魔法の行使
「さて、俺がお前らを召集したのは他でもない」
俺の一言でその場にいる全員が息を飲む。一人ずつ見ると妙に緊張してるようで何か自分が間違ってることをしてるみたいで嫌になる。
「そ、それで兄さん急にどうしたんですか?」
「そ、そうだぜ。兄貴がいきなり呼び出すなんてびっくりしちまったぜ!」
「いや、そんなにビックリすることでも無いんじゃないんかな?特に最近の二人の様子を見れば特に分かりやすい話だし」
「やっぱり、ロナがいると話が早くて楽だな」
「褒めても何もないよ…お父さん」
俺は思わず冷や汗を流してしまう。ロナの言ったことが今回の緊急兄弟会議の理由なのだが、別の意味でもロナは厄介だったりする。
実は俺から離れられないのは普段から甘えた態度を取るルナではなく、やけに弟分として慕ってくるセイでもない。
やけに俺を父親…というか、安心できる存在として依存してくるロナなのだ。
現にロナは今、俺の後ろから寄り掛かっており突き放そうにも普段より何も言わずに体重を預けてくるのでできる気がしない。
「はあ、ロナの姉貴のあれがまた出たよ」
「全く、姉さんばかり甘えてずるいです」
ルナはそう言うと俺の膝に頭を乗せてくる。こう言ったスキンシップはまだこれくらいなら過剰ではないのでいいのだが少しでも俺の本能が普通の人間なら一線くらいは超えてそうなものだ。
「セイは何かやって欲しいことはあるか?」
「うーん、俺はゲームでも一緒にやってくれればいいよ」
「おお、それならお安い御用だ」
俺がそう言うと流石に邪魔だと思ったのか二人は不満そうに離れて俺と同じようにゲームの準備をする。
寮に一応テレビはあるので少し頑張ればテレビゲームくらいすぐにできるだろう。
「さて、終わったし始めるか」
俺達は数十分の格闘の末に最終手段ネット先生の中でも賢者と呼ばれる、グー○ル先生に頼らせてもらいなんとかなったのだけどな。
さて、コードもしっかりと繋いだ。これでゲームができるだろう。
「んで、何をやるんだ?」
「うーん、みんながいるしあんまりマニアックじゃないとなるとレースゲームとか乱闘ゲームかな?まぁ、四人協力ゲームもあるけどマニアックなゲームだしね」
セイはそう言って箱の中からキノコカートというゲームを取り出した。確か、これはキノコの形をした主人公が姫キノコを助け出すためにキンオウと戦うゲームだったかな?
「兄貴、このゲーム有名だったよね?」
「あぁ、そうだけど向こうに暮らしてる間に忘れてな、帰ってからもゲームをする余裕はあんまりなかったし」
全く覚えてなさそうな俺を見て訝しげに聞いてくるセイに俺は目を逸らしながら答える。言えない、昔ですらゲームは隠れてくらいでしか余裕がなくてこのシリーズには一切手を出せてないと。
「たく、このゲームはキノコの冒険で出てくるキャラをカートに乗せてレースするゲームだぜ」
「へぇ、その種類ってどれくらいいるの?」
「ロナの姉貴!興味を持ってくれたのか!えっと、確か別シリーズのバナラとかもいたはずだから大体2、30人くらいかな?」
そう答えながらゲームを起動していく。ゲームはすでに4Pでプレイできるように設定が終わっているようでセイがゲームのタイトル画面まで開いてくれた。
「さぁ、ゲームをしようか!」
そうして、始まったゲーム大会。セイが常にトップをキープしてるもののロナが時折一位を掠め取ったりと意外と白熱していた。
いや、主にロナとセイがだ。俺は万年三位で時折アイテムラッシュでコンピュータに三位を取られることがままあり、ルナに至っては常に最下位という戦績だった。
「よし、勝った!」
「へ、まだまだ!」
そうして、今やってるのは第十三レース目。セイとロナが初めから一位と二位をキープして俺から飛んでくるアイテムでお互いに潰し合い、どっちが一位を取るかと競い合ってる。
ルナに至ってはあまりハプニングもなくアイテムもしっかりと使えてるのにも関わらず何故と思ったら答えはすぐに出た。間が悪いのだ。一度、最下位御用達と言えるお助けがアイテムが出てきて12人中6位に浮上したのだが見事に終わった瞬間に上位勢を襲う減速アイテムにやられて、タイミング悪くそれが真後ろのキャラ、更には後ろではお助けアイテムで迫ってくるコンピュータ達、そうして、何度も最下位へと転落したのである。
「おかしいです。何で私は一向に最下位から抜け出せないのでしょうか?」
本人は自覚なしか。まぁ、これは最早ある意味凄いことだと思っておこう。このゲームで技量ではなくて運だけで負ける人がいるとは思わなかった。と。
