他人事じゃない!?

チュンッチュン


と定番のようなスズメの鳴き声が耳に入って来る。

その音に反応するように遠くにあった意識が手繰り寄せられるかのように覚醒されていく。



「んんっ、朝か…」



まだ眠い瞼を擦りながら俺はベッドから出る。

そそて洗面所に行き軽く顔を洗い身だしなみを整えていく。

少し前ならルナが嬉々として手伝っていたが寮に入ってからは流石にしないようだ。

しかし、ルナもこのままだと鬱憤が溜まるので近いうちに埋め合わせをしよう。

昨日である程度の問題は片付いたわけだしな。



「考え事してると頭がスッキリして来るな」



物事を考えることによって働き出した頭はもうすでに先ほどのような眠気などは無く、かなり纏まったものとなっていた。



「とりあえずの朝チェック♪」



と歌いだすような軽いノリで俺はメールを調べる。

一応、現在も仕事中なので何らかに連絡があればすぐに動けるようにしとかなくてはならないのだ。

まぁ、早々に重要な連絡があるわけもなく昨日の報告書についてくらいしかなかった。



「何もないことは良きことだな」



俺は余計に頬を緩ませながらも重要な監視対象を見張る。

俺の能力に気づいた二人は夜からの進展はなく、あとは特に問題ないようだな。


朝にやることは終えたので時間的にちょうどいいのでそろそろ朝飯でも食べるとするか。

そう思い扉を出るとそこにはすでにルナ達が部屋の前で待っていた。



「あ、おはようございます兄さん」


「兄貴、おはよう!」


「ロウ君、おはよう遅かったね」


「おはよう、わざわざ待たなくてもいいのにな」


「いえ(いや)、自分がしたいだけだから(ですから)(なので)」



三人はいつも通り声を揃えてよくわからない意地を張る。

まぁ、いつも助かってる面もあるし、何よりこいつらにあまり言いすぎると悲しそうな表情をするからな…、全く甘いとわかってるのに治せないものだな。



「まぁ、いいか」


「そうですよ、では学食に行きましょう兄さん!」



ルナに手を引かれて俺はその場を離れていくのだった。

でも、なんかこの感覚に懐かしさを覚えたのは何故なんだろうか?

いや、わかりきっていることか…



〜〜〜〜




学食で朝食セットを食べ俺学校に来ていた。



「よう、なんか可愛い子と登校してるのを見たけど彼女?」


「いきなり来て唐突な質問だな裕太」



俺は目の前に唐突に現れた裕太の頭を軽く叩く。



「なんだよ、教えてくれてもいいじゃないかよ」


「あ、悪りぃそんなつもりで殴ったわけではない。別に隠すつもりないしな」


「や、やっぱり彼女か?」


「いや違うから、というかあの状況見たら彼女より友達じゃないか?」


「いや、ダブルデートてきな?」


「その発想の出るお前に感服するわ」


「ならなんなんだよ!」


「あー…」



そういえばなんだろうな?うーん、娘と息子的な?いや違うけど近い気がする。

まぁ、このことから考えるからにやっぱりあれかな?



「関係的には兄弟かな?」


「え、兄弟なのか!?」


「まぁ、血は繋がってないけどな」



裕太はなにかを察したような表情をする。



「それってこれ以上聞いちゃいけないやつか?」


「俺的にはなにもないぞ、家族に捨てられて行き場がなくなった俺と似た者同士ってだけだからな」


「いや、ふつうに重いよ!」



裕太は叫ぶ、全く理解はできるがもう少し落ち着いてほしいものだ。

俺がそう思った矢先、裕太の頭に教科書のようなものが落ちて来た。

いや、正確には誰かの手によって振り下ろされというべきだろう。



「って、いきなり何…すん…だよ…」



そんなに威力は無かったのだが、驚いた裕太は教科書で叩いて来た人の方を向いて文句を言うもだが、だんだんと声の力が失っていく。

誰なのだろうか?裕太が邪魔で見えないな。



「裕太うるさい。もう少し静かにしないと周りに迷惑…」



聞こえてくる声、それはお世辞時にも聞こえる声とは言えなかった…筈だ。

そう、なぜか聞こえてくるような…引き込まれるような…周りの声が小さくなったような錯覚に引き込まれた。

すんだその声に俺は引きこまれたのだろうか?

しかし何故?



