試験終了のある日

魔法が公表されて早、半年近くが過ぎていた。

現在、新規設立されたばかりの国立高校、魔技研究学校にて…。

校名はおかしくても現在の中では魔法について最大限学べる高校である。

そして、今日その高校の入学試験を終えて合否の会議を行う日だった。


俺こと、安城 満は溜息をつきたい気分だった。

せっかくの魔法の研究の時間を奪われることに憂鬱を感じていた。


「では、ここに今日の試験の過程で取り出した魔力回路のデータがあります。

ちなみに、筆記の方で規定に達していないものは既にありません」


そう言って、どこにでもいる一般の教師は資料を配り出て行く。


研究の過程で帰還者のデータをいくつも見てきた自分から言わせてもらうと見る価値が無いデータである。


しかし、これも仕事だと割り切り資料に目を通す。


周りの俺と同類もまずは全ての資料に目を通していた。

ここにあるのは230人のデータ…入学規定数は160…いや、厳密に言えば特別枠の帰還者達を除くと140人程度しか合格にすることが出来ない。


そして、パラパラとめくっていくと、一人の生徒の情報に目が止まる。


ーーーーーーー

有明 セイ

魔力回路:強化×50、活性×2、硬化×3

速さ:A-、効率:B、回転:D、魔力:AA

行程数:328、不能行程数:45

合計行程数:283

総合評価:B+

ーーーーーーー


ぱっと見、特出することは無いが異常な点が一つだけある。

一つの行程が50もある点だ。

それは、普通のことでは決して無い。

まず、一つの行程が複数存在する場合、大体平均で2〜13ぐらいが普通といってもいい。

非常に興味が湧く…、この話も乗り気では無かったが少しだけやる気が湧いた。


そして、彼の顔と名前を覚えて次に行く。

その瞬間、さらに有り得ない資料を目にした。


ーーーーーーー

有明 ルナ

回路:unknown×1458、炎×15、氷×23、強化、加護×12、雷×3、念力×12

速さAA-、効率:S-、回転:C、魔力:S

行程数:9852、不能行程数:328

合計行程数:9524

総合評価:AAA+

ーーーーーーー


化け物かよ…unknown、それはユニーク回路を表していることを知っている。

しかし、ユニーク回路の持ち主なんて種類が多い故か滅多にいないわけではないが数が少ないので一つ持っていればいいのに、同じ回路とは言えでも四桁の回路なんて尋常じゃない。