そうして、俺達の緊急兄弟会議という名のお遊び会は幕を閉じるのだった。
**
「それで、本当の用は何なのかな?」
その後、俺達は寮での規則上の消灯時間を迎えてそれぞれの部屋に帰ったのだが、ロナが二人を連れて夜闇の中から現れる。
「ちょっと待て、まだ防音を整えてない。というか、今回のは他に用があるってよく分かったな」
「防音は…何だ終わってるじゃん。いつもロウ君が私達を甘やかすのはこう言った面倒ごとの時だけだからね」
「うん、そうか?俺は時々甘やかしてるんだけどな」
「ううん、兄さんはいつもは個人個人で甘やかすけど同時に甘やかすのはこの時だけですよ」
なるほどな。俺はそう言った傾向があったのか。正直気付かなかった。
「まぁ、それだけ分かれば私の固有能力で一番邪魔の入り難い時間に押し掛ければいいしね」
固有能力。魔法よりも世界が混乱すると言われたもう一つの力。前にも少し話したがこれが何故混乱するのかという問題である。
固有能力とは例えばロナで見ると自身の魔法工程を補助するだけではなく影に潜り込んだり、翼を出したりすることができるのだ。
とは言っても他の人も同じ力と言われると違う。
この力は名前の通り本人の資質や精神、肉体などによって生まれる力であり個人個人に依存する。
それだけなら問題なんてないのだ。しかし、そこが問題だとも言える。個人個人の資質が明確になることにより社会は安定しやすくなるだろう。そこに裏がなければだ。
固有能力の先天性と後天性の違いである。固有能力には発言するのに個人差があり、生まれた時から大体7、8年程度で手に入る者を先天性と呼び、それ以降を後天性と呼ぶ。
その中でも先天性というのはその固有能力を使うに至るためのスペックが揃うことにより発現するので普通の家庭であればすぐに発現する。しかし、後天性というのは固有能力を得るための資質がうまく噛み合わずに発現しないらしく、下手をすれば一生発現せずに終わる人間が大半である。
しかし、条件さえそろえば発現し先天性よりも汎用性が高いために需要は高いとも言える。
そこらから考えてみると問題ないように見えるが大いにある。後天性の人の迫害である。特に中々発現しない人間の…。発現しないのは努力しないからとか言って甚振ったりする人間を俺は異世界で結構の数を見た。それこそ子供同士だけではなく親からの虐待としても…。
まぁ、一度この話は終わりにしよう。とりあえず、ロナ達に頼まなくてはならないことを要件を言わないとな。
「なぁ、お前達はあいつを覚えてるか?」
その一言に三人は目を逸らす。分からないからではない。知っているからこそ覚えているからこそ目を逸らしてしまう。
「兄貴、忘れるわけねぇだろ」
「そうですよ…私たちの恩人なのですから」
「あの子がいなかったら私達はここにいないじゃん」
三人とも絞り出すような声でそう呟く。
俺も同意見だ。忘れられるわけがない。あいつのことを…。
「今回頼みたいのはあいつに縁があることだ」
この話を三人は静かに聞き。静かに頷くのだった。
俺はそうして、三人にある書類を渡すのだった。
村上 リチ
それが俺達の恩人の名であり、おそらく、俺たちのせいで死んでしまった少女の名だった。
**
次の日になり、俺は朝起きて軽く伸びをする。朝は早く、外では運動部と思われる人達が朝練とストレッチをしている。どうやら、部活ができたことによって朝は少し騒がしくなり始めてるらしい。
「今日も頑張りますか」
俺はそう呟いて今回の件の書類を見直す。それは昨日話し合った件についてだった。
近々、起きるであろうこと、それを止めなくてはならない。しかし、本来は部外者である俺達はどうにかして関わらなくてはならないのだが…。
「まぁ、この手はあんまり使いたくはないけどな…」
俺は常に張っていた魔力の網である人間を追い続ける。
それによって得られる情報は今までの何倍もあり、目で見て確認するよりも、耳で聞いて確認するよりもより深く確かな情報を手に入れることができる。また、過去一日程度なら遡ることもでき、それによって一体今の状況がどうなのかと確認することができる。
「これで、しばらくは様子見だな」
俺はそう呟くと部屋を出ていつものように四人で話し合う。そうしてると、ある男が俺たちの場所まで歩いてくる。
「犬神、お前も朝早いんだな」
「む、なんだ。貴様は昨日の…楼だったか?」
「そんな大仰に言って確認しなくても分かってて言ってるだろ?」
俺の一言にスッと目を逸らす犬神。どうやら、本当に覚えているようである。そんな時、ふと、犬神の右腕にある包帯の中が見える。
「そ、それにしても朝早くから貴様は何をしているのだ?」
「…」
「どうかしたのか?我をじっと見つめて…どこを…」
ハッと俺の見てる方向に気付いたのか犬神は右腕の中身を隠すように包帯を締め直す。そして、じっと俺を見る。
「犬神…いくら何でも趣味で包帯付けるのは勿体なくないか?」
「…、し、しれたことよ我の持つ強大な力を抑えるためには常に特殊な布を付けなければならないのだからな」
「…本人がそれでいいならそれでいいが」
中身を見た俺としては強ち間違った話では無いと思えて呆れさえある。しかし、犬神はこれでごまかせたと思っているようでどこか安堵したような目をしていた。
まぁ、あれは封印というより…隠すに近いがな…。
しかし、あんな古い手法が今でも使われているという以前に…案外、この学校に来る人は普通じゃないのかもしれないな。
**視点・犬神
自分は楼と話してる中で背中に冷や汗をかいていた。部屋に戻り、一人になったところで大きく息を吐く。
「危なかった!」
少し声が大きくなるが、右腕を見られたか怪しいところである。
普段は布で隠してるので見えていないが、どうやら少し緩んでいたようで見えていたかもしれない。
しかし、見えたところで普通の人がそれが何か分かるわけもない。
「現代魔術師だのどうだのに興味はないが今はこれがバレたらまずい」
言いながらも俺は右腕を見てみる。
そこにあったのはアザのような巨大な痕があった。そこには無数に作られた魔法工程が存在しており、それは親から引き継いだ魔法という現象だった。
過去に他人から魔力回路を移植するというのはあったが、それは失敗すれば移植する側もされる側も魔法工程回路が壊れて二度と魔法が使用できなくなるものだった。
故に現代に潜む魔術師と呼ばれる魔法を使う存在は数が少なく生き残ったものはエリートとして高い自意識が存在した。
しかし、犬神にとってそれは手段でしか無く自尊心などよりもそれを隠して何か目的を果たそうとするタイプだった。
「ここに入れば何かしらの情報が入る筈だ…絶対にあいつは見つけ出す」
普段からは見えない冷たい目をした犬神はそう言って包帯を巻き直す。
**楼side
入学から5日目
昨日一昨日と授業というより説明が多かったのだが、今日から本格的な授業が始まった。
まぁ、やることは普通の学校と変わらないもので歴史や数学といった勉強もあり、折角の魔法学校なのに魔法がなくてやる気をなくしている生徒が何人か見える。
そして、昼休み。
「次の授業はお待ちかね魔法の授業だ。うちのクラスは…第三グラウンドで集合だ」
部長もとい先生からそう告げられてクラスが騒めく。
その騒めきは喜びの声であり、各々が嬉しそうに話している。中には魔法を既に独学で出来るようにした人もおり自慢をしてる人も見受けられる。
そんな中で俺は気にしておかねばならないことがあった。
「裕太やけに今日は元気がないじゃないか?」
「…」
かなり悩んでるようで俺は思わず溜息を吐いてしまう。
気にしなければいいのだが、それをしてしまえばこの件に関わるなんて無理である。
「放っておいてあげて。ちょっと受け入れられないことがあったみたいだから」
そんな風に悩んでると隣から椎菜がそう言って俺の近くに来ていた。
「それってデリケートな問題か?」
「…うん、まぁデリケートな問題ではあるかな?」
言い淀みながらも椎菜は答えてくれる。質問を間違えたとも思うが、いざとなれば強硬手段を使うしかない。
「にしても自分がどんな魔法が使えるか教えてもらえるらしいぜ。楽しみだよなぁ一体どんな魔法が使えるか」
「そ、そうだね…自分の魔法か」
俺は話せなくなってしまう。どうやら、椎菜の方もあまり元気がないようで普段よりも声が小さい。流石にこの状況で無神経になれるほど肝は太くはなかった。
そうして昼休みは気まずい状態が続き次の授業となっていた。
「さて、授業を始めようと思うがまず聞こう。この中で魔法を使えます!って奴は挙手しろ」
その言葉に数人ほど手を挙げる。俺はもちろん使えるが敢えて手をあげることはしない。あまり目立ってもいけないしこのクラスでの使えるがどの程度なのか見極めておく必要がある。
「えーと案外人数はいるな…てことで雲母坂!言いにくいな犬!一丁実演してみてくれ!」
「わ、我を犬だと!偉大なる我を愚弄するとはいい度胸しているないくら、教師とはいえでも…」
