制裁は裏からの主義
『お前が頼み事なんて珍しいと思ったら、押し付けに来やがったな』
俺は現在部長にあることを頼み込んでいた。それは部活勧誘の時の揉め事だった。因みについでに教師が関与しやすいように他に起きた過剰な違反者や無断に貼られてるポスターなどの報告をして処罰を仰ぐ。
今回、自分は上位クラスだと鼻に掛ける一組などが多いため明確に上位下位と言う差がないと思わせるために処罰はしたほうがいいと言う名目までしっかりと用意をしている。
『全く、言い分も正しくてこちらも問題視していた分なんとも言えんが、そのやり方は下手をすればより深い溝を深めるぞ』
「それこそ、あいつらが動きそうな名目じゃないか」
俺は監視対象たる帰還者達を思い浮かべる。
彼らがこの件を無視できるわけがない。なぜなら、彼らにとってもその状況はよろしくなのだ。下手に他の帰還者と接触できない状況というのは魔王がいるかもしれないと思っている佐藤にとっては特に。それに魔力の網といいこれ以上の問題を抱えたくないのだ。
『たしかに、佐藤ならこの状況で動かないわけがないな。騒動を起こすメリットなんてあいつにはないわけだしな』
「むしろデメリットだらけだ。差別なんて学校の看板に傷つきやすい。そのせいでどちらにしろ上が駆り出すだろ?」
俺がそう話すと電話越しにため息が聞こえる。
『なんか、お前と話してると俺と同い年くらいの小狡いイメージがわくんだが?』
「いや、俺はまだピチピチの高一だけど?」
『そういう意味で言ったわけじゃないんだがな』
俺は部長の言葉をあえてスルーする。言いたいことが分からないわけではない。でも、その話に乗る気にはどうしてもなれないのだ。
「まぁ、うまくいくかいかないかは部長の手腕にかかってるぞ」
『おい、勝手にプレッシャーをかけてくるな』
俺はそうやって話をそらして笑う。最近、前と比べて本心から笑えることが増えたような気がして俺は指を折って数えてるとあることを思い出す。
「そういえば、なんで執行部の部長がこの学校に通ってるんだ?」
『…』
問いへの答えは無言だった。そこで俺は仮説を立てていく。そうして、仮説が成り立とうとした時だった。
『あぁ、そういえば個人的に入学してきてたなアイツ』
「へ?」
『いや、悪い悪い。マジで伝え忘れてた。それに俺自身あんまり執行部とは繋がりがないから顔を見ても思い出さないから忘れたわ』
「待って、俺は一気に想定外の事態を許容できるような順応性は持ってない!」
俺は一度部長の言葉を止める。そんな中で俺は思考する。今回、執行部の部長が派遣されたのは俺達だけでは信用ならないからと思っていた。
しかし、部長の様子というか日頃の行いから見ても大雑把だしあり得そうだから騙されてるとは思えないんだよな。
『それにあいつって仕事の時は影を薄くして顔を隠してるから顔も覚えれてないんだよ』
「あぁ、なんでだろう。今まで信用がないのではないかと考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた」
『おい、それは俺に対して失礼だとは思わないのか?』
部長ってよくよく考えたら恵然り、うちの部長然りと変人が多い傾向が高いんだよな。部長は婚期逃したことを酷く血涙流して…
『あぁ!なんか言ったか?』
「いや、何も言ってないよ!」
こんな風に…鋭いし…。恵も一度興味を持つとその人を徹底的に調べ上げる。そして、噂では執行部の部長は真面目なのだが初(うぶ)で男性に対して免疫が少し低いなど色々と噂は聞いている。
『まぁ、執行部の部長の件は伝え忘れてて悪かったな』
「まぁ、あんたらに期待してた俺が馬鹿だったよ」
『口の減らない野郎だな』
そうして、電話を切り俺は窓の外を見る。そこに映る校舎は電気一つ点いておらず、ほかに見える寮なども僅かに明かりの見える部屋が少しだけあるくらいだ。
「…そろそろ緊急兄弟会議でも開かないとな」
最近の三人の様子は安定してるものの交流が少なくなって不満が溜まってきてるので、どっかで時間でも取れないものかな。
**
夜が明けて、朝のホームルームの時間で先生が話していた。まぁ、部長なのだけどニッコリしながら昨日俺の仕掛けたことを言ってると何故か彼が考えたように見えるのは不思議だ。
