闇の住人

「はは、こりゃいいぜ」


夜中の倉庫で数人の人間が笑いながら話していた。

そして、そのすぐ近くには大量の資料と物品が積まれていた。


「今日だけでこれだけの稼ぎとは…やはり魔法っていう技術は最高だぜ」


それら全てのものは盗品であり、表では売れることが少ない…しかし、彼らが元からの裏の住人であった故か、それらの売買のルートなどはすでに確保されており、足が付くことがない。


それを見られていなければ…。


「こちら、アルファ。

当初の目的通り、相手は五人、目標の補足は確認」


一人の少年の姿がそこにはあった。

布などで顔を隠しており、認識などを阻害している。

息を極力殺して、未だに無警戒に取引までの間の待ち時間として談笑している奴らを見つめていた。


『こちらポーター2、アルファ、警戒を続けなさい。

取引の瞬間を見計らって一網打尽にしなさい』


「了解」


小さな声で静かに告げると少年はより息を潜めた。


「にしても、ボスは太っ腹だぜ。

俺たちのような下っ端にもこんな凄い力の情報を教えてくれるのだからよ」


そんな重要な情報を漏らす男を見て思わずため息をつきたくなる。

そう言った情報でも誰にも掴ませないことはこの裏世界で生きていく上で重要なことである。

どこから秘密が漏れるか分からない世の中である。


(これまた、仕事が増えそうだな…、何とか外してもらおう戦闘が得意という訳でもないし…)


少年としてはここで漏れた情報で動かなくてはいけなくなったのが少し辛いところだった。

因みに先程のような報告はもうできない。


そろそろ、彼らの取引相手が来る頃だ。

あいつらは用心深く、魔力探知や電波の探知など色々と行なっているので、現在完全に遮断している状態であった。


そうしている間に入り口から何人かの男達が入ってくる。

数としては馬鹿どもと比べて少ないが、誰もがそんじょそこいらの人間とは違う圧倒的な力を持っている。


(くそっ、どれだけ仕事を増やす気だよ!

あいつらも魔法使用者かよ!)


少年の心の中の悪態もいざ知らずお互いに挨拶を始める。

まだ動くべきではない。


少年自身、初めから逃がすつもりは無かったがここまで来たら、確実に捕まえる必要が出てくる。

取引が始まって物品の受け渡しをする瞬間に動くことを考えて息を潜めて近づく。


「これが今回の品だ」


そう言って資料を渡す彼らは酷く緊張している手つきだった。


「なるほど、事前には聞いていたが有意義な情報になった」


もう一方はそう言ってお金を渡そうとした瞬間だった。


少年が動き出して男の首を刈り取る。

しかし、取引相手の方は流石というべきか軽く俺の攻撃を避けていた。

それでも馬鹿どもの代表の男は反応どころか何故死んだのかも分かっていないだろう。


「くっ、何者だ」


それでも裏世界の住人だ、仲間が一人殺されたにもかかわらず、四人となった奴らはそれぞれ銃を構えて俺を包囲する。


しかし、それは愚策だ。


彼らも魔法を使えるのならば、銃を構えながら魔法の構築をするのが定石である。


そんな中で取引相手の男達に関しては黙り込みながら魔法の構築を進めている。

そして、それ同時に撤収の準備も始めている。


(チッ、ここで逃がすわけには行かないんだよな)


内心そう呟くと先程まで使っていた剣をしまう。


「な、何だ?投降する気になったのか?」


「さ、流石にこの人数差だか…」


パンッ


俺を囲っていた奴ら少し油断した瞬間に乾いた破裂音が響く。


それと同時に四人中三人は頭を撃たれて倒れる。

その中の一人は両手と両足を撃たれて倒れ伏せる。


「グアァ!一体…な…にが…ハァハァ、くそっ」


そう言って身動きを取れなくなった一人は這いつくばるがろくに動けていない。


「チッ、思った以上に使えない奴らめ」


この光景を見て男の一人が悪態を付く。

どうやら、物品の回収をしていたようだ。


「所詮は魔力の無い奴だ『ファイヤランス』」


男が鍵言葉を口にする。

その瞬間、男の頭上に二十にも及ぶ炎の槍が顕現された。

そして、もう一人いる男は銃を構えて炎の槍と共に発砲する。


そして、すぐに男達は逃げ出す。

これ以上の抗争は足が付く可能性を恐れてなのか、それともいち早く現場から逃げ出すことの方が得策と考えたのか?


しかし、その希望は打ち砕かれる。


瞬間、倉庫の中に無数の光の線が走る。


「なっ!これは魔力回路だと!」


「馬鹿な、この倉庫は生きているとでも言うのか!」


「落ち着け、今は逃げる事が…」


三者三様の動揺を見せる中でより有り得ない光景が後ろの方で起きたことを視界の端で捉えてしまった。


弾丸や火の槍がたった一薙の魔法により弾き飛ばされたのだ。

火の槍は消失し、弾丸はもう威力も何もない鉛の塊が男達の元へと転がってくる。


「ひっ!」


「ば、化け物だ!」


そう言って三人中二人の男は這いつくばるかのように四つん這いで逃げ出す。

そして、入り口まで行き助かったと思った瞬間だった。

希望というものはあっさりと打ち砕かれる。


「どこに行くというのか?」


認識も何もなく、少年が気がつけば立っていた。

すぐそこですれ違った…しかし、それを彼らが認識するすべはもう無い。


なぜなら、もう既に首と胴が分かれて死んでいるのだから…。


「さて、あんたはおとなしく投降する?

それとも彼らのような今世からの別れがいいかい?」


男は尻餅を付き、手を上げて投降の意を示す。

少年はそれを見て軽く男を殴り、気絶させてから一息吐く。


「こちらアルファ、殲滅を完了しました。

組織的繋がりがありそうなので近くのユニットに生き残りと死体の回収の手伝いをお願いします」


『了解しました。

任務お疲れ様です、応援が来るまでの間、監視をしていてください。

そして、合流後に回収はいいのでこちらに』


「わかりました、では…」


そう何事もなく、少年は応援と合流すると同時に去って行く。

そして、今回の犯罪者のグループは死人・・も含めて回収をされて行った。


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