#16 味噌までの道程は遠いのか
「なるほど、それがこの村の前身な訳か」
「そうカピ。それから我と3人で助け合って、森の恵みを頂いたり海の恵みを頂いたりしたカピ。そして、半年も経たぬうちに他の人間が現れたたカピ。不思議とまた、罪を犯して、罪は償ったカピが、その場所にいられなくなった者だったりしたカピ。我が見たところ、みんな魔法の素養がある者ばかりたっだカピ。科学的にその関連性は証明されていないカピが、元々持っている性質以外に、内に
「そっか。それはそれで大変だよな」
壱が
「だから、この村では全員が、男も女も子どもも働かせるカピよ。勿論我の加護にはまた罪を犯させない様にする効果もあるカピ。けど、それを全て抑え込んでしまっては、個性を殺してしまう事になるカピ。なので、働かせる事で発散させ、罪の事などを考えさせない様にしているのだカピ。過去には男は仕事、女は家事と男の世話、そう考える男もいたカピが、そういう人間は結局村から出て行くカピよ。合わないし、誰にも世話して貰えないカピからな。家事も立派な仕事だカピが、時間的に家事だけだと足りないカピ。毎日家中
「でも、中にはいたんじゃないか? 働くの嫌って人」
壱が聞くと、サユリは眉の代わりに眼を
「男にも女にもいたカピよ。農業や
「ああ、うん、シェムスさんの浮気がどうこうって」
「あれも、このシステムを取っているから、あの程度で済んだカピ。シェムスは
「そして、サユリとじいちゃんが話を聞いてやると」
「そうカピ。それもガス抜きの一環カピ。基本は大丈夫カピよ。罪を犯したけども、反省して償って、本気でやり直したと思っている人間しかこの村にはいないカピ。あ、人間だけでは無かったカピね。メリアンはエルフだったカピ。他にドワーフとかもいるカピ」
「ドワーフ、聞いた事がある。背が低くて、力仕事とかが得意だって確か」
「
シンプルな様でややこしい。壱はそんな印象を受けた。下手にこちらが構えるのは良く無い事だと解っている。だが、どこが
「村人には、普通に接して欲しいカピ。我の見たところ、壱は人の
確かに
壱がベッドに入ると、サユリも壱の横に落ち着く。
「では、お休みカピ」
「お休み」
飲んだ白ワインは寝酒にちょうど良い量だった様で、壱は
朝8時。起床、洗顔、朝食。壱は茂造とサユリとともにそれらを済ませ、食堂の昼営業の仕込みに入る。
カリルとサントも時間通りに出勤して来た。
「おはようございまーっす!」
「おはようございます」
「はい、おはようさん。早速
「はーい!」
カリルは元気に返事をし、サントは小さく頷く。
昼営業は、夜とメニューが違う。まずポトフが無い。だが昨日から仕掛けておいて出来たブイヨンを、コンソメにする作業がある。それが今夜のポトフになる。
パスタはあるが、味付けが違う。昼はペペロンチーノとパジルソース、カルボナーラの3種類。カルボナーラ以外にはその日によって様々な食材が入る。今日はペペロンチーノにはベーコンとマッシュルーム、バジルにはじゃがいもとサーモンが。
他には玉ねぎにじゃがいもとにんじん、ブロッコリ、カリフラワ、豆類、ベーコンなどが入った具沢山のミネストローネを出す。
スープはクラムチャウダーと1日ごとの日替わりである。
サントは早速パンを
仕込みの途中でホール係の女の子たちが出勤して来て、ホールの掃除を始める。
「さぁて、そろそろ開店かの」
時計を見ると11時少し前だった。
「壱よ、昼のピークは1時ごろまでじゃ。儂らはそれから交代で昼飯を食べるでの。それまでは腹が減っても我慢してくれの」
「うん。大丈夫」
「よしよし」
茂造は満足げに頷く。茂造の中では、まだ壱は子どものイメージが少し残っている様だ。仕方が無い。過度に過保護などにされなければそれで良い。
そうしている内に、客が訪れた。
「あー腹減った! メリアンちゃん、今日のペペロンチーノの具は何? ベーコンとマッシュルーム? じゃあそれとパン。エールも飲みてぇけど、まだ仕事があるからなぁ!」
元気な客である。メリアンから正式なオーダーが入ると、壱はパスタを大鍋に入れる。フライパンにオリーブオイルとにんにくの薄切り、唐辛子を丸々入れて、火を点ける。
にんにくの良い香りが漂い、程よく色付いて来たら、ベーコンとマッシュルームを入れて、更に炒める。パスタの
塩
出来上がり。皿に盛り、パンと一緒に調理台に置くと、ホールに向かって声を張り上げた。
「ペペロンチーノ上がったよー!」
「は、はい!」
マユリが取りに来てくれる。手には開かれているオーダー帳。
「あ、あの、バジルのパスタ、ふたつと、カルボナーラ、ひとつ、パン3人分、注文、入りま、した」
「あ、バジル俺がやるよ。イチ、カルボナーラ頼むな!」
「おう」
マユリがオーダー帳をエプロンドレスのポケットに入れ、ペペロンチーノとパンを運んで行く。
壱はコンロに戻ると、大鍋にパスタを入れる。中にはカリルが入れたと思われる2人分が既に入れられていた。引き上げる時に間違えない様にしなくては。
次に調理台からボウルを取ると、卵を割り入れる。良く
昼営業の時には、具材にはあらかじめ火を通しておく。昼はスピード勝負だからだ。比較的ゆっくり出来る夜とは違い、みんな急いで掻っ込んで仕事に戻って行く。
バジルのパスタに使うじゃがいとサーモンも、既に火が通っている。カリルはフライパンにバジルソースと具材を入れて、しっかり温まったところに茹でたパスタを入れた。
壱もカルボナーラの仕上げに移る。ソースが仕上がったボウルに茹で上がったパスタを入れ、良く和える。卵がダマにならない様に手早く。
皿に盛り、更に胡椒を降る。横ではパジルのパスタも完成していた。壱は3人分のパンを用意する。
「パスタとパン上がったぜー!」
「はーい!」
カリルが声を上げると、メリアンが元気な返事とともに姿を現した。
「あ、マーガレット手伝ってー ボクひとりじゃ全部は無理だー」
メリアンに続いて厨房に来たマーガレットに声を掛ける。
「はぁい。あ、オーダーよぉ。ミネストローネとぉ、バジルとぉ、パン2人前ねぇ」
「はいよっと!」
カリルがまたコンロに向かう。
「壱、ミネストローネとパン頼むな!」
「おう」
メリアンとマーガレットが料理を運んで行き、カリルが大鍋にパスタを入れる。茂造はボトフに掛かりきりで、サントは洗い物に精を出す。
壱は先にパンの用意をしながら、小さく息を吐いた。
俺、いつになったら味噌の試作が出来るんだろ。
そろそろ禁断症状が出そうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます