第5話 投石VS対艦ビーム
巡洋艦の砲撃は強烈だ。宇宙空間で敵艦を沈める為の装備、これを地上にぶっ放すなんて正気ではない。皇女方が巻き込まれては困るので即移動する。斜めに走りながら皇女方から離れていく。クレド様から精神会話が繋がった。
(艦砲射撃来ます。3秒前、2、1)
立ち止まり構えた瞬間ビームが着弾したが盾で拡散させた。膨大な熱線が周囲に放射され辺り一面が燃えあがる。俺の技術なら方向とタイミングさえつかめば砲撃を無効化できる。霊力を消費するので多用できない技だがこれで時間稼ぎはできるだろう。
俺がせっかく注意をひきつけているというのに、ララ皇女は石を拾い本当に投げてしまった。剛速球が約5000m先の巡洋艦に突き刺さるのが見えた。全くどんだけ馬鹿力なんだか……。
「ララ様、石では巡洋艦の装甲は貫けません。かえって射撃の目標にされます。控えてください」
「バカかお前は。あえてこっちが囮になってやっておるのだ。お前はアレに接近して黙らせろ」
「撃たれたらどうするんですか。さっき見たでしょ。人形の火力とは桁が違います」
「姉様が法術でシールドを組んだ。お前の盾よりは強力だ。こっちは気にせずに行け!」
「行けと言われましても」
「奥の手があるんじゃろ。知っておるぞ」
「アレは霊力の消費が大きすぎるのでなるべく使いたくないのですが」
「つべこべ言わずに行け。骨は拾ってやる」
「死亡前提ですか?」
「いえ、後程回復して差し上げます。存分にお働き下さい」
今度はマユ皇女の言葉だ。これはやる気が出る。
奥の手とはテレポートである。誰にでもできる技ではない。可能なのは帝国内で俺とあと数名ほどであろう。このゼクローザスでテレポート出来るのは目視できる範囲。つまり、眼前の巡洋艦は距離5000メートル程度で丸見えなのでいつでも艦上へジャンプできる。俺がやりたくない理由はコレを使うとチャージしていた霊力を使い果たし、稼働時間が極端に短くなるからだ。バックアップする他の人形が不在な状況では使えない。
「ララ様。アレを使うと稼働時間が極端に短くなります。数分で力尽きます」
「分かっておる。とにかくあれを黙らせろ」
「承知しました」
俺はゼクローザスを走らせる。巡洋艦がまた射撃した。今度は俺ではなく皇女方を狙った。ビームは真っすぐに皇女様へ伸びるが直前でシールドが干渉しそのまま跳ね返した。反射したビームが艦体に突き刺ささるものの、向こうも対ビームシールドが展開しているようで四散した。さすがはマユ皇女だ。高名な法術士の高度な技術に感嘆する。ララ皇女はと言うとまたまた石を拾いぶん投げる。巡洋艦に向かって石を投げる皇女と生身の人間を対艦用高出力ビーム砲で撃ってしまう阿呆宇宙軍双方にあきれてしまう。俺は加速し最高速に達したところでクリスタルに全霊力を注ぐ。ゼクローザスはまばゆい光に包まれ瞬間的に巡洋艦の直上数メートルの位置にジャンプしていた。艦上に取りつき艦体に大剣を突き刺す。そして残りの霊力の全てを放出した。巡洋艦は全体が一瞬光に包まれる。ぐらりと揺れ少し傾きながら徐々に高度を下げ始めた。今の一撃は内部の電子装備を破壊する技なのだが、十分効果があったようだ。巡洋艦はさらに高度を下げ軟着陸した。ララ様から通信が入る。
「ハーゲン。よくやった、と言いたいところだがもう一匹いる。気をつけろ」
「申し訳ありませんがこちらはもう動けません。ララ様は退避を」
「馬鹿を言え。お前を置いて逃げれるものか」
(10時の方向より艦砲射撃です。3秒前、2、1)
クレド様より精神会話が繋がるもののもう動けない。
10時方向へ盾を構えると同時に盾にビームが着弾した。もう霊力が尽きているので盾は左腕と共に溶解する。次に撃たれたらもう防げない。光学迷彩が解け10時方向にゆっくりと姿を現すのは、サメのようなスタイルをしている小型の駆逐艦だ。
(直上より戦闘機です。接触まで5秒、4、3、2、1)
急降下してきた戦闘機2機に銃撃される。こいつらはブーメランのような形状の無尾翼機だ。弾が何発かはコクピットに飛び込んできた。
当然だが向こうも考えてたって事だ。大気圏内で宇宙戦闘艦を運用する場合、重力制御の関係で動きが緩慢になる。火力は強烈だが動きが遅いので相応の装備があれば狙い撃ちされる。バックアップする艦艇や航空機がいるのは必然なのだ。戦闘機は大きく弧を描いて旋回し上昇していく。今度は小型の駆逐艦の番だが……その時俺は異様なものを見た。
山肌から魚雷のような大型の誘導弾が湧き出てきた。
それは駆逐艦の脇腹に深く突き刺さった。遅延信管が作動し爆発する。サメは真っ二つに折れそのまま墜落していく。
また山肌から今度は少し小さめの誘導弾が2発湧き出てくる。それは上昇していく2機の戦闘機を追尾していき命中した。
「やっと来た。プランBだ」
ララ様 今度は山肌から戦闘艦が湧き出てくる。どうやら惑星上でも異次元航行出来る特別製の艦らしい。異次元空間に入ればすべての索敵から探知されない完全なステルス性を発揮できるのだ。通常、重力下では座標のズレが生じる為異次元航行はできないようになっている。古代の技術にそんなのがあったと聞いたことがあるが、とんでもない代物を引っ張り出してきたものだ。三角錐状の直線的なデザインの小型艦が着陸し、黒髪で色白の女性が一人迎えに出てくる。あれは第3皇女のミサキ様だ。
「ララ、マユ姉様、お待たせしました」
「ミサキさん遅かったですわ。ギリギリです」
「仕方ありません。急な呼び出しなのですから。ところで、早速出発するのですか?」
「ええ、一刻の猶予もありません。直ぐに次元航行にてここを離れてください。さあ、クレド様、ララ急いで」
「マユ姉様は?」
「私は残ります。後始末が沢山ありますから。ミサキさん。クレド様とララさんをお願いします」
「了解した。直ぐに地球へ向かう」
ゼクローザスは周囲の会話を拾うことができるので状況は把握できる。ララ皇女がクレド様を促しその特殊艦に乗り込むのが見えた。それはゆっくりと浮上し、再び空間に飲み込まれ消えていった。俺は軟着陸した巡洋艦から出てきた兵士に取り囲まれ降伏した。マユ皇女とフェオも囲まれている。助けに行ってやりたいがもう体が動かなかった。
俺はサル助共に人形から引きずり降ろされ拘束された。乱暴な連中で数発殴られる。マユ皇女とフェオも捕まっている。俺たちは一ヶ所へ集められた。フェオはまた蹴り飛ばされている。
「少尉殿、助けて」
目に涙をため懇願してくる。
「無理だ。どうにもならん」
「そんなぁ」
「お前も帝国軍人なら潔く腹をくくれ」
本当に泣き出す始末だ。フェオには気の毒だが、こうなってはもはや神頼みである。
「ハーゲンさん、フェオさん、お迎えが来ましたよ」
俺たちの上方にまばゆい光の玉が20ほど現れた。それは鋼鉄人形へと姿を変えた。20騎の人形は轟音を立てながら俺たちの周囲に着地する。右肩に天使と竜をあしらった紋章はアルマ帝国の国章、左肩には朱色の盾と剣のマーキングが見える。こいつらは最強の帝都防衛騎士団だ。
「何処からテレポートしてきたんだ」
「帝都ですわ」
「そんなことが可能なのですか?」
「ええ、姉様のお力であれば可能です」
マユ様のいう姉様とは第1皇女のネーゼ様のことで、次期皇帝の才女である。
「一度に20騎も……どれだけの霊力が必要なんだ」
その底なしの霊力には唯々唖然とするしかない。俺が唯一惚れた女性。今は手が届かない所にいる女性であった。
「投降しろ。宇宙戦用の火器を地上で使用した。連合法違反だ。しかも皇女殿下へ向けて発砲するなど言語道断だ。罪は重いぞ」
20騎のゼクローザスは一斉に剣を抜く。その姿は壮観そのものだ。俺たちを囲んでいた兵士は全て銃を下ろし跪いて両手を上げた。巡洋艦も降伏の発行信号を発信している。
「姉様はここにあなたがいる事を精神会話にてお伝えしました。そうしたら騎士団をテレポートで送ってくださいました。今もお気持ちは変わらないのでしょう」
そうか、変わらないのか。
俺は帝国最強のドールマスター。かつて第一皇女のネーゼ様と恋仲となり、辺境へ左遷された男だ。
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