入学

魔技研究高等学校…それは約半年足らずで創設された新学校で魔法技術においては右に出る場はここ以上に無い。

更に高等学校とは言ったが高校と大学の二つが一貫されていて、かなりの広さを誇る高校だ。


そして、色々な事情もあり、この学校の入学者数は圧倒的に少ない…。


そう、例えば四クラス分しかクラスが用意されていない点とか…。

研究者が多すぎて使える教室の方が少ないなどとある。

まぁ、唯一良い点といえば…。


「兄さん、手が止まってますよ。

自分で食べないようでしたらそう言ったお世話も…」


ルナがそう言って箸を俺の方に向けようとするので俺は慌てて食べるのを再開する。


「大丈夫だ…少し考え事を…」


「はい、それにしても…今日の朝に兄さんを起こしに行けなかったのは少し辛いです」


ルナはそう言って忌々しそうに部屋中を見渡す。

現在、俺達は高校の寮にいる。

まぁ、敷地が広すぎる故の対処でもありこれに関しては決して軟禁や監視の目的ではない…、まぁ少し監視は含まれているが他にめんどくさい事は何もない。


まぁ、全寮制のお陰で監視が楽な点がいい点だな。


俺達は朝飯を食べ終えて学校に向かう。


「えっと、ロナが一組でルナが二組、セイが三組、俺が四組で合ってたよな?」


その言葉に三人とも頷く。

この学校は魔力回路に応じたクラス分けがされており、一組から順に魔力回路が良いことを意味している。

幸いにも俺達はそれぞれのクラスに分かれており、仕事を全うしやすい環境だった。


そうして、俺たちは登校してそれぞれのクラスで別れた。


俺が教室に入ると一つの机に人が集まっていた。


「あれは…」


大体この集まりは何なのか予想できた。


三枝 ソナタ


あいつの魔力はそんなに無いから組織としても見逃していた。

まぁ、見逃すほど弱い魔力だから四組にいて当然か…。


まぁ、厄介な魔法を使えるという事実は変わらないから魔力量で決めるのはあまり好きでは無い。

俺のような例もある訳だし。


そう頭に思考がよぎりながらも俺は自分の座席を確認して席に着く。

有明の名前だと前の席になるのが通例なのがいつも憂鬱だ。


そうしてしばらくの間ボケっとしながら朝のホームルームを待ってるとひとりの男子生徒が俺の前に立った。


「あんたも一人か?」


いきなりぼっちという名の同類ですかという質問は喧嘩を売ってるのか?よし買おうではないか。

まぁ、喧嘩を売ってる雰囲気じゃないから喧嘩をするつもりはないけどな。


「あーまぁ、そんなものかな?

うちの学校を通ってる奴の半分は魔法に興味をあまり示さなかったし…」


「ハハハ、意外と辛いからな…魔法の才能は生まれた時に大半が決まってるらしいと聞いてうちの学校の連中もな…」


それもそうか…別の魔法の学校に行く奴もいるけど、普通は諦める人が大半だよな…。


「まぁ、鬱になるのは分かるけど正直、見た感じだと余程の魔法の差がない限り覆るような気がするけどな…」


「ハハ、普通はその事を考えても結局は実行できずにある程度で満足してしまうもんなだよ」


俺の意見に男は苦笑いをしながら答えてくれる。

それもそうだなと俺は苦笑して周りを見る。


「いや、しかしながらあの有名なアイドルが同じクラスとはな」


「お前は行かないのか?」


感慨深そうに呟いているところに俺はおちょくり半々で聞くと男は首を少し振る。


「いや、近付くなら別の手段がいいだろう。

仲良くなるにはその人にとって慣れた視点じゃ周りと変わらないからな」


「お前、狙ってるのか…」


「おうよ!バリバリ狙ってるぜ!」


俺はため息をついて改めて男を観察する。

顔は良く、体系も運動部とは違うがそこそこ引き締まっている。

黒髪黒目でまぁ、格好いい普通かな?髪も染まってないし雰囲気も普通だし…目もタレ目でもなくつり目でもない…これといって特徴のないイケメンというやつか?


