機関と有明家
俺こと有明 楼はいつものように仕事を終えて本部に向かっていた。
俺は普段仕事で付けている認識阻害用の布を外してある部屋に入る。
「失礼します、コードネーム『アルファ』です。
今回の仕事の報告をしに来ました」
そう言ってそう言って部屋に入ると幾人かの人がコンピュータを弄りながらも軽く会釈を返した。
してない人間と言えば、奥にいる部長と連絡を取っている人達くらいだろう。
そうして、部長の席まで行くと俺に気が付いたのか、纏めていた資料から手を離して俺を見た。
「アルファ、ご苦労だった。
今回の報告を聞こうか」
そう言った部長は俺をしっかりと見て話を聞く姿勢をとった。
「今回、魔法の違法使用…いえ、漏れたと思われる人間の捕獲に成功しました。
それのついでに大きめの組織だと思われる売買人の魔法使用者を捕えました。
死体の方は傷が少なく、霊媒師による情報の引き出しが使えると思います」
軽く行ったことと、情報の引き出しの可能手段を話す。
一人の生け捕りと損傷が少ない死体さえあれば基本的に報告する内容はこの程度で済まされる。
基本的にそう言った拷問系は専門の人に行ってもらうので大変楽な仕事である。
「ご苦労、君いや、君のファミリーにはこれからある案件を受け持ってもらう予定なのでゆっくり休むように」
「ある案件ですか…」
その言葉に俺はうんざりする。
おまけに家族もということは重大案件の可能性が高い。
「まぁ、そう気を落とすな。
今は言えないが、君の想像している任務とは違う。
諜報や暗殺などはこれからもやってもらうが、それとは別件だ」
「は、はぁ」
大抵の場合、こういった案件は碌なことがない。
「明らかに嫌な顔をするな…。
別に今回はそんな酷いものではない、それに…まだ決定事項ではない」
「そうなんですか?」
「ああ、最終で上の方で会議が行われて来週には決まるらしいから来週に例の場所で全員連れてこい」
「わかりました」
めんどくさい案件なような気がしてならないが決まってしまえば俺たちは逆らうことができない。
「では…」
「そうだ、アルファ…いや、楼君は確かこの機関の成り立ちと今の機関と君の現状について話していたかな?」
「いえ、そこに関しては聞く前に前部長が移動になってあなたに変わったので…」
「そうか…」
俺が入った時は部長は別の人が行なっていた。
そして、俺にそういった案件を話す前に移動になり去って行ったので聞く機会というものが無かった。
「では、まず君のような異世界からの帰還者で我々のような裏の機関に所属しているのは全体の何割か知っているかい?」
「確か…一割にも満たなくて、他は基本的に帰還者ようの保護の名目を付けた監視施設にて収容でしたっけ?」
「そう、君のように機関に属している場合は外で生きた方が何かと都合が良いこともあり、基本的には機関に属した者以外は普通の日常に戻ることは実質不可能なんだ。
実際、俺も部長なんて立場があるが帰還者故に制限されたお前みたいな自由は持っている」
「あれ、部長って帰還者だったんですか?
確か…前任者は…」
「元々は君が襲撃したせいで部長にも機関そのものが狙われた時用の帰還者の戦力とした方がいいとなって俺になったんだぞ…」
そういえばそうだったな…。
帰還してから一年が経っていたから忘れてた。
元々は監視の目が初日から嫌で…頭を潰そうと考えた結果、前任者を襲撃…失敗に終わったがその後成り行き上、俺はこの機関に所属することになった。
「まぁ、昔のことはいいか。
そして、言ってしまえばこの機関は帰還者だけで構成された組織なんだ。
全体の一割未満の五百人中約、五十人、正確には四十八人の帰還者の組織となっている」
「そんなにいたんですね」
「これでも一部だ、君の家族のように異世界から帰還する際に一緒にやってきた人間の所属も少なくない」
「その節はどうもありがとうございます」
実際、先程出た俺の家族というのは本物ではない…。
家族は皆、帰ってきた俺の存在を認めずに追い出されて、一緒に来てくれた奴らに甘えて家族…いや、兄弟として今は過ごしている…。
「そこに関しては問い詰めるつもりはない。
他にも沢山いるからな、それに、君は少ない方だ」
「そ、そうですかね?」
部長が頭を抱えるが一体、何があったのだろう…触れないでおこう。
「まぁ、話を戻そうか。
要するに君は現在、我々という監視があることにより、自由があり、それを制限している。
理由は分かるな?」
「はい、何度も聞かされました。
魔法による犯罪の阻止、そして、魔法という情報を他者に送る制限を課しています」
「もし、破ったなら、即刻死刑という重罪になっている。
他はそこまでではないが、機関に入ってる以上はそこを厳守してもらわないと困るからな…。
まぁ、どうしようもない場合はこちらから免除なり軽くするなりしてやるからそこは気にするなよ」
そう、この組織はこういったところを徹底している。
いや、正確には徹底しなくてはならないのだ。
何も混乱は魔法だけではない。
最大の機密レベルが故に話していないこともある。
しかし、これは帰還者なら誰もが知っていて話さないことを暗黙の了解としているものが一つだけ潜んでいる。
「前にお前、言ってただろ?