しかし、それにしても魔力量と工程数が回路と比べて少ないな…、ということはデータに無い回路を使われているか、余程回路の一つ一つがか細いのだろう。


それでも、それを補って余りあるだけの興味がある。


一息ついて俺は再びめくっていく。

たしかに一般でも優秀な回路さえあれば普通にSなんてよく見るが、あの二人はSに達していないが別格の化け物だ…。


そして、めくる音だけが響いたが再び手が止まるようなものがあった。


ーーーーーーー

有明 ロナ

回路:unknown×unknown、unknown………

速さ:SS、効率S-、回転:error、魔力:SSS+

行程数不明 不能工程数:0

合計行程数:不明

総合評価:error

ーーーーーーー


いや、先程までとは比べものにならない。

帰還者でもこれだけの回路を持っているのは僅かしかいない。

正真正銘の化け物…、それでもこの学校に入ってくる帰還者の回路を考えれば、まだ弱い方である。

これからの検査はケチらないで最新機器を回してもらうことを申請した方が良さそうだな…。


「うん?」


そうしてめくって気になったことがあった。


ーーーーーーー

有明 楼

回路:unknown、unknown、unknown、unknown、unknown、unknown…etc…

速さ:D、効率D+、回転E+、魔力C-

行程数:157645、不能行程数0

合計行程数:157645

総合評価:D-

ーーーーーーー


これといって気になった訳では無い。

unknownの持ち主なんて意外とゴロゴロといるとしか先程から思えないが、彼の場合回路が歪過ぎて気になってしまった。

それにしても旧機器は回路の構造を10個までしか同時検査できないのが痛いな、おまけに情報が大きいとその総量も減る。

回路の構造がいくつまであるか分かるから、どれだけあるか表示できるようにしてもらおう。

しかし、他とは違って情報量も少ないし先程の気になる人達と兄弟かと思ったが、考えすぎか…。


そうして、一般の受験生の合否を定めていく。

勿論、その他にも気になった人はしっかりと合格させていく。


そして、一番の憂鬱の時間が始まる。

もう既に入学が決まっている特別生…、要するに帰還者達の処遇についてだ。

彼らは強いだけではなく、かなりの魔法の知識を溜め込んでおり、回路が弱くてもかなりの実力を保持している。

そして、つい最近機密レベルが下がった固有能力というものの存在を知っている。

監視は勿論、つけるべきだが誰が監視するとか誰をどのクラスに置くとかで現在揉めていた。


「いいや、彼は実力は確かにあるだろうけど回路が問題ではないか?故に一組ではなく落ちこぼれクラスの四組に入れた方が揉め事も減る」


「いや、しかし彼が強いと知っている帰還者から見たら…」


などと言い合ったり、愚痴を言ったりなどと対処できない状態になっている。


そして、一番の問題がここからある。


三枝 ソナタ


佐藤 祐一


神宮 司


の問題がよりにもよって同じ学校である…。


現役アイドルの三枝 ソナタは今や日本人で知らない人は殆どいないと言っていいほど人気が出ている。

そして、魔力回路そのものがあまり強力では無いが使い方によっては非常に厄介極まる。


「彼女の立場をどうするかだ…。

彼女は帰還者として出すか、逆に一般として出すか…難しい問題だな…」


「いえ、そこは彼女の意思を尊重させた方がいいかと…下手に公表など決めると次はこちらに帰還者の監禁など有る事無い事騒がれますよ。

ならば、極めて普通に本人から話すようにした方が場合にもよりますが問題が少ないかと?」


俺の言葉に全員が沈黙を示す。

半年でしっかりと帰還者というものがいるという情報は世間では一般的に知るものとなっている。

そして、帰還者の情報はあまり公表されていない。

個人情報保護や色々な名目をつけて隠しているのは固有能力などのまだ機密の情報が漏れるのを未然に防ぐためでもある。


このことは確実に混乱を生み、テロの頻発や無法化が起きる可能性も考えられている。

大袈裟だと思うが、実際起きかねない程の情報も彼ら帰還者は抱えているらしい。


「なら、佐藤 祐一はどうします?

彼は全国に顔と名前が帰還者として知られている」


「それは…いっそ売りに出してしまいましょう」


ある人の言葉に誰もが驚愕の表情を浮かべる。

いや、逆に間違っていない。

彼を表に出して学校の顔とする。

考え方として何も間違っていない。

しかし、相手はまだ子供…。


「もうここまで顔を知られている以上、これ以上名を広めても何も問題が無いと思いますが?」


そこで俺達は納得がいった。


確かに、彼に絞って外部との接触ができる帰還者にしてしまえば監視対象の警戒度を偏らせることができて負担が減る。


「それなら確かに良いな」


俺達はそう頷いて最後の最悪の問題について考えることにした。


神宮 司…、帰還者の中で最強であり王者とも言える存在…傲慢なところがあるが頭のキレと実力は本物の分、質が悪い。

彼に関しては誰もが扱い損ねている。


「彼は自由にさせるべきでは?」


「馬鹿か!あいつを自由にさせたら何が起きるのかわかっているのか?」


「しかし、監視を付けてもバレて終わり…命がいくつあっても…」


そう、不毛な言い合いが続く中だった。

それが来た。


「失礼します。

現在、通信が入りました」


「そんなの後に…いや、待て何処からだ?」


「えっと…『幻想の夜』からです」


「何?今すぐ繋がろ!」


突如とした上の通信許可に俺達は驚きを隠せなかった。

こんな会議中に通信なんてあまり無い事例である。


そうして、繋がった先は明らか編集されている声だった。

しかし、この声はおそらく音声解析をしても何も分からずに終わるだろう。


『突然だがすまないな。

挨拶は省かせて頂こう…』


「いえ、しかし失礼ながら『幻想の夜』のお方が何の御用で?」


上司の見たことのないような丁寧な対応に戸惑いを覚えるがそれよりも何よりも『幻想の夜』…。

確か帰還者を集めた特殊機関でかなり動きを見せた組織だったはずだ。


『単刀直入に言わせて貰うと帰還者の監視はこちら側もやることを頭に入れてもらおうと思ってな…、もしも入念的に見て欲しいなどがあれば受け付けよう』


まるで俺たちが今、それに悩んでいたことを知っているようではないか…。


「ならば、三枝 ソナタ、佐藤祐一、神宮 司を任せても良いのかい?」


『意外と少ないな…まぁ、了解した。

こちら側からは要望としては基本的に私どものことは探らないで貰いたい…できれば敵対したくないからな』


それだけ言うと通信は一方的に切られたようで音が聞こえなくなる。


そうして少し話し合った後、全員安心しきった顔で会議を終了させた。


そんな中で俺は考えた。

馬鹿なのか?こいつら…。


あのタイミングで通信が入った…そして、今現在、こちらの情報は筒抜けな上に何処かに『幻想の夜』の人間が生徒か教師か分からないが紛れ込んでいることを意味しているんだぞ、おまけに自然と…。


俺は何となく先行きが不安になってきていた。


研究者にあるまじき思考に入りかけて俺は一度ストップをかけていつも通りに研究所に籠る。

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