「昨日の部活勧誘での規則違反…特にクラス差別が目立った為に新しくある一定量の規則違反をしたものは一月の奉仕活動を命じる。因みに、奉仕活動期間は部活に行けたり入れたりできると思うなよ」
そう言って生徒達を脅す姿は様になっていた。
因みに既に何故か度が過ぎた人の行動や言動の証拠映像が教師達に抑えられており、奉仕活動を命じられた人間がいるらしい。世の中、何があるかわかったものではないな。
そうして、適当な連絡を聞き流した後にホームルームは終わり次の授業に向けた休み時間に入る。
「さっきのって、ひょっとしてお前の告げ口じゃ…」
「え?何だって!」
裕太が命知らずにも何か聞いてきたのだがよく聞こえなかったな。ワンモアプリーズと人差し指を立てる。
「さっきの証拠…」
「え?何だって!」
「最早、難聴系どころか確し…」
「え?何だって!」
「もういいよ」
一体、何がもういいのだろうか?まぁ、世の中踏み入れていい領域と踏み入れては行けない領域があるのだ。
裕太は今日、それを学べるいい機会になったな。
「それはただの脅しでは?」
そうすると、ひょっこりと顔を出した椎菜がそう言ってきた。俺は確信を持って首を振る。
「そもそも、脅しとは相手を従わせようという意志がないと意味がないぞ。まぁ、別の意味でも使われることもあるが猫のように威嚇なんてするわけもないし」
「確かに、それにそれをするなら私に頼んだほうが早いよ」
「確かに」
「おい、二人して結託して俺をいじめようとするなよ!」
「はは、イッツ、ジョークいえー」
「何その似非英語!」
「遠い親戚にそんなことする訳ないでしょ」
「椎菜は今までの行いを鑑みて言ってくれ」
そうやって一日が過ぎていく。そうして、放課後になると椎菜は弓術部があると言ってポスターを持って勧誘に行った。ルナ、セイ、ロナは全員部活でいなくて俺は裕太と二人だった。
「そういえば、楼は部活入らないのか?」
「そういうお前はどうなんだ?」
俺達二人は何のためにあるのか分からない校舎の空いた多目的ホールという空間で話していた。
俺はベンチに全体重預けて座ってるが裕太は後ろから体重を掛けていた。
「うーん、正直言って悩んでんだよな」
「裕太にも悩みがあるのか」
「どういう意味だ!」
「冗談だ」
裕太は自分の扱いについて諦めてるのかため息を吐くだけでこれ以上は何も言ってこない。
多分、彼は昔からこんな感じだったんだろう。
「ていうかお前答えてねぇじゃん」
「うん、俺か…一応は決めてるがあいつのやる気次第だな」
「うぉっ、昨日の様子からしてみて意外だな!」
「失敬な、これでも考えていたんだぞ」
「いや、ブラコンシスコンが無茶苦茶発動してるだけだったから正直…」
「ひでぇ」
まぁ、自覚があるから否定はできないがあんまりな言い方に泣きたくはなる。これも身から出た錆だと思うと何故か涙が引っ込むのは何故だろうか。
「貴様ら一体何の話をしているのだ?」
その瞬間、改造された黒い制服を翻すようにして登場する存在が俺の目の前に映る。その姿は異常の一言に尽き、包帯を巻いた右腕、羽織られた改造ブレザー、黒髪、左に青、右に金色のカラコンを付けた同じクラスの男が立っていた。
まぁ、よく見てみると結構イケメンではあるがその姿が残念過ぎた。
「えっと、雲母坂 犬神(キララザカ ケンシン)だったか?」
「楼、よく覚えてるな」
「まぁ、結構キャラが濃かったし」
「ふっ、
「いや、よくわからん」
「多分、神と犬をかけてるんじゃないかな?」
俺の最後の言葉に何故か雲母坂が仲間を見るような目で見てくる。そして、裕太はなるほどと手を鳴らすが頭を捻る。まぁ、そうなるよな。
フェンリルはどちらかというと怪物の部類であり、さらに言うなら主神オーディンを飲み込んだのであって神ではないのだ。
俺と裕太は事情は違えどそう言った知識は無駄にあるからなんとも言えない。
「ところで貴様らは一体何の話をしていたのか聞かせてもらおうではないか?」
「なぜに上から…」
「裕太…そう言う年頃だから気にするな。部活について話してんたんだよ」
「ふむ、部活か実に下らない。折角我々は神秘の力を手に入れたのにも関わらず今更、凡様たる産物にこだわる必要がある」
「悪い。楼、通訳を頼む。あいつの言ってることがさっぱり分からない」
いや、俺にも分かるわけがないだろ!と突っ込みたかったが、あまりにもこう言ったことに耐性のない裕太に任せるのは酷であろう。
