異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
#01 目覚めたら、そこは異世界でした
ただ、ほんの少し魔法が使える、偉大なるカピバラなり。
記憶操作などをさせていただき、カピバラを飼育している某動物園のカピバラ舎に潜り込んでいる。
さて、今日こそはお目当てが来ると良いのだが。
毎日汗水
ヤツら、その毛並みはモフモフでは無い。ガシガシだ。まるで
だが、それが良い。
その、顔面とフォルムは
もちろん当の本人はそんなことは考えていないだろうが。
園内で放し飼いにされているので、いつでも構うことができる。
壱は今日もエサを買い、どの子にあげようかと、自由きままに
すると珍しく、1匹の
壱は嬉しくなり、その子にエサを差し出した。エサはカットしたトウモロコシを
カピバラは旨そうにトウモロコシを無心に
その
「すげー食欲だな。
そう言い背中を
おおかわいい珍しい、そう思った瞬間、壱の出した手はそのカピバラに
世界最大のげっ
あ、俺、もしかして仕事続けられなくなるかも。
手がこれまでの様には使い物にならなくなる可能性、それを感じた瞬間、壱は盛大に
え、カピバラって何かこう、噛まれたらやばかったっけ。
だが目眩のお陰か、痛みは感じなかった。
眼の前が真っ暗になり、意識が遠のく気配がした。
そして眼が覚めた時には。
カピバラが壱を上から
「やぁ壱。大丈夫カピ?」
幼い少年の様な声が壱の耳に届く。しかし周囲に
いやしかし、仔カピバラが、と言うか動物が喋る訳が無い。壱は寝転がったまま辺りを見渡した。
ここはどこだ。さっきまでいた
だが動物園は一部地面がコンクリートなどで
ただ、見知らぬ芝生の原っぱが広がるだけである。
「おい壱、我だ我カピ」
また声が聞こえた。また壱は周りを見る。すると。
「我だと言っておるだろうカピ!」
その台詞と共に、仔カピバラが壱の上にダイビングしてきた。見事
「ぅおふ!」
「なぜ無視をするカピ! この我が喋っておるというのに!」
ここでようやく、壱は喋っているのがこの仔カピバラだと思い至った。
「カ、カピバラが喋ってる!?」
当然の驚きである。壱の知るカピバラは決して喋らない。
撫でてやり、気持ちが良くなれば「ココココココ」と鳴く。そういう生き物だった筈だ。
「当然カピ。我くらいになると喋りもするカピ。さて壱、我がさっき噛んだ手は無事カピ?」
そう問われ、動物園で噛まれた事を思い出した。頭は混乱したまま、それでも右手を見る。
綺麗さっぱり。噛み
「な、なんとも無い」
「そうであろうカピ。我の魔法はいつでも完璧カピ」
「魔法……?」
「そうカピ。我、魔法を使えるカピバラだカピ」
駄目だ処理が追い付かない。気付けば知らない場所、喋るカピバラ。突っ込みどころしか無かった。
「さ、起きるカピ。行くカピよ」
仔カピバラはそう言うと、さっさと動き出した。壱の知るカピバラより、その歩みは早い。
こんなところでひとり置いて行かれてはたまったものでは無い。とりあえずこのカピバラは事情を知っている様だし、付いて行く以外の選択肢は無かった。
壱は慌てて起き上がり、肩から
數十分歩くと、家らしき建物がちらほらと見えて来た。人の姿も見え始める。その内のひとりの男性が、仔カピバラに声を掛けて来た。
「おうサユリ、帰ったか」
「シェムスか。今帰ったカピよ。ただいまカピ」
気安く話している。サユリ? それがこの仔カピバラの名前なのだろうか。
「てぇ事は、一緒にいるその
「そうカピ」
例のヤツ? どういう事だ。
「ならユミヤ食堂も
仔カピバラの返事に、男性は
「おいカピバラ、どういう事だよ」
「まずは黙って付いてくるカピ。そこでちゃんと話をするカピよ」
サユリと呼ばれた仔カピバラは、また歩き始める。壱は納得行かないものを感じながらも付いて言った。
それから数分歩き、仔カピバラは1軒の建物の前で止まった。
「ここカピ」
木造の建物である。キャンプ場などで良く見るバンガローの様な。別荘地に立ち並ぶ建物の様にも見える。
そう言えばここに辿り着く前に見た数件の家も、殆どが似た様な木造だった。ただ目の前の建物は、それらよりもかなり大きく建てられていた。2階もある様だ。
しかし1番の違いは、ドアの上に木製の看板が
「さ、開けるカピ」
そう促され、壱は恐る恐るドアノブに手を掛ける。レバータイプのドアノブで、下に下ろすとドアは内側に簡単に開いた。
中に広がるのは、壱にも見覚えのある景色だった。十数台の木製のテーブルが並び、それを数脚の木製の椅子が囲む。テーブルの中央には調味料入れの様なものが置かれている。奥にはまた木製のカウンタ。全体に
「カピバラ、ここって」
「食堂カピ。看板にちゃんと書いてあったカピ」
いや、読めないから。と言うか、やはりあれは文字だったのか。
「あと、我の名はサユリカピ。ちゃんと呼ぶカピ」
「あ、ああ、サユリ、ここは」
「まぁ待つカピ。茂造、茂造ー、連れて来たカピよー」
茂造。壱はその名に聞き覚えがあった。10年程前に行方不明になり、未だに見付からない壱の──
「おう、来たか、壱」
「じいちゃん!?」
母方の祖父の名前だった。そして奥から出て来た老人は、紛れも無く壱の祖父、
記憶よりは頭も白くなっているし、顔の
ちなみにその記憶は、母が
「ハッハッハッ、久しいなぁ壱よ」
茂造は
「いやあの、ここどこだよ、何があったんだよ、俺どうしたんだよ、何でカピバラが喋ってんだよ」
「まぁまぁ、落ち着け壱。ここはの、お前や
「異世界!?」
驚くしか無かった。少し前に読んだファンタジー小説に出て来た言葉。
主人公が異世界に転生し、そこで生活や冒険や戦闘したりする物語。
そう、あれは物語だ。現実では無いのだ。
……まさか現実にあったとでも言うのか?
混乱する壱に、茂造はさらに告げる。
「いや何、儂がサユリさんに頼んでお前をここに呼んだ理由はひとつじゃよ。この食堂を
「……はぁ?」
混乱の中
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます