待てません」

 再び俺の頬をグリグリこね回す。

「ララさん。それ以上ダメです。もし我儘を言うならここで置いていきます」

 少し厳しいマユ様の言葉に急に大人しくなる。

「申し訳ありません。姉様」

「私はいいですから、少尉殿に謝罪しなさい。あなたの我儘で本当にお困りでしたから」

「悪かった。ハーゲン少尉。謝罪する。ごめんなさい。もう我儘は言わん」

「了解しました」

 強烈な強さを誇っていても中身はやはり子供なのだ。このような可愛らしく純粋な方たちが国の中枢にいることを誇らしく思うのだった。

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