幸いにも少しベクトルは違うが同じような奴は同僚にいた時期もあったし(現在執行部の使いっ走りの同僚)。
「えっと、多分魔法があるのにも関わらず何で魔法がない前提のスポーツなどしかないような部活に入る必要があるのか?って感じか」
「どうやら、貴様は我が言霊が通ずるようだな」
あ、合ってたみたいだな。というか、めんどくさいなこの人。
あと、裕太はすげぇって目で見るな。偶然だから。
「して、貴様らは下らぬ遊戯に所属しているのか?」
「あ、今のは分かった。俺はまだ決めてないな。正直、どっかしら入ったら楽だからな」
「俺は一応決めているけど、まぁ状況次第だな」
俺たちはそうやって返事をすると雲母坂はフンッと鼻で笑う。なんかムカッとくるけど落ち着こう。
「所詮はそこらにいる烏合の者どもと変わらぬのか」
「うっ、今のは簡単だけどうぜぇ。というか、お前は普通に喋れないのか?」
「貴様は何を言っている?我にとってはこれが常であり、普通のことである」
「多分、素で話そうとすると緊張するんだと思うぞ」
俺はからかうような調子でそう言う。すると、予想通りに雲母坂は動揺してくれる。
「ば、ばかを言うな!わ、我が緊張などあ、あり得るわ、訳なかろう!」
「いや、お前すげぇ嘘下手くそだろ」
その様子を見て何か親近感を湧いたかのようにため息を吐いた裕太は笑いながらそう言う。
その表情にはさっきまでのような苦手意識は無いようで自然な笑みだった。
「き、貴様!わ、我を侮辱するつもりか!」
「そんなつもりはねぇよ!ただ、仲良くなりたいと思っただけだ」
ー…あの、私はあなたを…ー
懐かしい記憶と裕太がどこかダブる。姿形は似てないのにも関わらず何故か思い出される記憶。
「うん?って楼!どうしたんだ」
「え?…あぁ、裕太か」
俺は裕太の声に現実に戻される。そして、頭を振る。
今はそれを考える時間ではない。
「ふむ、今の貴様は…」
「楼だ」
「な、なんだ急に我の言葉を邪魔するとは!」
「名前だよ。犬神も貴様じゃなくて名前で呼べよ」
「…楼…これでいいのだろう」
「あぁ、それでいい」
そんな何気ないやりとりをすると裕太も自己紹介を始めていた。どこか恥ずかしそうに名前で俺達を呼ぶ犬神を見てるとどこかほっこりする。
そうして、俺達は談笑していたのだがあるものが目に映る。
「悪いな、用事を思い出した。多分、そのまま帰るからじゃあな」
「おう、また明日な」
「ふん、また逢い見える日を楽しみにしているぞ楼」
そうして、別れを告げて俺は帰宅するかのように歩き出す。
目標は補足している。どうやら、奉仕活動は終わっており全員文句がたらたらだ。
「全く、クラスの選り好みくらいいいじゃないかよ」
「それな、ろくな魔法も使えないくせしてこの学校に入ってくること自体が間違いって感じ!」
「それ言えてるわ」
などと話してる輩には少しだけ脅しでもして静かになって貰わないとな。でも、身バレはやばいからどうするかだな。うん?あそこにいるのは…。
**
上手くいくのだろうか?ただ、あいつ自身は隠す気は無いみたいだし事情を説明したら快く引き受けてくれた。
俺はあまり目立ちたく無いので正直、あいつの協力を取り付けられたのは楽だった。
「正直さぁ、下位クラスを区別しただけで奉仕活動とか意味わかんないしやる意味なくね」
「確かにそれあるわ」
そうやって話してら時だった。一人の少女が彼らの前で止まる。
「それ、あんまり穏やかな会話じゃないね」
その少女は満点と言えるような満面な笑みで彼らに話しかける。男達は何も言えずにその表情に…いや、違った。男女問わずにその笑顔に見惚れていた。
正直、こっちも思わずドキッとされるものだった。
「え、えと…三枝さん?」
「うん、そうだけどさっきから君たち下位クラスとかどうとか言ってるけどどうしたの?」
上目遣いで聞いてくる彼女に逆らえる彼女に逆らえる人はいるのだろうか。あれでもほぼ天然なのが驚きだ。
「い、いやその、クラスが上位とか下位とか分かれてるじゃないですか」
「それは初めて聞いたな、ある程度の区別をしてるとは聞いたけど。まぁ、いいかな。それでそれがどうしたの?」
「それで俺たちは部活の勧誘の時に区別してたんですけど…」
「ははぁん、もしかしてそれで奉仕活動させられて文句言ってるのね。それで君達はそれはおかしいと?」
