報告

四月八日 入学式 約四時間の学校で大半の生徒は過ごしていた。

監視対象となる約20名の帰還者達に動きなどは無く、情報漏洩などの心配は今の所無し。

入学式にて佐藤 祐一が何らかの反応を示していた。

それ以外に特に動きは無かった。


放課後からは喫茶店にてバラバラではあるが8名の帰還者達が集まっていた。

どうやら、久々の日本のお店というものに興味を示していたようで特に危険性は無し。

その後、完全下校時刻になるまで学校に出なかった人は32名うち3名が帰還者であることを確認。

その3名をしばらくバレないように監視した結果、学校の大きな図書館に興味を示していたようで特に危険性は確認できずひとまず様子見対象として二日ほど放課後の監視対象とする。


最重要監視対象 三枝 ソナタのデータの入手。

より細かなデータの算出と検証のまとめの報告。


ーーーーー

三枝 ソナタ

魔力回路:音×3、歌×15、調律×2

速さ:SS+ 効率:C− 回転:A+ 魔力:G− 強度:SSS+

工程数:70 不能工程数:0

総合評価:E

ーーーーー


ユニーク回路を三つ持ち合わせており、展開速度、反復速度共に優秀と見える。

さらに、魔力からの変換効率も魔力も低いが強度から見るに一回に全魔力を込めても回路が焼き切れることは無いようで、能力の詳細が分かってない状態での交戦などは危険と見える。


他2人の詳細な情報は入手できず。


そのほかの特記事項は無く監視対象は全員就寝。


**


俺は報告書をてきとうにパソコンに入力すると然るべき所に送り、電話を取り出して連絡を入れる。


ニコール目の途中で相手は出た。


「報告書なら今届いたぞ」


電話からは呆れたような男の声が聞こえてきた。

その男は先程俺が報告書を送った相手で俺の上司にあたる部長だった。

本名については知らない。

偽名では智紀と名乗っていたがそれが本名なのかすら怪しい。


「なら良かったです」


「もう少しまともな報告書を書いて欲しいのだがな…」


「それなら体型化してください。

俺はそう言ったものの書き方を知らないですから」


「そこは耳が痛い話だ。

そういう俺も報告書について分からないからな」


「それなら学んでから言ってください」


俺がそう言うと『善処しよう』と返事が来て一度間が入った。


「なるほど、今日は特記事項は無くこの時間に監視対象の就寝を確認か…」


因みに現在零時を回る頃で夜中というにはいささか疑問が残る時間であった。


「まぁ、部屋の監視の方に関しては俺のツテでも行っているから嘘は確認されないな。

他も俺の確認したことと一致する。

んじゃ、これからも頑張ってくれ」


「わかったけど…、俺の必要あるか?

部長の方で確認できるのに…」


「まぁ、あくまでお前達は監視の名目で学生活を謳歌してもらうのが目的だからな。

それでも、監視の任務に関しては怠るなよ。

こっちの確認はあくまで映像だけで音を拾うことができないのだから。

そういう訳だからこれかもよろしく頼む」


「了解、部長もお仕事頑張ってください」


「生意気な奴め」


最後に部長はそう言い残して電話を切ってしまう。

それを確認すると俺は軽く伸びをして軽く気配を消した。


そして、そっと外に出る。



**



夜の森の中、真っ暗に月の光を遮る木々はあたかも化け物のように見えてしまう。


「見慣れた光景も日本と向こうで見るのでは全然違うな」


俺が異世界にいた頃では当たり前に感じた光景だが、日本の森では不気味に思えてしまう。


「それも平和だからなのか…それとも向こうではもっと危険なものがうろついていたからか分からないな」


意味のない問答を続けながらも俺は木々をくぐり抜けながら歩いていく。

あたかも探検家になったような感覚だが、実際の探検と比べると命の危険が無さすぎる。


そうして、ふざけた考えをしていくうちに開た場所に出た。

俺は森から出て開た草地に出ると辺りを見回す。


「やっぱりそうか…」


俺がそう呟くと共に身体中から光のラインが現れる。

そうして、光は空気や地面に伝わるように伸びていきやがて消える。

それを見て俺は満足に頷くと再び周りに光のラインを張り巡らせる。



「思った以上に厄介なものがこの学校にいるな…」



俺はそう言うとため息を一つ吐いてすぐ後ろを向く。



「それであんたは気付いたのか?

獣人などの僅かな異世界住人とか特殊な人間が混ざってることに…協力者さんよ」



そう、俺のクラス担任の人間が気がつけばそこに立っていた。

どこか緩そうな雰囲気は無く、物静かで刺々しい雰囲気を纏って俺の前に立っている。



「いつから気付いていた?

俺がお前の協力者だって」


「まぁ、推測だけだったら随分前から?

