お仕事の内容
例の案件を伝えられてから一週間が経ち、詳しい説明を聞きに俺達四人はとあるファミレスの前で待っていた。
そもそも、ファミレスで重要案件を話すのか?という話もあるが、元よりこの店はこちら側の店である。
そもそも、思春期くらいの人間が多い帰還者が仕事の話をするにしても怪しまれない場所としてはこういった場所が一番いい。
さらに言ってしまえばこの店には俺達組織の専用の席があり、盗聴や盗み見に対しての対策はそこらの密室より高い。
そんなこんなで待っていると一人の男がこちらに近づいてくる。
「部長、どうしたんですか?
仕事の内容を話すだけで部長が来るなんてこと無かったですよね?」
そう、部長がこちらに歩いてきたのである。
司令などはよくやっているがそういった雑用はしないので部長とは基本的に報告くらいでしか関わることがない。
「ここでは智紀と呼べ。
まぁ、これは偽名だがな…。
その件も話すから中に入るぞ」
そう言って部長は俺達に手招きをする。
「兄さん、ぱっと見あの手招きの仕方は危ないですよね?」
「言うな…」
それは思っていても言うことではないぞルナ…。
「兄貴、確か…転移を言い訳に…」
「それ以上言ってやるな、あの人はこれに関しては気にしすぎてすぐ反応する…例え、あの動きが気持ち悪くてもだ…」
「誰が婚期逃したおじさんだ!」
「何にも言ってないからな!」
「いや、たしかに気持ち悪いから婚期逃したと…」
「「「「…」」」」
「いや、何故ここで全員黙る…」
「とりあえず、智紀さん話は中でしましょうか」
ロナはそう話を逸らして、俺達は店に入る。
そして、予約席に俺達は座り軽く注文する。
「それで、今回の案件は?」
「それは注文したものが来た後でいいだろう」
珍しいな、部長は基本的に慎重ではあるが仕事に対してここまでのんびりしてるなんて。
「まぁ、今回の仕事はのんびりしていても大丈夫だからな…他意は無い」
「そうか…珍しいな忙しく無い案件なんて…」
「悪かったな、基本忙しい案件しなくて…」
部長の言葉に俺達は乾いた笑いを漏らす。
「お待たせしました、お飲み物と…」
じきに店員さんが来て俺達の頼んだ物を置いていく。
「そして、資料の方をお持ちいたしました」
瞬間、俺達の息が詰まる。
そう言って渡されたのは俺達の四人分の資料である。
「悪いな、どうした、有明?鳩が豆鉄砲を食らった顔なんてして?」
「いえ、部長…これは楼さん達が可哀想ですよ。
いきなり、私のような普通に見える店員から資料なんて渡されたらビビるどころじゃありませんよ?
情報漏洩を疑います」
店員さんはそう笑いながら言って、去って行った。
それを見て俺達は幾分か落ち着いた。
「悪いな、少し驚かそうと思ってな…」
「やめてくださいよ…心臓に悪いですから…」
俺は息を大きく吐きながら部長を睨む。
「これだから…」
「セイ君、何かな?」
この人は男なのになんでこんな婚期に関して無駄に鋭いし、逃しまくってだろう…。
というか、セイ…それは禁句だから思っても口にしない方が…。
「今…楼からもおかしな気配が…」
思うのもいけないだと!
この人、怖い!特に抑揚の無いその言葉と笑っているのに笑っていない顔、そして、目のハイライトが消えてる点とか色々と!
「とにかく智紀さんの婚期を逃した話はどうでもいいので、仕事の内容をお願いします」
ロナがそう言って部長を催促する。
「どうでもよくねぇし!
というか、婚期逃してねぇし!
未だ、希望だってあるし!
俺だって本気出せば…」
「ど、う、で、も、い、い、の、で」
「っあぁ、すまない取り乱した」
ロナの威圧にやられて部長は正気に戻り、咳払いをする。
「まず最初に事の経緯を話そうか…。
これに見覚えはあるか?」
そうして、部長は数枚の写真を俺達の前に置いた。
そこには一人の少女の写真が写っていた。
「これってどこかで…」
俺がそう首を傾げるが思い出せない。
三人の方を見たが見覚えはないらしい。
「やはり、お前達は知らないよなぁ」
部長はそう言ってため息を吐くと次にその少女のプロフィールを取り出す。
いや、これって個人情報じゃないか?
「安心しろ、関係ない人間の情報なんて勝手閲覧して取り出さない」
俺の目に気がついたのか、部長はそう言った。
「なら、何でこのタイミングで…」
「とりあえずプロフィールをよく見てみろ年齢とかもしっかりとな、安心しろ、スリーサイズと身長体重などは書いていない、関係ないからな」
ということは、ここに書かれていることは全部関係あるのか?
えっと、名前は三枝 ソナタ。
年齢は俺と同じか…他に特筆することはアイドル…通りで見たことが…他は三年前から歌の感性を鍛えるために世界旅行…それから帰ってきた去年くらいから人気が出た点かな?
「…あれ?これって…」
元社長令嬢…立て直しに失敗して破産…それが五年前…そして、時経たずして離婚したことにより母方に育てられる。
「なるほど、要するにそういうことか…」
「分かったか?