「いいからやれ犬神(いぬかみ)」
「我はいぬかみではない!犬神(けんしん)だ!」
早速、先生にいじられながらも犬神が渋々と前に出る。すると、前に出て集中に入ったのか一呼吸を吐いて目を瞑る。
そして、左腕が一瞬光ったかと思うと左の手のひらから火の玉が出ていた。
「おぉー!」
「なんだよあれくらいなら俺でもできるぜー」
反応は二つに分かれていた。
感心と自分もあれくらい簡単と言う二つ。
後者は魔法が使えると先程手をあげていた人達であり目の前のことをできると言っていた。
しかし、俺は感心側だ。
その理由は簡単。簡単そうに見えることだが目の前に起きてることは複雑かつ繊細な制御が必要でありやるのはとても難しい。
それを一瞬で成したことから犬神の練度は間違いなく一流と呼べるだろう。
その時、俺は聞き逃さなかった。
(流石は魔術師の家系と言ったところか)
その先生の小言が聞こえて俺は思わず苦笑いを浮かべる。まさか、知っててわざと犬神を選んだとは…おそらく俺が手をあげていれば一番に俺を当てていたことだろう。
「このように現実として魔法は存在する。まぁ、一人一人使えるものが違うと言うのはあるがな」
そこからは先生からの説明が入り始めた。
魔法とは魔力を変化させて起こす現象である。
魔力とは血みたいに体の中に循環してるものである。
魔力総量は基本的に増えず、個人の魔力回路の大きさにその量は比例する。
などと入った説明を受けていく。
「先生、となると魔力が少ないと不利じゃないですか?」
「良いことを聞くな。しかし、それは違う。魔法で消費される魔力は一律ではない。故に要は使い方だ。例えば下手に犬神(いぬかみ)のやったように火の塊を作ってばかりいれば魔力がすぐに底を付く。しかし、身体強化などの消費量が少ないものなら魔力量が少なくても長時間の使用もできるわけだ」
少し熱が入ってしまわなければ良い授業で終われたんだがなぁ。と思ってしまった。
因みにこれに追加で説明できることといえば一部の魔法は慣れなどで消費魔力量を減らすこともできるようになる。
案外一長一短だったりする。
「さてと、今からお前たちの使える魔法の中で簡単なものをそれぞれ教えていくから今日の授業は魔法の発動が目標だ」
そう言って先生はそれぞれに紙を配っていく。そこには個々に使える簡単ないくつかの魔法とそのコツが記されていた。
配り終わった先生はすぐに近場のベンチで俺たちの様子を眺めるのだった。
「楼、これだけ配られたけど分かるか?」
「うーん、俺は正直よく分からん。理論詰めされるのは助かるがその分時間がかかりそうだな」
「確かに俺のやつと比べてびっしり書き込まれてるな」
どうやら、人によって紙の書き方が違うようでその人個人でやりやすいアドバイスがしっかりと書かれていた。
裕太も俺よりかは軽いが理論派用に書かれていた。むしろ俺以外にこんなにびっしり書かれている人はいない…いや、一人いる。
「おーい、犬神!お前は魔法を使えるみたいだけどなに書かれてんだ?」
「楼と裕太か…我書には貴様らには理解できぬような深淵が書かれているのだよ。容易に除けば更なる深みにハマるであろう」
「おー、そっかそっか…へぇ、魔法の強度変更とかの応用編とか書かれてるなぁ…うわぁ、楼に負けず劣らずのびっしり理論詰めかよ…」
俺が紙に目を通している間に裕太が犬神の方に行き彼の紙を見て驚いていた。因みに俺と同じように理論がびっしりと書き込まれているのは言わずもがな犬神である。
因みに椎菜の方は他の女子と一緒に授業を受けていた。
まぁ、あっちにはあっちの交流があるので裕太とセットではないと再認識させられる。
「それで貴様ら神秘の顕現はできるのか?貴様らが望むのであれば我が神秘を伝授させてやろう」
「お、教えてくれるのかありがたい!楼はどうする?」
「俺は少し気になったことがあるからそっちに行くよ」
俺がそう言うと俺の視線の先に気付いた裕太が「ナンパか?頑張ってこいよ」と言って送ってくれた。もちろん違うと否定した上で俺は向かったのだが…。
「よぉ、魔法の発動が大変そうだな」
「へ?えーと、有明…君だっけ?」
俺は戸隠 凛のところに来ていた。彼女は先ほどから頑張って魔法を発動させようとしているが一向に進歩する気配が無かったのでここに来たのだ。
**
戸隠 凛は現在、恐ろしいほどの混乱の中にあった。
(え?え?なんで私にいや、そもそもこんなピンポイントになんで!?)
彼女はある隠し事があった。しかし、その件について僅かながら関わりのある有明 楼がピンポイントに来てしまい焦りが生まれていた。
「どうした?そんなに黙ってたら気まずいのだが…」
「あ…す、すいません。それでなんの御用でしゃうか」
「お、落ち着いてくれ変な噛み方してるから」
ゆっくりと深呼吸するも落ち着く気配はなくチラチラと楼の様子を見る戸隠。その様子からあの件についてバレてるかは分からないがバラされる心配は無いと思い多少は落ち着きを取り戻す。
「ふー…それで、何故私のところに?」
「見たところ一番苦戦してそうだったからな」
「そ、そうですか」
その言葉に安心を覚える戸隠。それは楼の言動からバレてる心配がないと気づけたからだ。そして、それならいっそ聞くだけ聞いてみようと聞く姿勢を取る。
「何かあるのでしたら教えてくれませんか?中々感覚が掴めないものなので…」
「まぁ、俺も詳しい訳じゃないが理論詰めのこの紙のお陰で時間はかかるが発動までいったから多少は教えられるよ」
楼がそう言って火の玉を見せるが、戸隠は期待などしていなかった。彼女の中では「また」という単語がいくつも浮かんでいた。
「えーと、確か…このページにあった。多分戸隠のは回路欠陥じゃないのか?」
そう言って楼に見せられたページは僅かに参考図が載せられたページだった。
楼が指差す先には回路欠陥について書かれていた。
時折、装置とかではわからない回路に重大な欠落が存在する。
と、大雑把に言うとそんなことが書かれているのだ。
「えーと、それなら私には…」
「いや、諦めるのはまだ早い…あくまでその欠陥を通した魔法を使うことができないだけで欠陥部分以外なら正常らしい」
それは本来なら希望もなる言葉だろう。
まだ、そんなに魔法を発動させてない人なら特に…しかし、彼女は既にいろんな魔法を試した後だった。それは彼女が魔法を使うことができないと言う現実を如実に語ってしまっていた。
しかし、楼もそれに気付いている。
「結論をそう急ぐな。戸隠の場合は多分、極小の魔法を使おうとすれば良い」
「…へ?」
楼からの言葉…それは予想外の一言にしか尽きなかった。いきなり極小の魔法を使えと言われて更なる混乱を生んでいた。
「ご、極小?」
「あぁ、極小だ。この資料によると人の魔力回路を調べる機械は一度極小の魔力を通して結果を出す。なら、装置と同じレベルの魔力でやれば理論上魔法は発動する」
馬鹿じゃないの?
そんな言葉が戸隠の中に過ぎる。しかし、折角のアドバイス不意にはできない…それでも…と言う思いが入り混じりながらも戸隠は口を開く。
「いや、それはいくら何でも不可能なんじゃ…」
「そうか?お前なら結構繊細なこと出来そうなんだが」
「まぁ、やってみますけど」
楼の言葉に悪い気はせずに挑戦だけする。
(あれ?)