「そ、そうよ、だって学校側も分けてるのになんで私達はそれで区別しちゃダメなのよ」
男子がだんだんと敬語になってるのを見て女子が強い口調で言う。
おそらく、大人しそうで弱気そうな三枝の見た目と雰囲気でこれで押し切れると思ったんだろう。
仮にもアイドルをしてるんだ。この程度手慣れてる筈だ。
「ふーん、それなら私で試してみる?4組が本当に才能が無いものの集まりなのか」
その場にいた誰もが息を飲む。三枝が4組だという話はもう既に広まっている。それならもっと騒ぎになってる筈だと思うが、そこは先生方というか部長が苦労している。
「あれ?しないの?もしかして…」
『負けるのが怖いの』
そんなことを堂々と言ってのける。冷たく低いその声に僅かに男子はたじろぐが女子はむしろムカッときたようで挑発に乗ってしまった。
女子生徒の魔力回路が反応を示す。それは一つの火球を生み出して三枝に真っ直ぐ飛ぶ。
「お、おい!」
男子生徒が止めようとしていたが間に合わずにその火球はかなりの速さで三枝に迫る。
時速として六十キロくらいかな。まぁ、こうして考えてる間に3メートルなんて間合いは当たってるようなものだが、その前に決着は着いていた。
チリーン
と音が鳴る。その音と共に火球は消える。
その光景に誰もが目を見開く。確かに魔法回路は優秀な方が強い。それは間違っていない。しかし、そんなもの個人個人で違いがあるので経験や使い方、努力次第では結果は変わる。
「な、何が…」
「うん?これが4組だからって差別しちゃいけない理由だよ。私は確かに帰還者の中では弱い部類だけど万全な状態なら佐藤君にも引けを取らないよ」
そう、トライアングルを握りながら笑ってのけるのだった。というか、佐藤相手に引けを取らない時点で弱い部類じゃ無いよな?
「偶然、私の魔法を消しただけで調子に乗らないで!」
「そうだ、帰還者なら俺たちより慣れてるから当然だろ!」
そう言って次は複数人で魔法をはなつ。って、あいつら馬鹿か?複数人でやると体裁が悪くなるだけじゃなくて、三枝の能力は連携もない多対一は一対一と同じだぞ。
そうして、三枝は軽く彼らをいなして、いつものような笑顔で「これで分かった?」と言って彼らから離れる。
「それで、これでよかったの?」
「あぁ、ありがとな。正直、俺一人じゃどうしようもないし助かったよ」
柱の影で隠れていた俺に三枝は話しかけてくる。もうお分かりだと思うが俺が協力を申しつけたのは三枝だ。
彼女は自分が帰還者だと話してるところを何度か見たので今回の作戦を思いついたのだ。
「ふーん、本当にどうしようもなかったのかな?」
「あぁ、俺じゃ(仕事の関係で)どうすることもできなくてな」
「まぁ、そういうことにしよっか」
訝しげに俺をジト目で見てくるが俺はスルーする。
なんか、やけに三枝が俺に対して評価してるけどそれはおそらく勘違いというやつだ。
「まぁ、私もクラスメイトがよく言われないのはムカついたしよかったよ。おっと、今から取材だ」
「お仕事頑張れよ」
「うん、じゃあね」
そうやって挨拶を交わして彼女は走り去っていく。
俺もそろそろ帰るとしますか。どうにかして介入しなくちゃいけないからな。そのためにら情報収集は大事だな。
**
「どういうことだよ、親父!」
もう、一時になろうとしていた夜中に裕太は電話越しに怒鳴っていた。その相手は裕太の実の父であり、現在では椎菜の義理の父でもある。
『言った通りだ。かの化け物を封印できるのは椎菜しかいないのだよ』
「だからって椎菜を人柱として据える気かよ…」
『仕方ない、それが椎菜の家の築いてきた歴史なのだから。それとも、お前がかの化け物をどうにかできるというのか?』
その言葉に裕太は黙ってしまう。お世辞にも裕太は優秀とは言えない。そんな事は彼自身が一番分かっている。それ故にどうにかできるなど言えることではない。
『何も無いならもう切るぞ』
そんな無情とも言えるような言葉と共に電話は切られる。
それと共に裕太は膝から崩れ落ちる。
「また…かよ。なんで皆…俺を置いてどっか行っちまうんだよ…なぁ、俺が強かったらこんなことにならなかったのかなぁ?」
答える者のいない問いは静かな部屋で嫌に響くのだった。
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