何故、こちらにはパワードスーツや新型の装備を整えられないのか?と…」
「そういえば、あの時ははぐらかされましたけど何でですか?」
そういえばあったな…あの時は苦笑いされて目をそらされてたな…。
「正確に言ってしまえば予算不足だ。
そして、もう一つは上からの圧力だ」
「圧力?」
「あぁ、俺達帰還者には魔法というものが優れている。
それもそこらの一般人の何倍もな…。
それ故に、彼らは俺達には高価な装備は必要ないと考えている。
魔法で代用しろと言われているんだ…」
「待ってください、魔法とは生まれた時にある魔力回路によって使えるものが決まるのに、そんな高度な魔法がほいほい使えるわけ…」
「そこだ、上の連中は未だ魔法に関しては勘違いしている連中が多い。
基本的に上の連中は少ししか魔法の練習をしていなかったりするから理解をあまりしていない」
その話を聞き、俺は言葉を失う。
異世界でもそうだったが、権力者にまともな人間など殆どいない言ってもいい…。
「気持ちはわかる…まぁ、話はこの辺りにしておこう。
もう、遅いからまっすぐ帰れよ。
時々、お前のところから文句が来るからな」
「本当に申し訳ありません」
「いや、別にいい。
忙しい案件ばかり君に押し付ける俺にも責はあるからな」
俺はそうして、一礼をしてから帰路へ着く。
**
「ただいま」
「あ、お帰りなさい、兄さん…」
俺が家に入ると共に一人の少女が顔を出す。
背丈はそこまで大きくなく、銀髪碧眼の美少女がいた。
その少女は俺にすぐに駆け寄り、鞄を持ち、俺の羽織っていた上着を脱がして掛けてくれる。
「いつも悪いな、ルナ」
少女の名前は有明 ルナ。
俺の義妹である。
元は異世界出身でよく俺のお世話をしてくれる。
悪いと思っているのだが、言いづらい事情があった。
それは…
「いえ、兄さんのお役に立てて光栄です」
「そ、そうか…無理すなよ」
そう、笑顔である。
ルナは基本的に感情の起伏は激しい方だが、満面の笑みを浮かべることは滅多にない。
ある時は、俺は世話をしている時だった。
故に、辞めてくれとは言えない。
ここまで嬉しそうにやってくれているのに今更…まぁ、俺の甘えもあるのだが笑顔には逆らえないのが大きな理由だ。
俺は靴を脱いで家に上がる。
そして、リビングに向かう。
因みにルナは半歩後ろで俺に付いて行く形になっている。
もう、妹というより、従者のような佇まいだな…。
「ただいま」
「あ、兄貴、お帰り」
俺の挨拶にすぐに返したのは青髪の一人の少年だった。
年は同い年で14歳で…まぁ実際、ルナも含めて同い年だが、少し幼い感じの顔立ちをした美少年である。
一応、弟という名目だが確か俺よりも誕生日が早かったような…。
「ただいま、セイ」
その弟の名前は有明 セイ。
ルナと同じで異世界出身で自ら弟と昔から名乗って俺に付いて来たことからこいつとの付き合いは始まった。
「おやおや、ロウ君いつの間に帰ってきたのかい?」
「ただいまロナ姉」
そうして、台所から出てきたのは金髪紅眼のお姉さん系の美少女であった。
年齢的にも俺より少し年上に見えるその見た目でも、俺達の一つ年上である。
名前は有明 ロナ。
俺達の姉として家事をやってくれている。
そう考えると俺達男衆は何もしていないのだ。
まぁ、仕方ない。
セイはそんな機会無かったし…俺はなぜか何かやろうとするとセイも含めて全員でやらなくていいと言ってくる。
そのせいか、最近ダメ人間になっているような…。
「とりあえず、みんな晩御飯できてるから準備して」
「分かった」
「はい、姉さん」
「わかったよロナの姉貴」
三者三様の反応を示して、俺たちは晩飯の準備をして、無事に今日という日を終えたのだった。
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