「まぁ、頑張れよ骨くらいならいくらでも拾って売ってやるから」


「ちょっ、玉砕前提の上に人の死体に何するんだ!」


「いいじゃん、どうせ価値なんてそんなに付かなそうだし」


「この上に追い打ち!」


こいつは面白いな…。

まぁ、流石にいじるのはやめるか。


「そういえばさっきからふつうに話してるが名前を聞いてなかったな」


「そういえばそうだな、俺の名前は日下部 裕太(クサカベ ユウタ)だ。お前は?」


「有明 楼だ。

よろしくな裕太」


「よろしくな楼!」


俺は裕太と握手を交わす。

その時、ふと視線を感じた。

俺は視線の先を誰にもバレないようにそっと見ると、その先には三枝 ソナタがいた。

一瞬、俺達をじっと見てやけに訝しげに俺を見ていた。

しかし、俺がバレないように視線を向けてることを気付いた瞬間に自然な動作であたかも偶然に見えるように視線を逸らした。


「そういえば忘れてたな…」


「うん、どうかしたのか?」


「いや、何でもない」


俺は苦笑しながら口に出ていたのかと少し反省する。

しかし、俺はそれより気になることがあった。


それは俺がこの学校に居続けることができる環境なのかだった。


まぁ、引き受けた以上は問題が起きない限りこの学校にいる予定ではある。


「そろそろ時間だな」


裕太の言葉に俺は太陽を見る。


「そうだな、もうこんな時間か…」


俺はそう言って周りを確認する。

少しずつだが周りが時間に気づいて座っていく。

裕太は一番最初の席に戻っていた。

因みに担任と思われる教師はもう既に教室の近くの壁に寄りかかっており、耳を澄ませてるようだ。


性格が悪いことで…。

そして、全員座ってある程度静かになったタイミングで教師と思われる男が入ってくる。


「みんな、おはよう。

早速だけど入学式のために並んでくれないかい?

遅くなってるし…あ、並び順は出席番号でよろしく」


教師はそう言ってドアを開けている。

緩くそう言われたが有無を言わせないような雰囲気があった。

周りの生徒はピリッとした空気を察してか何も言わずに並んでいく。


そんな時、一瞬だけ視線を感じた。

俺は視線を向けた人にバレないようにそっと見るとまた三枝がそこにはいた。

偶然か?それとも俺に何かあるのか…それとも三枝の立場的に俺について気が付いているのかもれない。


まぁ、監視してることに関してはバレてなさそうだから気にする必要もないか。


そうして、俺達は体育館に向かった。





そうして始まった入学式はやはり眠かった。

今年から開校と言うこともあり、先輩はおらず生徒会長の挨拶などの時間分は無いと言っても微々たるものだった。


『続いて新入生挨拶、佐藤 祐一君よろしくお願いします』


俺は来たと思い壇上を見る。


「暖かな春と共に私達は魔技研究高等学校の入学式を…」


壇上から聞こえて来るのは在り来たりなものだった。

まぁ、魔法を学ぶだけでそれ以外に特殊なことなんて何もない学校だからな…。

あとは、国が立ち上げたくらいだけどそんなに注視することでもないしな。


「私達は…」


俺がそう考えて眠そうに欠伸を噛み殺してる時、一瞬だけ挨拶が止まった。

何かに気がついたように周りを少し見ていたがすぐに何事もなく挨拶再開してこれ以上何事もなく終わった。


そして、入学式は終わり俺達は教室に帰っていく。




「えっと、先生の名前は暮日 宗一(クレビ ソウイチ)だ。

よろしく、この時間で教材を一通り渡すけど不備があったら言ってくれ。

それと自己紹介に関しては明日にしよう。

今日はみんな軽く学校について説明するだけで終わりにしよう」


教室に帰ると緩く担任が挨拶をすると教材を配って来る。


そして、それが終わると先生は前に立って咳払いをする。


「さて、この学校はみなさんの知っての通り魔法について研究、または行使することを重きに置いた学校です。

そして、もう一つ。

魔法が発見された理由となる異世界へ転移してしまった人たちの社会への復帰するための場所としても機能しています。

まぁ、そこらへんは対外的に公開している情報だから説明の必要はないか」


確かにこれは誰もが入れる情報だ。

もちろん、俺もこの学校に入る前にこれくらいならよく目にした。


「では、学校での説明をしましょう。

まず、この学校は特徴的なのは全生徒に順位またはランク付けを行っています。

それは全部魔法回路で決めていますが勿論、全てそれだけで決まるなんて誰も思ってません。

あくまでこれは回路の優劣が存在するのかという確認の意味で行われています。

それと、同じクラスにして実技をした場合に出る魔力の違いによる持続時間の違いでへんに上のクラスの方に鼻を伸ばされても面倒なので…」


要するに面倒事を避けるために行ったことだろう。

一番は勿論、優劣の存在を考えてのことだろう。


「最後に学ぶことですね。

一年生の間は基本的に研究も実技もしてもらいます。

しかし、二年になったらそれぞれ五つほどの選択肢から選んでもらいます。

魔法研究科、魔法実技科、魔法具研究科、魔法利用科、魔法総合科の五つです。

この説明については後々するので今日のところは解散としましょう」


先生はそう言うと軽く挨拶をしてホームルームを終わらせた。


周りを見るとやっと終わったと帰るものや談笑するものがおり、俺もルナ達が来るのを待つか…。


そう思って俺はぼーっと空を眺めていた。


**


三枝 ソナタは今現在、悩んでいた。

どうしても左前の席の男子が気になるのだ。

しかし、それは恋愛感情とは異なるものでありどこか引っかかりを覚えている感覚だった。


(なんだっけな…このなんとも言えない存在感…確か…)


ここまで考えても三枝には思い当たるものが何も見つからない。

そんなジレンマを抱えながら三枝は先生の話を聞いてると気がつけばホームルームが終わっており、帰ってもいい時間となっていた。


「ねぇ、三枝さんって…」

「そういえばこの前のライブ…」


気が付けば周りには人が溢れかえっており、とても三枝は帰れる雰囲気では無かった。

何とか対応しているとふと、廊下を歩いている神宮寺が目に映った。


その時、三枝の中で何かが線と線を結ぶように納得がいた。


(ああ、勇者みたいに存在そのものが何かに影響を与えるような…そんな雰囲気だ)


そう思って男子を見るとさっきまでとは違い三枝はその見解に納得がいっていた。


**


「お前が言葉に詰まるなんて珍しいな」


校長室で佐藤 祐一と校長が会話をしていた。


「いえ、今回少し気になることがありまして…。

つかぬ事を聞きますが俺たち以外にこの学校に帰還者はいるのですか?」


祐一は真剣な目で校長に問うが校長は分からないと肩を竦める。

それを見て祐一は困ったようにため息をついてしまう。



「何かあったのかね?

私達でよければ手伝うが?」


「いえ、大したことじゃないんです。

ただ、もし本当にあるとしたら並みの戦力じゃどうしようもできませんしね」


祐一はそう言うとわざとらしく腕時計を見て「もう、こんな時間だ」と言って校長室から退席した。


そして、一人なった祐一は一つ不可解なことに真剣に考えていた。


(あれは…魔王の気配…何でここに。

気のせいだといいんだが)


ある世界の勇者であった祐一は魔王について知っている。

そして、別世界の魔王であっても勇者の力で魔王の気配には敏感になっていた。


故に祐一の思い過ごしだけとは言えない状態とも言えるだ。

しかし、地球には勇者がいないように魔王もいないのに何故いるのかそして、魔王が何をしようとしているのか…。


それが祐一にとって不安だった。






そうして、波乱の予感を生みそうな入学の日は終えていくのだった。

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