#54 完全無欠?の和食の朝食(昆布と鰹無双)

 さぁ、待ちに待った昆布とかつおの出汁で朝ご飯である。


 まずは、昨日の晩から浸けておいた米を炊く。


 次に和風出汁を取る。水を張った鍋に昆布を入れておく。


 その間に、他の材料を取りに厨房へ。冷蔵庫から鰹節かつおぶしと卵とブロッコリ、棚から人参とじゃがいも、レモンを出し、2階に戻る。


 まずは人参を、皮をかずに乱切りに。水から茹でて行く。沸いて来たら塩を加える。


 次はブロッコリ。小房に分け、粗方あらかた茹だった人参の鍋に追加して行く。


 米の鍋が沸いて来たので、弱火にして。


 鰹節を削る。昨日やった通りに、引き削りして行く。時折量を確認しながら。たっぷり必要な筈だ。


 さて、人参とブロッコリが茹で上がったので、ザルに丘上げしておく。


 鰹節削り器の箱を見ると、なかなかの量が削れていた。これで足りるだろうか。


 では、昆布を浸した鍋を火に掛ける。


 沸騰ふっとうするまでの間に、じゃがいもの皮を剥いて拍子木ひょうしぎ切りに。


 出汁の鍋が沸いて来た。慌てて昆布を引き上げる。火を止めて、鰹節をたっぷりと入れる。このまま少し待つ。


 その間にボウルに卵を割り入れ、解しておく。


 やがて鰹節が鍋底にしっかりと沈む。味噌汁を作る鍋に、出た出汁だけをゆっくりと静かに移して行く。鰹節の細かい破片などが入ってしまうが気にしない。


 透明で綺麗な1番出汁が取れた。壱は満足げに眼を輝かす。


 その出汁を少し分けておいて。


 出汁の鍋に、表面のでんぷんを取る為に流水で洗ったじゃがいもを入れ、まずは煮て行く。これは味噌汁になる。


 そろそろ米が炊き上がるだろうか。耳を澄ましてみると、チリチリと小さな音。火を消してふたを開けると、つやつやほかほかの白米が現れた。


 濡らした木べらで底から返し、また蓋をして蒸らしておく。


 お次はふりかけ作り。出汁殻の昆布を細く切り、鰹節が入ったままの鍋へ。そこにひたひたの水を入れると火に掛けて、沸いたら砂糖と味噌を入れて煮詰めて行く。


 次に溶いておいた卵に、先程分けておいて粗熱が取れた出汁と塩を入れ、良く混ぜる。


 フライパンを用意し、オリーブオイルを引き、焼いて行く。出汁巻き卵である。出来上がったらまな板に上げておく。


 次はマヨネーズを作る。全卵を泡立て器で良く解し、オリーブオイルを少しずつ入れながら撹拌かくはん。乳化したらレモン汁を入れて更に混ぜる。これで出来上がりである。


 仕上げに入る。まずは人参の葉をざく切りに。これは味噌汁に入れる。


 続いて粗熱が取れた出汁巻き卵を切り、皿に盛る。


 壁際の振り子時計を見る。そろそろ茂造が起きて来るだろうか。味噌汁に味噌を溶いておこう。


 ふりかけも混ぜて。


 そうしている内に、茂造が起きて来た。


「おはようのう。今朝もありがとうのう。良い匂いじゃ」


 茂造が嬉しそうに鼻をひくつかせた。


「おはようじいちゃん。サユリ起こして来てよ」


「ほいほいっと」


 茂造が洗面所に向かうと、壱は味噌汁に人参の葉を入れる。


 最後にもう1品。茹でて丘上げしておいた人参とブロッコリをボウルに移し、マヨネーズで和える。そこに鰹節を入れて更に和えて行く。


 人参とブロッコリのおかかマヨネーズ和えの完成である。


 サラダボウルに盛り、米と味噌汁もスープボウルに注ぐ。出来たふりかけも小皿に。


 出汁巻き卵と一緒にテーブルに並べ、朝食の完成である。


 我ながらその出来栄えに、壱が満足げに息を吐くと、サユリと茂造が食堂に戻って来た。


「ふむ、壱、その表情から、今日の朝食は会心の出来なのだカピな?」


 サユリが言い、眼を細める。


「うん! 昆布も鰹節も使える様になったからさ! しっかり和食を作っちゃったよ」


「それは楽しみだカピな」


 サユリがテーブルに上がり、茂造が椅子に掛ける。


「では、頂こうかの」


「頂くカピ」


「はいどうぞ」


 茂造は早速味噌汁のスープボウルを手に取り、サユリも味噌汁のサラダボウルに口を寄せる。


「おお……! 旨いのう! 昨日の昆布出汁の豚汁もとても旨かったが、鰹節が入るとこんなにも変わるんじゃな……!」


「ふむ、なるほどカピ。これが和風出汁というやつカピか。成る程、成る程……」


 サユリも茂造も、味噌汁にがっつく。どうやら相当お気に召した様だ。


 壱も一口すする。そして眼を見開いた。


 これは旨い! 上品な昆布と鰹の出汁。元の世界にいた時には日常的に食べていたものではある。しかしどうしても手間が掛かるので、顆粒かりゅう出汁に頼ってしまっていた。


 きちんと出汁を取ったらこんなにも美味しいのか。驚いた。


 そしてふりかけを米に乗せて食らう。これもまたふくよかな良い味が出ている。出汁殻だしがらではあるが、充分に旨味を残しているのだ。


「壱、このふりかけとやらを我の米に乗せるカピ」


「はいよっと」


 乗せてやると、サユリは早速口に含む。じっくりと咀嚼そしゃくし、満足そうに眼を細める。


「残りのふりかけとやらを米に万遍なく米に乗せておくカピ」


「はいはい」


 その通りにしてやると、サユリは味噌汁と米のループを始める。


「サユリ、それも良いけど、和え物と出汁巻き卵も食べてやってな」


「ふむ。これはいつもの卵焼きとは違うのだカピか。この人参とブロッコリは何味カピ?」


「おかかマヨ。鰹節とマヨネーズで和えてあるんだ。合うよ」


「ほう、おかか。鰹節の別名カピか……」


 サユリが興味を示す。茂造は既に口にして、目尻を下げていた。


「おかかとマヨネーズなんてハイカラな味付けじゃの。しかしこれは旨いのう。マヨネーズがまろやかで、おかかの風味が良く合っておる。しかしこのマヨネーズはあまりしつこく無いんじゃな」


「全卵使って作ってるし、量も控えめだからね。鰹節の風味を生かしたいから、野菜全体に軽く絡まる程度」


「成る程のう。いろいろな食べ方があるんじゃのう」


「出汁を取るだけじゃ無いよ。味付けにも使えるからね」


「ほうほう」


 茂造が嬉しそうに笑う。


「ほう、では我も食べてみるとするカピ」


 サユリがおかかマヨネーズ和えに口を寄せる。ブロッコリを口に含んでじっくりと咀嚼。


「うむ、成る程カピ。これは良いカピな。マヨネーズと鰹節が良く合っているカピ。両方甘いカピが、違う甘さだカピ」


「良かった、気にいってくれて」


 壱は笑みを浮かべる。


「もうひとつのこれは、出汁巻き卵と言うカピか」


「うん。いつもの卵焼きの卵液に、出汁を加えてあるんだ。焼き方は一緒なんだけど、出汁が入るから卵が柔らかくなっちゃって難しいんだけど、折角出汁が取れたから挑戦してみた」


 ターナーで返し、形を整えながら焼いて行った。やはり卵焼きより難しかったのだが、どうにか形になったのでは無いだろうか。断面もなかなか綺麗に出来ていた。


 まな板の上でぷるんと色艶良い、形もそれらしく出来ていた出汁巻き卵を見た壱は、安堵あんどの小さな息を吐いていた。


 味は勿論だが、やはり見た目にも美味しそうなご飯を作りたい。特に、これから働こうというタイミングの食事である。そこはこだわりたい。


「明日からもいろいろ作ってみたいものがあるから、実験的になっちゃってごめんだけど、食べてくれたら嬉しい」


「うんうん、楽しみじゃのう」


「ま、付き合ってやるカピ」


 茂造はほっほっほっと笑い、サユリはフンと鼻を鳴らした。




 さて朝食を終え、まずは米の種籾たねもみの状態を見に行く。今日も無事に川の中でさらされていた。


 そして昼営業の仕込みに混ざる。


 昼営業は相変わらずの忙しさ。途中でまかないのバジルソースのパスタも食べて。


 やがて休憩時間に入る。


 壱は様々な調べ物をしようと、部屋に入った。

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