流石は直系の日本人…、あちらの世界に最近までいたとは言えでもこちらの常識をしっかりと持っているようで何よりだ」
大袈裟だと言いたいが、現に三人はこれの矛盾に気が付いていない。
「兄さん、どういうことですか?」
ルナが考え込みながらもギブアップする。
「セイとロナも無理か?」
二人は無言で頷く。
俺はそれを見て再び部長の方に向く。
「単刀直入に言って、彼女は帰還者だな?」
「その心は?」
「まず、三年前の世界旅行だ」
資料を再び見直す。
そして一度目を閉じて息を吸う。
「未だ小学生の少女ましてや、母子家庭の子がわざわざ世界旅行に行くか?おまけに二年も…」
「悪いがそれだけでは確証にはならないだろう?」
呆れたような声を部長は漏らす。
「それだけじゃ、俺も何も思わなかった。
でも、元々は母方が働いていない可能性が高いからだ。
財産も何も破産している以上、旅行に行けてもそんな余裕があるとは到底思えないのだが?
これでも確証になっていないが、これだけの推論が出来れば充分だろ?」
俺がそう言うと部長はニヤリと笑い、頷く。
「まぁ、正解だ。
でも、なぜ彼女が発端の一つになったかは分かるか?」
「それは…彼女が帰還者でありながら組織所属せずに監視がある制限のある自由になっているから…違うか?」
「まぁ、強ち間違いではない。
一番の問題は彼女が表に出てしまっている点だ」
そうか、もし彼女が間違いを起こしたら対処のしようが場合によっては難しいからか…。
「でも、それなら止めれば…」
「もう、止められないのだよ…彼女が抜け出して路上ライブをやってしまった時点で…良くも悪くも才能があったせいでデビューしてしまった…」
なるほど、何度も繰り返されるうちにいいようにやられたわけか…。
「でも、そんな頻繁に抜け出せる場所じゃ…」
「普通の帰還者ならな、隠密系持ちは大抵こちらでも向こうでも裏に関わってしまうからな。
しかし、彼女はこちらでも向こうでも裏を知らないわけだ」
要するに彼女は隠密系魔法を使えるのか…それとも…。
「と言うことは、俺達は暗殺を…いや、違うなそれだったら部長が来た意味も俺以外も来た意味が分からない」
「察しがいいな、お前達には半年後に指定された学校の特定の学科に入学してもらう」
その言葉に俺達は驚愕する。
「え、でも私は…」
「勿論、ロナ君にも今回のは引き受けてもらう。
これは監視の任務だからね、基本的な手続きはこちらが全て引き受けておくから君達は今から伝える案件からどうするべきか考えてくれ」
部長はそう言って笑うと再び飲み物を注文する。
「まず、今回の案件の発端は先程の彼女もあるが、それが全ての理由ではない。
まず、上の連中は魔法の情報を公開するタイミングを見計らっていた。
そのタイミングで彼女が現れたから情報公開が早まってしまった」
その瞬間、現在放送されていると思われる動画を小型テレビで俺達に見せる。
そこにあったのは会見で魔法の存在について話している人だった。
その人の横には政府と思われる人間がいる。
『世界には魔法というものがあります…』
そう言って魔法について話す少年、彼は帰還者の中でもかなりの実力を持っている。
確か、名前は佐藤 祐一。
「智紀さん、これは実際に?」
「ああ、今放送されている」
いずれ来ることは分かっていたがいくらなんでも早いな…そうなると問題がいくつか上がるな…。
「アレと固有能力の開示はするのか?」
「アレは以前と変わらず、最高機密事項だ。
固有能力はワンランク下がって、少し前までの魔法と同じくらいだな」
それは良かった…今のタイミングでいくつも情報を公開すると確実に良くないことになる。
「そもそも、アレの方は何があっても機密ランクを公開するまで下げるわけにはいかない」
「それがいいと思いますよ。
私達の元いた世界では常識だったので何もありませんが、この世界で言えば混乱どころの騒ぎではありませんよ。
異世界人の私でも分かります」
ロナはそう言って画面から目を離さない。
順序は滅茶苦茶だが、お陰で俺の案件が分かった。
「要するにその指定された学校に通ってる組織に入っていない帰還者の監視をしろということか…」
「概ねその通りだ。
どこから情報が漏れるか分からないから私生活の監視も厭わないつもりでいてくれ」
「最早、一端のストーカー行為を行なわされるのか…」
セイはそう言ってどこか遠くを見ていた。
「要するに最初に配られた資料は監視対象と学校についてか?」
俺がそう言って資料を叩くと部長は首肯する。
全く面倒な案件だ。
今までの暗殺などの方がまだ楽だ。
あのアイドルが自由に動き回ってる中でほかの帰還者達が監視として軟禁状態だったら簡単に不満は爆発して、とんでもない規模の被害を想定して建てた計画なのだろう…。
「とりあえず、俺達は今のところ帰ってもいいのか?」
「あぁ、大丈夫だ。
最低でも半年は仕事が無いから安心しろ」
なるほど、受験などもしなくてはいけないから休養が入ってるのか…。
「そういえば、智紀さん。
お給料の方は…」
「…」
ルナの言葉がこの場を静寂に変えた。
「…ねぇ、お給料は?」
「…今日は俺の奢りだ。
解散するぞ…」
「話を逸らさない」
冷たい表情のルナはオーラから冷気が漂っていると錯覚してしまうほどだった。
「それで…お給料は?」
次の瞬間、色々なところが笑っていないルナの満面の笑みが向けられていないはずの俺達にも妙に印象に残った。
勿論、部長の平謝りが炸裂したのも別の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます