世界はどうやら魔法を認識したようです
ARS
プロローグ
「救ってくれんじゃなかったのかよ!」
魔王が討伐された瞬間、俺は大声で叫んだ。
涙を堪えることが出来ない、ましてや喜びすら湧いてこない。
俺の目の前に勇者や英雄は突然の俺の声に歓喜の声が止まる。
「何もしてない奴が何言ってんだよ」
英雄の一人がそう言う。
たしかにそうだ俺は何もしてない。
ただ、救ってほしいとお願いしただけだ。
しかし、それを受け入れたのは彼らでもある。
そして、今の俺はお願いしただけだであって状況を把握している筈の彼らに意見できる立場ではなかった。
しかし、今の俺はそれすら理解できないほど絶望の淵に落とされていたのだ。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!この無能者が‼︎」
英雄の人はそう言って俺を思いっきり殴る。
それだけで俺は衝撃に耐え切れずに血を吐きながら吹き飛ぶ…。
「カハッ‼︎」
他に這い蹲り、俺は血を吐き続ける。
「一度、本格的に立場を分からせないといけないようだな?無能者」
そんな中で近づいてくる英雄に対して俺はなにも思わなかった。
ただ、血を吐いて、殴られて蹴られてをされ続ける。
そんな中ではない俺は走馬灯だろうか?
ここ数年の記憶を思い出していた。
彼女がいたから俺は今もこうして生きている。
いなかったのなら俺は今、こうして生きる余地すらなかった。
この世界に紛れ込んで早々に死んでいた自信がある。
そして、今俺の目に彼女の死体が映る。
黒髪で俺と同じ時期で同じ場所に転移してきた彼女…。
望まないのに魔王になってしまった彼女…、だから、救って欲しかった…。
しかし、もう死んでしまった。
見ていたのだ。
胸を貫かれ、掻っ切られたその瞬間を…。
ならば、今の俺に意味はあるのだろうか?
「おら、どうした?何か言えよ?」
英雄の言葉など今の俺には気にする必要性もない。
考える自由、それがあればいい。
いくら身体を痛めつけられても俺には何も響かない。
彼女の笑顔、言葉、姿と比べたら天と地ほどの差だ。
ーなんでだよ…言ったよな?ー
ー死なないって…言ったよな?ー
ー置いていかないってー
ー置いていかないでくれ…どこか行かないでくれー
ー何でもするからー
俺は彼女の死体を見て泣きそうになる。
壊れそうになる。
そんな時だった…。
ーごめんね、約束…守れなかったー
そう聞こえた…。
そして、いま、本当に彼女が消えたことが分かった。
…約…束…?
あぁ…そうだ…約束だ。
俺はさらに涙を流す。
「みじめか?気持ち悪い」
そう言って英雄が俺を蹴り上げる。
おそらく涙を流した俺が…お前ごときに恐怖したと思ったのだろう…。
そんな訳がない。
約束だ…。
俺は何を犠牲にしても何をしてでも帰る。
「あの世界に!」
俺は立ち上がる。
そして、英雄を思いっきり殴る。
思いの外クリーンヒットしたようで英雄は吹き飛ぶ。
「グァッ、て、テメェ…本当に立場を分からせないといけないようだな…」
ーそうだ…俺はいらなかったー
英雄の言葉など俺の耳にはもう入らない。
ー魔法という概念として使えない俺に魔力など要らないー
魔力というものを俺は放出していく。
生命の起源とされている魔力を俺はあまり多く持っていない。
それを無駄遣いしているのだ。
ー魔力が要らない俺に魔力回路など要らないー
自分の魔力に耐え切れなくなったのか、魔力回路が火花を散らして千切れいく。
ー必要なのは何者にも変え難い力だー
そして、再び魔力回路と魔力が視認できるほど浮かび上がる。
ー世界を超え、勇者や英雄、既存の魔法をも超える力を俺は手に入れなくてはいけないー
望みだ。
渇望だ。
そして、必要だ。
約束した。
絶対に帰ると…一人でも帰ると…。
俺は自分の全てを代償とする。
力を手に入れるために魔力の全てを捨てる。
その瞬間、全ては濃密された魔力で包まれた。
俺の力の全ては勇者や英雄なんかに頼る為にあるのではない。
ここで俺は勇者、英雄を超える。
光は散り、俺の身体からは魔力や魔力回路が消える。
ここから起きたのはただの醜い殺し合いだった。
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