確信に変わったのはあんたの性格の悪さだよ。

『部長』」


「全く、ここまで気付かれていたのか」



男はそう言うといつも通りの部長の雰囲気と口調に戻って悔しそうに言う。



「理由は…まぁ、概ね面倒なのを一纏めに自分が見ようとしてるとかだな…俺含めて」


「それもあるが、お前に関しては監視の必要はないしな。

元々、教師だったから裏から手を回してここに着いたんだよ。

さっき、お前が言ったように面倒なのが集まっているようだからな」



部長はそう言ってため息をついていた。

よっぽど疲れがたまっているのだろう。



「そうだ、ここで使ってる部長の名前って本名?」


「あー、それは違うな。

というか、名前は捨ててるから本名も何も無いんだけどな。

書類上は沢山の偽名と偽の戸籍を利用してるから特に問題は無いな」



平然とそう言う部長はきっとどこか常識が欠如しているのだろう。

そう思ってると睨まれたので俺は肩を竦めてしまう。



「ていうか、報告書を送った意味無くないか?」


「いや、そうでもない。

上の方に報告するのに別の視点で纏めてくれると助かる。

それに、いつだって接触して話すことができるとは限らないしな」


「なるほどな」



それを聞いて俺は納得する。

たしかに必ずしもこう言った報告ができるわけではない。

寧ろ、お互いに制限されてる分なかなかできないだろう。



「にしても、お前がこっちの所属で助かる。

本来なら一番厄介になるのはお前になりそうだからな」


「案外、否定できないものだな」



部長の呆れ混じりの言葉に俺は否定できずに苦笑いする。

まず、俺のような奇異な存在は滅多にいない。

それは有能な部長もが頭を抱えてしまうレベルに…。



「とりあえず、こちらの監視網も張った。

これで機械系が取り付けられない箇所の監視もやり易くなったと思う」


「助かる。

いつ見てもお前のその魔法は便利だな」


「まぁ、特殊なやつだから少し集中が必要だけどな。

それより、部長の魔法はなんなんだ?

俺にバレないように使った認識阻害はわかるけどそれだけじゃないだろ?」


「悪いが秘密だ。

あと、ここでは暮日と呼べ。

お互いにここでの協力関係というのはバレないようにしなくてはな…有明君」


「それもそうだな…暮日先生」



俺たちはそう言って夜の闇に溶け込むように去って行った。

あの3人にも情報を共有させなくては動きづらいかもな。

俺はそんなことをぼーっと考えつつ静かに誰にもバレないように部屋に戻って眠りにつく。



**



俺こと佐藤 祐一はふと、目を覚ましてしまった。



「空気が…変わった?

いや、魔力…魔法が辺りに展開されているのか?」



起きた理由は簡単だ。

突然魔力の網が辺りに張られて警戒せざるを得ない状況になっていたからだ。

俺は辺りを見回すが変化は見られない。

感覚上では魔力が辺りに張り巡らされていることは分かる。

でも、厳重に隠蔽などが行われており確認は殆ど不可能に近い。

目に見えない、増してや異世界に送られた者でもない限りこの隠蔽を暴くことも…いや、異世界に送られた者でさえ見つけることすら困難と言っても過言ではない。


それだけの相手…俺の知る限りの人間には一人も該当しない。

そう、下手をすれば俺よりも一つどころか二つくらい飛び抜けているかもしれない。



「とりあえず一旦落ち着いて…メール?」



俺が落ち着いて周りをよく見てみると携帯にメールが届いていた。

親からかなと思ったが、親も少し今の俺に遠慮しているようで届くはずもない。

なら、誰だ?


俺は迷わずにメールの確認をする。



『神宮寺だ。

気付いたか?

いま、おかしな魔力が張り巡らされている。

こちらも解析などを進めてるが該当はなし。

こんな舐めたことを仕出かす奴を炙り出そうと思うんだ。

協力してくれ』



俺は確認を行うと言葉を失った。


神宮寺が頼ってきた?

あの神宮寺が?


そう、それだけ有り得ないのだ。

傲慢で自分を絶対的な強者だと信じてやまない神宮寺が頼ってきたのだ。

要するに『危険』俺の中ではそんな結論が導き出された。

どこかで俺は慢心していたのかもしれない。


魔王を一度倒し、帰還者の中でも高レベルの実力を持つことに…。



「いや、まだだ。

結論を付けるのはまだ早い!」



俺は返事を待ってもらえるようにメールを返すと思考の闇の中に身を墜とした。



**



ある男の部屋では神宮寺は荒れていた。

そう、神宮寺はこれまでにない屈辱を味わっていたのだ。

佐藤に断られるのは予想していたからか、神宮寺にとってはどうでもよかった。

しかし、これだけは看過できなかったのだ。


自分の専売特許が効かない…通じない。

自分の優位性を嘲笑うような魔力で出来た網。

勿論、破壊など不可能。



「気に食わない!」



神宮寺はそう言って魔力の網に干渉しようとする。

しかし、干渉しようとしたがそれすら叶わない。

手応えがないのだ。



「主人様…落ち着きください」



気がつけば神宮寺の隣に一人の金髪の猫耳をした少女が立っていた。

本気で神宮寺を心配して駆け寄る。



「そうか…お前がいたな」


「はい、私は主人様のすぐそばに」



少女は誰もが見惚れるような笑顔を神宮寺に向けてそう言う。

神宮寺は少し悩むような素振りを見せてから『命令』をする。



「悪いが分の悪い命令だが…。

お前はもう既にバレてる可能性が高い。

それでも、バレないようにこの魔法を仕掛けたやつを探せ」


「この命に賭けても」



そう言って少女は跪くと窓から外に出る。

それを見届けた神宮寺は舌打ちをしていた。



「何が分が悪いだ!

捨て駒じゃねぇかよ…俺が最強のはずだ…クソッタレが!」



そう、この夜…神宮寺のプライドが完全に折れたのだった。




そして、この魔法を仕掛けた張本人である有明 楼はこの状況を見て小さくほくそ笑んでいた。


そう、この魔法はただの監視魔法だったのだ。

それを知るのはほんの少数しかいなかった。

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