ふと、戸隠は違和感を感じる。普段よりもスムーズに魔力が巡っていると思えたのだ。その驚きによって思わず魔法の行使をする前に止めてしまう。
「さすがに無理があったか?」
「…いや、、多分…いける!」
(目の色変えやがって…まぁ、気持ちはわかるがな)
楼は段々とコツが掴めてきて楽しそうに魔法を行使しようとしている戸隠を見て思わず微笑む。
やはり、極小というのは難しく中々魔法が行使できずに必至に四苦八苦する戸隠もまた笑っていた。
そして、数十分経った頃、その時は来た!
(出来る…うん、出来る!)
ボッ!
一瞬、戸隠の手から光が出る。
「えっ?」
いきなりのことで思わず魔力などを止めてしまう。しかし、確かに今…彼女の求めたものが目の前にあった。
「ほら、次落ち着いて…そして、しっかりと見てみな」
「わ、分かった」
楼の指示に従ってまた魔法を行使する。
すると、また光る。
それは、ライトとかというより熱を持つ火だった。
「ライターとかよりも小ちゃいけど間違いなく火だな…おめでとう戸隠さん」
「…あ、…できた!出来たんだ!あっ…少し落ち着かないと…」
ワンテンポ遅れてようやく理解した戸隠は喜ぶ。そして、魔法がまた消えてしまうと思い落ち着いてから楼を見る。
「ありがとう有明君」
「別にいいよ…大変そうだったし」
「あ、それなんだけど…」
「うん?なんだ」
彼女は改めて楼に向き直って気になってることを尋ねる決心を付けた。
「なんで、私のところに来たの?」
「へ?はぁ〜まぁ、好奇心は身を滅ぼす…戸隠が言ったよね。てことで」
そう言って去っていく楼に戸隠は膝から崩れ落ちていた。
そして、半泣きで去っていく楼を見送るのだった。
「…うそ、やっぱりバレてた…でも、なんで私が魔法を使えないことを…え?え?てか、色々となんでぇ〜」
先程の言葉、くノ一の少女が楼に言ったような言葉である。
そして、それの意味するところは戸隠 凛…1年4組とかそう言った肩書を持っているが、その実は『執行部』の部長ということである。
そして、彼女のポンコツぶりは筋金入りであり…楼のことを一般人だと思い込んでいらのである。
そして、楼が同じ組織の仲間だと彼女が知るのはもう少し先の話である。
**
この授業の様子を見ていた人物が三人いた。
「ふむ、最初の年からかなり粒揃いじゃのう」
そう呟く、13くらいの黒髪少女がいた。そして、その後ろの方には暮日 宗一こと楼の部長とこの学校の校長がいた。
「校長先生…この…女の子は?」
「時雨 玲一様である…こう見えて、100はいく長齢かつ日本の現代魔法業界の古株であるので口には気をつけるようにね」
「なるほど、通りで立ち姿だけで身震いがするわけか」
部長は嫌な顔を僅かにしながら少女を観察する。
パッと見、幼い少女に見えるが内に内包する魔力などは明らかに異質なものだった。
(まぁ、異世界とかに行ったものだけが強いとは限らんからな…こんな強者が今頃になって表に出ても不思議はないか)
部長の大雑把な見立てでは殆どの帰還者が彼女に勝つことはできないと考えていた。
「どした?主から辺な視線を感じるのう」
「く、暮日君…この方に失礼は…」
「いえ、別に現代に生きた魔法使いは初めて見るものでね」
「そうか、それは意外じゃのう」
部長の言葉に少女は怪しく笑いながらじっと見つめてきていた。
「このクラスはお主の要望によって成ったとも聞くが?」
「まぁ、他のクラスと比べて俺という担任の介入があったのは間違いはないですね。それがどうかしましたか?」
「いや、何でもないさ…私は私で面白いものも見れたのでのう、今日は帰るとしようかの」
そう言って少女は一人で何処か行ってしまうのだった。
それを見た部長はため息を吐き、校長は息苦しさから解放されたみたいに深呼吸していた。
「ま、全く心臓に悪い…」
「校長先生大丈夫ですか?」
「だ、誰のせいだと…」
「あのロリババァ」
「もういいわい…」
そうして、その後は滞りなく終わるのだった。
(達人の類か…あー言ったのは敵に回さないようにしたいな…まぁ、上が回してしまえば終わりなんだが…)
部長に僅かな不安を残して…
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