「し、椎菜なんでここに!」


「私もこのクラスだから…」


「いや昨日はいなかっただろ!」


「昨日は用事があった」



俺を置いて話は進んでいく。

その間に原因を探っていく。

この件に原因なんかないなんて俺は思いたくなかった。



「全く相変わらず聞こえづらいな」


「別に聞こえてるからいいと思う…」


「ああ言えばこう言う」


「それなら、裕太も…」


「はいはい、楼悪いなって、楼?」



ようやく納得のいくものを見つけたタイミングで裕太に声をかけられて意識がハッキリする。



「悪りぃ、ちょっと椎菜さん?ていう人が気になって」


「あぁ、気にすんなよ。可愛くない幼馴染だしな」


「あれ、同じ学校のやつはいないって…」



なんか、明らかに裕太は話を逸らそうとしている。

まぁ、詮索することでもないか。

そう思って閉めようとした瞬間だった。



「土御門 椎菜よろしく…。裕太とは遠い親戚でつい最近こっちに来た」



椎菜が俺の机の横から顔を出して答えて来たのだ。

黒髪黒目で目つきは多少鋭いものの全体から感じられるおしとやかな雰囲気と落ち着いた声色が彼女のきつさを緩和していた。



「って、おい!」


「何か問題?」


「い、いや、何にもないっす」


「はは、俺は有明 楼だ。よろしくな」


「うん、よろしく」



どうやら、もうすでに彼らの中に上下関係ができてるようで裕太はひどく怯えていた。

まぁ、そんなものだよな…



「にしても不思議…」


「どうかしたのか?」



椎菜はじっと俺を見つめる。



「いや、気の所為みたい」


「そうなのか?」


「そうだ、裕太用事を思い出した来て」


「お、おうってホームルームがそろそろ…」


「いいから来い」



有無を言わせぬ気迫で裕太を黙らせながら椎菜は裕太を連れて教室を出て行く。

さてと、あっちがきになるけどさっきからこっちもきになるな。

ため息を吐きつつチラリと人が集まってる方を向く。

先程からチラチラと三枝がこちらを見て来てるのだ。

おまけにいうと昨日とは別種の視線だ。

ただ、害意は無さそうだからもう少し放っておくか。

裕太達はなんとなくわかるが覗き見してみるか。


俺はそう思うと時間を見てから机に突っ伏す。



『楼には気をつけろっていきなりだな』



やはり俺の話題か。まぁ、当然すぎて何も言えんな。



『別に離れろとかいうつもりはない…、ただ得体の知れないものだって理解して』


『でも、あいつは多分危険はないぞ』


『そんなことはわかってる…でも、万が一がある』


『気にしすぎじゃないか?』


『気にしない方が無理がある!』



雲行きが怪しくなって来たな。

裕太の反応を見るに過去に何かあったのか?

そこからの話は正直、要領を得ないと言っても過言ではなかった。

しかし、お互いに共通する何かがあり、お互いにすれ違ってるという印象だ。

気がつけば二人も戻り始まったホームルームの中で先ほどの会話を考えていた。



「信じ切ってしまったから起きたかもしれない…きっと別の事情があったか…」



思わず呟く。まるで自分の失敗を聞いたように苦い気持ちになっていた。

やっぱり、気軽に覗き見るものじゃないな。



〜〜〜〜



「ほらほら、お前らどうした?自己紹介だぞ」



先生はそう楽しそうに目を細めながら俺たち生徒に自己紹介の催促をする。

あいも変わらず意地が悪いところがある人だ。

現在被害にあってる生徒達はというと…



「えっと…これなんて言うんだ?」

「こみちさん?」

「あれ、こうじじゃないか?んで、下は分かりやすいな。小路 しゅうだな!」

「いや、あれはやぶさだろ?」



「はい残念!小路、言うなよ言ったら…」



名前当てクイズをさせられていた。

ちなみに先生はノリノリで当てるまで自己紹介できないオプション付きだ。

帰れま10とか言ってるがマジで返してくれなそうな雰囲気に生徒はみんなマジだ。

途中で早く帰りたいあまり自己紹介する人が教えたら、あまり知られたくない情報などを紹介という形で暴露された生徒が出て来て必死さが明らかに変わった。

おまけに読み難い生徒ばかりで余計に困難を極めていた。


ていうか、あの名前って…



「小路 隼(こうじ はやと)じゃないか?」


「ちっ、正解だ」



先生は俺の答えに舌打ちをしながら正解と告げる。

あの人って時々意地が悪いな。


そうしてようやく自己紹介できるようになった小路 隼君は簡潔に言って終わる。


って次は俺か…



「おい、そこの似非霊師二人…」



唐突の先生の声にみんなが注目する。

しかし、その裏で僅かに裕太と椎菜が反応していた。



「こいつの名前で解答権は無しな」



さっきの言葉を訂正しよう。

こいつはただ大人気ないだけだ。


まぁ、俺の名前にそんな時間をかけることはないだろう。

そうやって名前を書くが、まず全員が疑心暗鬼になっていた。



「結構簡単そじゃね?」

「いや、あの先生のことだ、特殊な読み方なのかもしれない」

「でも、あれに特殊な読み方って?」

「当て字だらけかよ!」



あのー、皆さん?普通に読めば一瞬ですよ?悩む必要なんてない、普通にやればいいんだよ、深読みやめて…

これは思わぬほど長くなるような…



「ありあけ ろうですよね?」



そんな俺の悲しみとは裏腹に簡単に答えが出た。

答えて人は意外な人物だった。



「ちっ、正解だ三枝」



そこから言う程の時間はかからずに連絡の方に移るのだった。



「さて、自己紹介も終わったことだし部活動の話をする。

皆も知っての通りここは出来立てホヤホヤの学校だ。

故に部活をするには入部届だけではなく部活動申請書が必要となる。

最低人数の三人を満たさないと部として成立しない。

それとポスターなどはしっかりと申請しないと容赦なく破り捨てるからそのつもりで」



破り捨てるのかよ…と言うツッコミは心の中で抑え、俺は考える。

そもそもあまり部活自体考えてこなかった訳だし…しかし、俺はともかくあいつらには色々な経験してもらいたいから出来ればどこか部活に入ってもらいたい。



「…というわけで連絡事項はこれで終わりだ。気をつけて帰れよ」



そうこう考えてるうちに適当にホームルームは終わる。

ていうか最初は真面目にやってたくせに相変わらず途中から適当にやるな。



「楼、お前はなんか部活やるのか?」


「裕太か…そうだなぁ、何をするにしても保護者をしてくれてる人に聞かないとな」


「あ、そっか悪いこと聞いちまったな」


「いや、そんなに気にすることじゃないんだけどな」



どうやら裕太はこう言った話題になると気にしてしまうようだ。

あまり気にされるといい気はしないが同情とかではなくて、ただ無駄に心根が優しすぎるだけみたいでやりずらいな。



「それより裕太の方も部活はどうするんだ」


「あぁ、俺はなんかしようか考えてるけど今の所は何も…」


「因みに私は弓術部でも建てようかと思ってる」


「へぇ、椎菜は弓術部を作るのか集まるといいな」


「って、おい!」


「うん、裕太どうかしたのか?」



急に裕太が大きな声を上げるのでびっくりする。

そんな俺の問いかけに裕太の目は「俺だけなのか?」と言ってるような気がした。



「いや、椎菜がいきなり現れたことに対するツッコミはないのか!おかしいと思うのは俺だけなのか?」



というか言ったな。



「あのな、堂々と来てるやつに突っ込めと言われてもな」


「堂々って…」


「やっぱり不思議」



裕太は呆れ、椎菜は笑む。

一体なんだ…ってまさか!!

いや、ここまで堂々としてたしそれはないだろう…いやでも椎菜ならやりかねないような気がしてならない。


そうして、俺は昨日張り巡らした能力で調べるとすぐにわかった。

やっちまった…普段は意識を集中させないから気づかなかった。

まさか、椎菜が隠形の類を使うとは思わなかった。



「と、とりあえず今日はもう帰るな。どうやら待たせてるみたいだしな。じゃあな」


「お、おう。じゃあな」


「さようなら」



俺は逃げるようにその場に去っていく。

これでいい、あくまで俺は今隠形されたことに気づいてないことにすれば色々と都合がいい。

にしても、似非霊師か…まさかな

そう思いながら、俺は三人が待ってる場所に向かう。



**



楼が去ってからしばらく経った頃、椎菜と裕太は二人で残っていた。



「私、しくじった?」


「いや、完璧だったと思うが…」


「そう、なら余計にあれが何者か気になる」



そう言って椎菜は表情が険しくなる。

裕太もまたどこか表情を暗くする。



「…なぁ、やめないか?」



そして、絞り出されたような裕太の声。

その声は裕太からは考えられないような声色で聞いていた椎菜は思わず黙り込んでしまう。

小さい頃から裕太は椎菜に逆らったりすることはなかった。

ただの一度も…



「疑ってばっかりで、いい加減にしろ!そんなんであいつが喜ぶのかよ!」


「…わかってる」



そんなの分かりきっていた。

椎菜だって、それが何の解決にもならないと…。



「なら…」


「でも、怖いの!信じた瞬間、また…何かが…」



しかし、もう椎菜には止められない止まることなんてできない。

怖いのだ…信じることが…裏切られることが…



「まだお前はあいつが裏切ったと思ってんのかよ…」



裕太はそう吐き捨ててその場を去っていくのだった。




そう、二人は昔大切な親友を失った。

遠縁の親戚でとても仲の良かった、しかしそれは変わっていった。

その親友に別の友人ができたのだ。

当初、椎菜は人見知りもありその友人を警戒していた。

だが、そんな警戒も時が経つにつれてその友人への警戒も解れていった。


そんな時だったのだ。


親友は友人と共に消えてしまった。

行方不明となり騒ぎになった、しかし友人の方と思われる騒ぎはなかった。

そう、何の音沙汰もなかったのだ。

その結果、これは事件性があるとされ、今もなお二人は見つかっていないのだ。


裕太は今もなお信じ、椎菜はそれ以来より人を信じるのが怖くなっていた。


それが二人の抱えるもの…



**楼side



『ほいほい、簡単に調べてみたよ』


「ありがとうございます、夕方に頼んだのに早いですね」



現在、夕食も風呂も終えて寝るだけのラフな格好で電話をしていた。

相手は俺の所属する組織の情報部署の部長を担ってるほぼ同期の恵と名乗っている少女だ。

ちなみにうちの部長は隠密部だそうだ。一応、俺たちとは別に直接的に動く部署は存在してたりする。



『最近は私が出るような仕事もないから暇なんだよね』


「なるほど、それで情報の方は」


『それならしっかりとアシを残さないように送ったよ』


「相変わらず滅茶苦茶ですね」


『まぁね〜これでも電子空間専門回路持ちですから』



そう、彼女の魔法の回路は特異で、ネット環境に直接干渉する回路を所持している。おまけに彼女自身もまたコンピュータの操作はお手の物で、電子機器を介した情報戦においては負けなしである。



『そうそう、君の情報を探ろうとしてるのが何人かいるけどどうする?』



うん、何人か?一人は心当たりがあるが…。

とりあえず、相手を探る情報でも掴めないか。



「ほんとですか?参考までその探ろうとしてる人たちの動向は?」


『うーん、バラバラだね。帰還者の情報を探ってるっぽい人とか君の学校の生徒の情報を探ったりとか、おっとこの人は君にダイレクトだね。って、これ以上邪魔すると封鎖してるのバレるから早くして』


「そこには確か帰還についての情報は入ってませんよね?」


『うん、まぁ空きはあるけど私達の情報には帰還に関する情報は隠してるよ』


「なら、その空きを適当に保管して泳がせてください」


『任せといて、空きとは言っても君のは元々そんなに不自然じゃないし楽な仕事だよ』


「ありがとうございます。助かりました」



俺はそう言って電話を切ろうとした時だった。



『ちょっと待って、君たちの部長さんから伝言があるのを忘れてた』



うちの部長から?一体なんだ。わざわざ情報部署を通して…



『部活くらいなら必要経費で落としてやる。たまには学生らしくしろ。だって。

いきなり、費用申請が来た時は驚いたよ。上の方々をどうやって説得したんだか…』


「全く、ちょうどいいんだか悪いんだか…伝言ありがとうございます」



文句を吐きながら、恵はしっかりと伝言を伝えてくれる。



『いやいや、私としては君に情報部に入ってもらいたいんだけどね』


「その話はまた今度にしてください」


『それじゃ、機会があったら口説きに行くよ。おやすみ』



そうやって軽口を叩くと俺が返事をするまでもなく電話が切られる。

相変わらず、嵐のような人だ。

そんなことを考えながら俺は送られてきた情報を閲覧する。

興味本位とは言え、気になった仕方ないことだからな…


そう、俺は他人のつもりでいた。



「…あれ、これってまさか」



そこに映り込むある名前を見るまでは…

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